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異世界殺し  作者: Tetsuさん
銀の槍
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08:最初の転生者

真っ白な大地に青い空。

その二色しか見えない景色の中、俺はへたり込んで座っていた。

もう何も考えられなかった。


「いやぁ、凄かったねぇ。人間って、あんなことが出来るんだねぇ。」


後ろから声をかけられる。

最早反応することすら煩わしかった。


「でも大変だったよ、さっきの惨状を無かったことにするのに、大分力を使っちゃったよ。」


その言葉に、俺は僅かに顔を上げた。

あの少年が、いつの間にか回り込んでいて、俺の正面に立っていた。


「さて、改めて聞くんだけど、元の世界に戻るのと転生するの、どちらが良い?」


事も無げにそう聞かれ、俺はまた俯く。

やはりこの存在は、本質的なところで人間とは違う“超越者”なのだろうと感じていた。

確かに神と言えなくも無い。

俺の中にもある、人として必要なものを、この存在は持っていないのだから。


「……どうせこのまま戻ったところで、またアレになるだけだろうが。」


自分の声とは思えないぐらいしわがれた音が喉から出た。

だが、そう言いながらも頭の中は驚くほど冷静になっていた。

もしかしたら、目的のない常人なら、とっくに正気で無くなっている時間を費やしていたからだろうか。

最早狂気に落ちることすら出来なくなっていた俺は、冷静に現状を観察する。


“強くなりすぎた”のなら、弱くなれば良い。

だがこの空間は、“強くはなれども弱くはなれない”という一方通行の特性がある。

後戻りは出来そうに無い。

成功率が30%くらいの時であれば、まだ色々とあの場で応用を利かせることが出来たかも知れない。


だが全ては過ぎてしまった“もしも”だ。


自分の中で結論が出てしまったので、自嘲気味に笑うと、俺は少年を見据えた。


「もういいよ。足掻くだけは足掻いた。元の世界に戻れないなら、このまま殺してくれ。」


そこでふと思い出し、言葉を続ける。


「あぁそうだ、俺がメチャクチャにしてしまった世界を、元に戻してくれてありがとう。あのままであれば、本当に死んでも死にきれない所だった。改めて、ありがとうございました。」


立ち上がり、頭を下げる。

言うべきことは言った。

後は天国か地獄かわからんが、あっちで考えよう。


そう思い、改めて少年を見つめると、俯いて何かを考えているようだった。


「どしたい?やるんならさっさと……。」


「勢大さん、もう一つ道を提示したい。」


少年は先程までと違って、真剣な表情でこちらを見ていた。

その豹変した迫力に気圧されて、俺は話の続きを促した。


彼が語ったことは、簡単に言えばこういう事だ。

“転生者を殺して欲しい”

何とも物騒な話だ。


曰く、俺の力は想定を超えたモノだったらしい。

そこで、俺が当初計画したプランが実行できるギリギリに力を封印して抑え込む方法があるが、それには膨大な力がいるらしい。

そして、俺の行った破壊を修復するためにやはり膨大な力を使ってしまい、どこからかその力を補填する必要があるらしい。

その力の規模としては、一人の転生者とそこの世界を丸ごと吸収すれば、何とか補えるということらしい。


当然、俺としては自分のように現世で報われなかった転生者が、せっかく第二の人生を謳歌しているのに、自分のためだからと殺すことは出来ないと訴えた。


それに対する彼の答えは


「中には下手に不老不死を願ってしまった子もいて、もう死にたがっているけど自分ではどうしようも出来ない子もいるんだ。」


という回答だった。

転生者は死にたがっているかもしれんが、俺には不老不死を殺すなんてことは出来ないと思うし、それに世界の方は消滅されたくは無いだろう、と反論してみたが、彼は“恐らく出来る”という何ともあやふやな回答と、“時間はかかるが、世界をそのままにして、転生者の力だけを回収して集めていく方法もある”と言われてしまえば、それ以上言い返す言葉も無かった。


何より、俺の力だけでは既に八方ふさがりなのだ。

頭の中では未だに“この存在から力を借りることは危険だ”と警鐘を鳴らし続けているが、この申し出を受けるしか道は残っていない。


「わかった。その申し出を受けよう。

ただ、やはり転生者をどうするのか、その人がいる世界を吸収して良いものか、俺が判断して決めたい。

我が侭なのは十分承知しているが、その仕事を請け負う以上は、それ以外の全てを俺に任せて欲しい。」


彼は“それで構わない”という回答をすると、早速俺を転送する為に手をかざす。


かざされた手の平から徐々に光り出す中で、俺は疑問を口にした。


「そういえば、俺が転生者を殺すのは俺のためだが、君には何の意味を持つんだ?」


「神の愛にも限度があってね。流石に行き過ぎた行為の子には、いつかその力を回収しようと思っていたんだ。君はその辺タフそうだから、丁度良かったんだ。」


彼は特に感慨も無くそう答えた。

だが、それこそが俺の聞きたい答えだったのかも知れない。


「わかった、行ってくるよ自称神様。ただ、出来れば向かう先の情報でもあれば嬉しいんだがね。」


「申し訳ないが、転送されてしまえば僕の声は聞こえないし、転生者の世界がどう変わっているか、僕にも解らないんだ。まぁ、頑張ってよ。」


その言葉を最後に、右手の光が強くなる。

委託した下請けに丸投げとは、何とも酷い元請け業者だ。

だがまぁ、それもよく体験したことだなぁと思いながら、俺の体は光に包まれた。



光がおさまり、周囲の風景が見えるようにはなったが、最初はまだ転送中か間違ったかと思う風景だった。


“何も無い”のだ。


その風景を何といったらいいのか。

足下を見ると、コンクリートの床のようなものが、おおよそ学校の体育館位の広さで広がっている。

だがその周囲はボロボロに崩れ落ちており、そこから先は真っ暗で何も無い、のだ。

上を見上げても真っ暗で、星一つ見えない。

まるで何も無い空間に、ポツンとこのコンクリートの床が浮いているような状況だった。


想像と全く違うその景色に唖然としていると、不意に後ろから声をかけられた。


「ようこそ、キャピタル“プロビンシャル”へ。

俺の名はランス。

ランス・プローという。

アンタの名前を教えてはくれないか?」


振り返ると、このコンクリートの床から伸びる階段、その階段には高級そうな絨毯がひかれ、石造りで背もたれが異常に高い、それこそアニメで見るような玉座があった。

その玉座で足を組み頬杖をつきながら、白銀の鎧姿の男がこちらを見下ろしていた。


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