表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界殺し  作者: Tetsuさん
報復の光
92/831

91:夜の決闘

「準備いいわね、シン。」


「それはこっちの台詞だ。

アリス、ジェニー、2人とも、準備は良いな?」


マキーナによって拡大された画像には、夜の闇の中、急斜面の山々に囲まれた街を見下ろす、3人の男女の姿があった。

男の手には業物とわかる剣を手にしており、あと2人の女性もそれぞれ、刀身が薄らと輝く短剣を逆手に2本持っていたり、もう1人も先端に宝石の填まった金属の杖を持っていたりと、前に会ったときより装備のグレードが上がっていた。

王都で俺がアレコレしている間に、彼等は迷宮(ダンジョン)に潜って装備を強化しているらしいと、王様が言っていたのは、本当のようだ。


「ようやくジェニーを苦しめていたこの街に復讐できる。

ソレが終われば、またレベルを上げて、最後はアリスを苦しめた王国に復讐だ、気を抜くなよ。」


高台から街を見下ろしていた彼等は、攻める地点を確認すると振り返り、山を下りようとしていた。


あの後、アールという魔女の魔法により、南斗の方で流行っている人間砲弾よろしく撃ち出された事により、どうやらギリギリ侵攻前に間に合ったようだ。

轟音と共に着地し、彼等の前に立ち塞がる。


『よう、子供は寝る時間だぜ?』


何事もないようなフリをしながらクレーターから出て来た俺を見て、少女2人は驚いていた。

実際は足とか超痛いが、ここは格好付けたい。

ただ、転生者君の方は予想していたのか、そこまでの驚きは無かったため、少しだけ傷付く。

いやもっとこの2人みたいに驚けよ。


「気を付けて!シン!」


「コイツ!あの時の奴!」


少女2人は驚きながら飛びすさり、武器を構える。

微かに手が震えているのは、先の戦いの記憶からだろうか。


「フン、この間の逃げた奴か。

お前にもお返しをしなければと思っていたが、今はお前に関わっている暇は無いんだ。

日を改めてくれないかな?」


前回の件で自信があるのだろう、実に鷹揚な態度で失せろとばかりに手を払う。


『わからんな、どうしてそこまで余裕でいられる?』


返事とばかりにバキバキと指を鳴らす。

実際はこれ、指の軟骨を傷付けるからあまりやらない方がいいんだよなぁ、と、微妙にオッサン臭い事を思ってしまう自分が悲しい。


「こう言う事だ。“清潔(クリーン)”」


転生者が右手を突き出す。

一度経験して解析しているからだろうか、射程と範囲が視覚情報として表示される。

見えれば問題ない。

その範囲をかわすだけだ。


「何?避けられた?……のか?」


やっと転生者君が驚いてくれる。

まぁ、そう言う奴に会ったことが無いのだろう。

今までは手をかざして唱えれば皆言うとおり、だったのだろう。


『その技な、手の平を中心に45度角で10メートル位は放射線状に伸びるみたいだぞ。

んで、10メートル以降の効果範囲は、かざした手の平の位置を中心に半径30センチ位の円で、ついでに言えば最大射程は30メートル位らしい。』


マキーナに表示される情報を読み上げる。

今後もその技に頼るなら、効果範囲を知っておかないと痛い目にあうだろうからな。

俺って優しい。


だが、俺の言葉を聞いて転生者君は毒気を抜かれたような、何とも言えない表情になっている。


「オマエ……、何故ソレを俺に教える?

ソレを教えずにいた方が、オマエは俺を簡単に倒せただろう?

何が目的だ?」


『いや、別に俺の目的は、君を倒す事じゃないしな。』


答えてはやるが、左前の構えは崩さない。

コイツ余裕で不意打ち仕掛けてくるからな。


「なら何故邪魔をする?

オマエの目的は何だ?」


やっと話を聞いてくれるか、よかった、やっとここまでこぎ着けた。

俺はいつも通り今までの自分の経緯と、この世界が転生者の世界であること、そしてあの“自称神様”との接続を切らないと世界がいずれ崩壊するから、それを断ち切らせて欲しいという話をする。

まぁ、大体がこの話をすれば“まぁ俺には影響ないし”みたいな感じになって、権限を一時的に委譲してくれる。

今回もそうだと思ったが、彼の反応は違った。

感情を押さえ込み、小さく震えていた。


「……ふざけるなよ。じゃあ何か、この世界は俺が望んで作り上げたとでも言うのか?

あの狂った変態王子にいいようにされたのは、俺が望んだからだと言いたいのか!!!」


最後はもはや絶叫だった。

まぁそうだろう。

転生して、早速薬漬けで変態に尻をどうにかされるような状況、俺でも耐えられない。

ただ、思うところはある。


『そんな事を言うつもりは無い。

ただ、君は俺達のいた世界からこの世界に転生する前、いわゆる「高位の存在」には会わなかったかな?

それに何を願った?』


何かを思い出したのか、ハッとなるのがわかる。

だが、すぐに怒りの感情が戻ってきていた。


「ふざけるな!オマエ、本当は俺の復讐を邪魔する為に来たんだろう!目障りなんだよ!」


ん?話の論点をずらした?

何故?何かマズい事に触れたのか?


『いや、さっきも言ったとおり、俺にそんなつもりは無いよ。

出来るなら、さっさとこの世界から抜け出したい位だ。

えぇと、秋津 新(しゅうつ しん)君だったよな?

別に君の目的や行動を止める気は無い。

復讐?大いに結構、やんなさいよ。

ただ、それは俺がいなくなってからやってくれ。

俺は、俺の目的のために協力して欲しいだけだよ。』


まぁ割と酷い言い方ではあるが、どうせコイツは止まらない。

なら、面倒事が更に広がる前に、さっさと要件を済ませたい。

この世界ではエネルギーは回収できなさそうだ、なら他に行くだけだ。


「何故俺の名前を知っているんだ?オマエやっぱり怪しいな?

本当は“復讐は良くないことだ”とか、お綺麗な事を考えていて、誰かに止めるように言われているんじゃないのか?」


クッソ、ダル絡みしてくるんじゃねぇよ、面倒くさい。

ただまぁ、言わなきゃ伝わらないか。

もういい、どうなろうと知ったことか。


警戒はしつつも、構えをとく。


『“復讐は良くないことだよ!”

ほれ、言ってやったぞ、これでオマエは止まるのか?

違うだろう?どうせオマエは止まらない。

それが生きがいに、目的になっちまってるからな。』


転生者君が怒るのがわかる。

何だよ、欲しい言葉を言ってやったら怒るのかよ。


『よくさ、“復讐は何も生まない、虚しさが残るだけだ”とか言うけどよ、それは違うよな?

しっかり“虚しさ”が生まれているモンな。

復讐したって死んだ奴は生き返らない、失った尊厳は戻らない。

なら確かに復讐なんぞ、やるだけ無駄だ。

……それでも、“復讐しなけりゃ前に進めない”っていう奴もいる。

復讐の仕方が平和的なモノか、それとも直接的なモノかはソイツ次第だと思うがね。』


転生者君があざける様に笑う。

その顔を見ていても、こちらの話をちゃんと聞いていない事がわかる。

いや、ちゃんと聞いているからこそ、自分を押し通したいのかな?


「オマエなら、俺のような行動は取らないとでも言いたいのかな?」


『“争いは同じレベルでしか起こらない”とも言うしな。

まぁ、俺が復讐するとしたら、根っこを叩くか何かするだろうな。

オマエのやり方は被害がデカすぎらぁ。』


自分に何かした全員に報復して回るなぞ、無駄だし根本的な解決策にならない。

復讐するとしても、転生者君のやり方は無駄に見える。

俺ならもっと、別の方法を考えるだろうな。


『あぁ、そう言えば君のことなんだが、色々あって王様と話す機会があってな。

君のことも王様は気にかけていて、救い出そうと手を回して調べていたらしいぞ。』


もしかしたらこれは、余計な一言だったかも知れない。

今まで何となく迷った表情に変わっていたが、急に氷のような、感情が消えた表情に変わる。


「……なるほど。よくわかった。

アンタが俺の行く道を防ぐ気が無いのもわかった。

そういやアンタ、元の世界に帰りたいんだよな?

ここで提案なんだが、俺ならアンタを元の世界に返してやること、出来ると思うよ。」


今までの会話の流れからの急なこの提案に、少しだけ疑念が残る。


『面白いな、どんな方法だよ?』


それでもその方法に興味が湧いてしまった俺は、一瞬警戒を解いてしまう。


「それはな、こう言う事さ、清潔(キュアー)。」


避けようとしたが、攻撃範囲が想像を超えた。

“またやられたのか、俺も学習しねぇな。”

そんな事を思いながら、眩い光に包まれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ