95:異分子による崩壊
「おぉ、勇者よ!」
暗転が終わると、魔法陣の様なところに立っていた。
目の前には超絶イケメンで、アニメで見たような貴族が着るような、白い礼服を着けた男が声をかけてきていた。
は?オイオイ、異世界転生っつったら目の前にはいきなり美少女ってのがお約束だろうが。
イケメンは死ねよ。
……って、おぉ凄い、俺日本語しかできないけど、言葉が分かる。
「勇者よ、突然の召喚に戸惑っておられるだろう。
しかし、我々人類は、最早貴方にすがるしか無い状況なのです。
……どうか、我等を救っては頂けませんでしょうか。」
「お兄様、いきなりお願いしても、勇者様も困っているではありませんか。まずは色々説明せねば。」
イケメンがまくし立てる横で、兄妹らしき女性がたしなめる。
おっ、こっちは可愛いじゃんか。
はじめからこっちの女の子に相手させろよ、気が利かねぇなぁ。
話を聞くと、この2人は第一王子と第三王女らしい。
ここはダウィフェッド王国で、近くの魔族の帝国、アンヌ・ン魔帝国に侵攻されていて危機的状況らしい。
人類側は劣勢であり、最後の切り札である勇者召喚を行いこの劣勢を跳ね返そうとしていた。
これまでの経緯を説明されつつ、突然の召喚を謝罪される。
「まぁ、俺としては別にそんな事はいいからよ、何か能力を測る道具とか無いわけ?」
極力フレンドリーに話しかけつつ、果たして自分がどのような能力を持っているのか早く知りたい俺は、説明や謝罪をすっ飛ばさせて本題に入る。
兄妹は顔を引きつらせながらも、魔導師を呼んで水晶らしきモノを持ってこさせた。
「これは能力確認の水晶となります。
これで貴方のステータスを確認することが出来ますので、触れてみて下さい。」
ワクワクしながら水晶に触れると、俺のステータスが表示される。
「こ、これは!?凄い魔力や身体的なステータスですぞ!!
流石異世界の勇者様ですじゃ!」
魔導師の婆さんが驚いた声を上げる。
そうそう、これこれ。
やっぱ転生モノの王道だよな。
ニヤニヤしながらスキル欄を見ると、そこには“清潔”の単語があるだけだった。
「こ、このスキルは、……多分“洗浄”の上位スキルかとは思うのですが……。」
魔導師の婆さんがそこで口ごもる。
俺もスキルを見ると、注釈が見えてくる。
スキル:清潔
<このスキルを使用すると、自身を含めた周囲を清潔にする>
……は?え?
それだけ?
俺は目の前が真っ暗になる。
まごう事なきクズスキルじゃねぇか。
「ご、ご安心下さい、父の受け売りではありますが、スキルなど生き方の1つの指針で……」
「ス、スキルにはこれから成長すると大化けするモノも……」
「勇者様、気をしっかり……」
外野の言葉など耳に入らない。
お前等、そうやって言ってても、内心では俺を嘲笑ってやがるのだろう。
クソみたいな異世界だ。
そこから俺は荒れた。
持ち前のステータスの高さで王子を怒りの捌け口にし、殴る蹴るの毎日だ。
食事がまずければ殴り、トイレが汚いと蹴った。
前世の知識を使い、魔法で動くとはいえ水洗式のトイレや下水道を完備させた。
未開の蛮族共の国に下水道を普及してやった事を、靴を舐めて感謝して欲しいくらいだ。
だというのに、そう言ったことに感謝を示さず、スキルやステータスを伸ばすためにもダンジョンに行かないかと誘いやがったので、腹が立ったから半日近く王子を殴りつけてやった。
せめて行くにしても武器や防具はマシなモノを用意させたかったので、幾つか知識を披露してケブラーベストモドキや射出式ナイフなどを作らせた。
本当は銃を作りたかったが、そこまで構造に詳しいわけじゃ無いし、何より銅の薬莢が作れないためこれは後回しだ。
ここまで十分すぎるほど科学技術の発展にも貢献してやったのに、王子達はそこまで俺を褒め称えなくなってきていた。
遂には、“魔帝国の侵攻を食いとめるため、前線に出てはくれないか?”と言い出しやがった。
俺を召喚しておいて、使えないからと前線送りとかふざけてやがる。
完全に頭にきた俺は、王子を半殺しにして、目の前で王女を強姦してやった。
泣き叫ぶ王女の声と、懇願する王子の顔を踏みにじった時は最高の気分だった。
お前等は俺を召喚した責任がある。
だから俺にはこうする権利があるんだ、ざまぁみろ。
まぁ、気分が晴れたから、ちょっとダンジョンにでも行って、隠し武器でも探してやるかと考えていたある日、王子から襲撃を受けた。
あの王女、アルスルという名前らしいが、あの後から何か精神がおかしくなったらしい。
彼女を一番に可愛がっていた王子は狂気に飲まれながらも、どうやらこの襲撃を周到に用意したようだ。
俺の能力を解析し、デバフ用の魔導師を配置されたことにより、ステータスがダウンしてしまった俺は掴まった。
わざわざ俺を異世界から召喚したくせに、あろう事か“アルスルの受けた仕打ち、その身で味わえ”と叫びながら、周囲の男達と共に俺を強姦しやがった。
俺にとって悪夢の始まりだ。
今でもあの尻に異物が入る激痛は忘れない。
挙げ句に、体が痛みや異常を感知すると“清潔”が働き、体を元通りにした。
しかもその清潔の効果が相手にまで影響するようで、体の不調が無くなりステータスも全盛期のモノに近付くらしかった。
それが奴等には、今まで体験したことの無い快感だったらしい。
王子は“始めからこうすれば良かった”等と言いやがり、俺に無理矢理薬を注入した。
薬を打たれ、薄れかかった意識の中で、王子は“この洗脳薬はお前のステータスやスキルの影響を受けず……”等と言っていた気がする。
その後は曖昧だ。
正気になってからは思い出せるのは、薬の効果が何処までかを王子が実験していた事だ。
記憶の中には、王都の住民の前で卑猥な服を着させられ、踊らされた記憶もある。
首から“王族にたてついた哀れな愚者の末路”と言う札を下げられていた。
あの時の住民の嘲笑、蔑み、愚か者を見るかのような目を向けていた事は忘れない。
あるときはギリギリまで正気を回復させられ、森の中に放置されたこともある。
何とか逃げだそうと近くの村に逃げ込んだが、数人の村人に掴まりまた犯された。
どうやら既に王子が手を回していたらしく、俺のことを“まぐわれば健康になれる薬壺”として、“最初に捕まえた者達に薬壺を使う権利を与える”として手配していたらしい。
むさ苦しいオッサン共やババァに犯されても、スキルの効果で発狂すら出来ない地獄だった。
あの王女も、王子がスキルか何かで人格を調整したらしい。
俺に従っていた過去を忘れ、俺の事を虫でも見るかのように嫌い、苛烈な拷問に興じていた。
俺にとって僅かに幸いだったのは、薬で意識が朦朧としていたことか。
それでも、コイツも、あの村の奴等も、全て復讐対象だ。
ある時、朦朧とする意識の中で“清潔”のスキルが変化していることに気付いた。
何度も使っていたからだろうか?
薬でおかしくなっていたが、“お客様のために清潔にしなければ”と言う気持ちで、“清潔”と唱えた。
その瞬間、洗脳薬の効果が消える。
今までされたことを全て思い出し、恥辱と怒りに体が震える。
このスキルで俺は強くなってやる。
そして、全ての存在に復讐するのだ。
……彼の記憶を見た俺は、何とも言えない気持ちになっていた。
物凄く端的に言うなら、“いやこれ、全部お前のせいなんちゃうん?”と、エセ関西弁で言いたくなるくらいだ。
<勢大、ご無事ですか?>
マキーナの声で我に返る。
視界は元の宵闇の草原だ。
月明かりで辺りもしっかり見える。
『あぁ、問題ない。どれくらいこうしてた?』
<大凡、20分程です。>
結構動いてなかったんだな。
しかしこちとら2億年近くバカやってるんだ。
今更20年弱の記憶を見たところで、何がどうなる訳で無し。
悲惨な境遇なら心動かされる事もあっただろうが、そうでも無い。
ただ、尻の痛みに関しては考えないようにしよう。
確かにあれだけは中々に壮絶な記憶だった。
そんな事を思いながら転生者君を見れば、地面をのたうち回って苦しんでいる。
付き従っている少女2人が、こちらを警戒しつつ心配そうに寄り添っているが、お構いなしに近寄る。
『おーい、聞こえているかぁ~?』
呑気に声をかけても、苦しみ悶えているだけだ。
まいった、これじゃ話にならん。




