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異世界殺し  作者: Tetsuさん
報復の光
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88:伝説の魔女

転送に使われた部屋は、別の世界では俺とキンデリックがよく密談に使っていた個室だった。


ただそこには見慣れた椅子やテーブルは無く、地面に描かれた魔方陣らしきモノが微かに光っていた。


え?服?

勿論貰いましたよ。

これで変身を解いても“まるだし勢大さん”にはなりませんよ、ヤダなぁもう。


まぁ、まだ安心できないから、見せないようにもう一回変身はしたが。

ここに居る奴等は魔法使いと言うか錬金術師に近いのか、しつこく鎧の素材について聞いてきていた。

そんな中で変身してるとこを見せたら、マキーナを取り上げられて俺まで解剖されそうだ。


「ここ最近は魔素の流れも安定しています。

恐らくはプロー伯爵の西に少し行ったところに出口は出現すると思います。

ただ、出現地点が空中に出ることも考えられますので、十分お気をつけ下さい。」


魔法使いの人から教わり、小さな石を受け取る。

青みがかった石で、それに魔力を通すと空中から緩やかに降りることが出来るらしい。

凄い!ラピュ何とかは本当にあったんだ!


……いや、そんな事を考えてる場合じゃ無い。

折角渡してくれたが、俺には魔力と呼べるモノは無い。


「悪いが俺は使えそうに無い。

こっちで何とかするよ。」


そう言いながら石を返すと、“はぁ、そう言うことでしたら”と、不思議そうな顔をされながら受け取られた。

この世界には魔力の無い人間はいないようだ。

ますます俺に興味を持ったようだが、殺意を表に出して黙らせた。

ここは俺の世界じゃ無い、と、改めて実感する。

人の記憶を奪いやがった転生者も、尻にしか興味の無い変態も、人を研究材料みたいに見やがるこいつらも、皆クソ喰らえだ。


“そういやアイツは今頃どこにいるんだろうか”と思いがよぎりつつ、王様を抱えたランスロット卿と共に転送陣に乗る。


いつもの別の世界に転送される時のような光が発生すると、その光が俺を包む。


(これで元の世界に帰れないかなぁ)


そんな事を思いながら、視界も光に包まれた。

そんな願いは叶うはずが無いのに。



『おわ、おわぁぁぁ!!』


事前に予想されたとおり、転送先は見事に空中だったようだ。

光が収まったと思った次の瞬間には、地面が抜ける浮遊感と落下感を味わった。


ランスロット卿は即座に例の石を使い、パラシュートのようにゆっくりと降りている。


いやこういうお約束はいらんねん。


幸いなことにそれなりの高度があったため、マキーナに補助して貰い何とか空中で体勢を立て直す。

後は百歩神拳を使い空気を押して、速度を落としながら落下する。


ホームで突き飛ばされてからこっち、大分空中制御が上手くなったもんだ。

“日常生活でまず使わねぇ単語のオンパレードだなぁ”と苦笑いしながらも、ランスロット卿が落ちてくると思われる小高い丘に先回りし、プロビィンシャルと彼等が呼んでいる街並みを見る。



王都やロズノワル領、とまでは行かないが、そこそこに栄えている街並みだ。

ただ何となく、こちらの方がより武骨なイメージがする。

王都はやや絢爛華美になりがちで、ロズノワルはどちらかと言えば交易重視な街並みに対して、こちらは城塞都市、と言ったおもむきだろうか。

ただ、城下町に該当するところは簡単な柵があるだけで特に門番がいるわけでも無い。

領主の館、ほぼ城だが、そこに行くには城門を通るしか無さそうだ。

何となくだが、“城の周りに色々な奴が勝手に住み着いた結果、街が出来た”という感じの増築感がある。


その街並みも勝手に住み着いた結果だからだろうか、迷宮の様に入り組んでおり、それがかえって攻め入ろうにも簡単には進軍できない構造になってしまっているのが面白い。


『何か、凄い複雑な街並みですな。』


降りてきたランスロット卿に声をかける。


「プ、プロビィンシャルは、フルデペシェの奴等と、昔からずっと争っておるからの……。

そ、その名残じゃて。」


背負われている王様が、苦しそうにしながらも懐かしそうにそう答えてくれた。


「プウィル、そんだけ元気なら、ババアの所まで無茶しても大丈夫そうだな。」


ランスロット卿が、背中の王様を気遣いながらもそう言うと駆け出す。

俺もその後をついて走る。


「ば、馬鹿もん、儂ゃ怪我人じゃぞ、お前も、もう少しいたわらんかい。」


「はいはい。」


昔からこうなのだろう。

王と臣下と言うよりは、冒険者仲間の軽口という方が合っている。


少し微笑ましく思いながら、後をついて行く。

曲がりくねった道を進み、途中階段を上ったり降りたりと、絶対に1人では進めない道だろう。


走るのを止めた先に、掘っ立て小屋寸前の木造家屋が見える。

似たような木造家屋が所狭しと建ちならび、何だか教科書で見たことのある江戸時代の長屋と見えなくも無い。


一件の扉の前に立つと、家が崩れるんじゃ無いかという勢いでランスロット卿が扉を叩く。


「おいババア、来てやったぞ、開けろ!」


ちょ、ランスロットさん、家崩れちゃうから!

家全体がギシギシと音を立てているが、ランスロット卿はお構いなしにドアを叩く。

そのやかましさからか、家の中でドタドタと足音が聞こえると、扉が勢いよく外側に開き、ランスロット卿とついでに背負われている王様が強烈に吹き飛ばされていた。


ちょ!?王様死んじゃうって!!


やかましいわクソガキ!!聞こえちょるわい!!」


中からはボサボサの白髪で黒いローブを纏った、お話で出てくるような如何にもな小柄な老婆が出て来た。

扉を持つ手は枯れ枝のように細く、とても大の男2人を吹き飛ばすような腕力があるようには思えない。


「んで、お前さんはなんじゃい、コイツらの仲間か?」


ランスロット卿を助け起こしていると俺に声がかけられる。


『あ、初めまして、田園たぞの 勢大せいだいと申します。

何かその、こちらで言う勇者を探してるんで、ちょっとランスロットさん達と行動を共にしてます。』


ざっと今までの経緯を話すと、胡散臭そうな表情で、値踏みするように全身を見られる。

まぁ、仮面突きの変身姿だとそうもなるか。


『マキーナ、解除してくれ。』


<通常モード、解除します。>


変身を解き、改めて姿をさらす。

ただ、それを見たお婆さんは、俺の顔と言うよりも手に持つマキーナの紋章が入った金属板を見ていた。


“まぁ、この世界の住人ならそっちに興味が行くよなぁ”とも一瞬思ったが、お婆さんの表情は何処か厳しく、そして何故か懐かしいモノを見る表情だった。


「お若いの、取りあえずそこのジジイを治したら、少し話をしましょうか。

申し遅れましたな、ワシの名はアール。

そこのジジイ共の元仲間ですわ。」


酒場で吟遊詩人から聞いた唄、キルッフから解説して貰った伝説の4人。

王様との身分違いの恋に身を引き、いずこかへ旅立ったと言う伝説の魔女。


ただ俺は、何処かで会ったような、何故だか少しだけ懐かしい気持ちになっていた。

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