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異世界殺し  作者: Tetsuさん
星々の光
830/831

828:フラグ

[セーダイ、ゼロ副隊長の……いや、ヤツの言ってる事は本当なのか?]


「……そうだ。

荒唐無稽に聞こえるかも知れないが、この世界はエイラの……いや、エイラとして転生してきた存在の夢の世界なんだよ。」


ガスの目を見ながら、俺は静かに頷くとそう答える。

頭部を守るガラスの半球に守られながらも、ガスは神への呪詛を吐きながら顔を押さえる。


[エイラはきっと特別なんだろうと思っていたけど、セーダイまでそうだったとはね。

そりゃ、色々都合の良い展開になる訳よね。]


[あの……、その……、だ、黙っていたのはご、ごめんなさい、でも、信じてもら……!?]


ガスとジェーンはすぐに振り向くと、両腕に付けられている重機関銃をゼロに向けて乱射する。

流石のゼロも一瞬不意を突かれたのか、数発被弾しながら身を隠した。


[何故だ!?

そいつ等はここにいてはいけない存在なんだぞ!?

お前達はこの世界の住人でありながら、世界そのものを敵にまわしているんだぞ!?]


ガスとジェーンは立ち上がり、ゼロが隠れている岩にめがけて更に機関銃を乱射する。


[うっせぇクソガキィ!!

こちとらテメェ等のせいで死にそうな目に何度もあってんじゃボゲェ゛!!]


[そうよ、軍も階級も人類も関係ない、アタシ達はお互いを命がけで守り続けたわ。

同じチームなのに、いつもその場にいなかった誰かさん達とは違ってね!!

アンタの言葉なんかより、アタシはチームを信じるわ!!]


俺とエイラは、ただただ呆気にとられていた。

そしてお互いに見つめ合うと、自然と笑みが出ていた。


[よろしい、ならば交渉は決裂だな。

……聞こえていただろうマミ、君の言う通りにはならなかったよ。

トレメイン、アナスターシイとマミを連れて回り込め。]


[エイラ、セーダイの状況はどうだ!!

このままじゃ囲まれて蜂の巣になっちまう。

俺ぁアシナガバチになるのはゴメンだぜ?]


ガスは軽口を叩いているが、レーダーに表示される状況はあまりよろしくない。

正面から新たな光点が3つ、俺達を迂回するように移動してきている。


[ジェーン殿、その重機関銃を貸してほしいでござる。

私のサブアームに取り付けますので、代わりにセーダイ殿を担いで欲しいでござる。]


[悔しいけどそうね、アタシじゃ無駄撃ちにしかならないわね。]


ジェーンは機体に付けられている重機関銃と給弾装置を1つずつ外すと、エイラの機体に取り付ける。


[セーダイ殿、ドアノッカーの残弾はまだ1発あるはずでござるな?]


-残弾1、ただし先ほどの攻撃で左アウトリガー損傷、姿勢を制御出来ません-


マキーナから表示される情報を見ると、左足を狙ったレーザーは遠距離用に出力を絞っていたからか、ギリギリ生身の足までは焼かれていなかったが、外装の殆どは焼き切れていた。

姿勢制御用の支え棒を出す事は勿論、歩行すら困難だろう。


「左足が全て焼き切れてる、撃てはするがまともな照準はおろか、反動でめちゃくちゃになるぞ。」


[突破口を開くためだから構わないでござる。

ジェーン殿、セーダイ殿の左足を押さえて欲しいでござる。]


-サンドリヨン・ドアノッカー、チャージ開始-


俺は機体を何とか起こすと、ドアノッカーの展開準備をする。

背面、そして右足から杭が地面に打ち込まれるが、やはり左側が心許ない。


[しっかり押さえてるから、余波で巻き込まれるのだけは嫌よ!!]


ドアノッカーが電磁砲とはいえ、圧縮されたエーテル粒子が放出されきるまでほんの少しだけ弾体とは時間差がある。

その余波でも俺達のパワードスーツを蒸発させるには充分な威力を持っているから、撃った直後に砲身を揺らすと水を出して暴れるホースの様に、制御がきかなくなる。

ジェーンはその事を心配しているのだ。


「善処はするが、その時は俺を撃って爆発させてでも止めてくれぃ!!」


-チャージ完了-


ガスとエイラが弾幕を張り、上手い事俺達に近付かせないようにゼロ達を追い払う内に、充填が完了する。


[目標ゼロ機!射出完了後にガスは弾道に直進、ジェーンはセーダイ機を担いで後を!!

私は殿(しんがり)!!]


「今っ!!」


薄い紫の、夜が明けつつある空が、さらに一瞬明るくなる。


[クソッ!こんな攻撃!!]


俺の射線上にエイラが追い込んでくれたからか、ドンピシャのタイミングでゼロを撃つ。


人間とは不思議なもので、自分の感覚が及ばない筈の飛び出した弾丸にすら、手応えを感じる時がある。

拳で相手を殴った時のインパクトというか、“これは致命的な攻撃が入った”と、自分でもわかる瞬間がある。


今がそれだ、その筈だった。


[なんとぉ!!]


予測のさらに先、人間には考えられない反射速度でゼロ機が加速する。

その後ドアノッカーの光で全ての機能がシャットダウンされたが、撃った瞬間には感じていた筈の手応えは、最後に消えてしまっていた。


システムが停止し、声の無い世界で風景は目まぐるしく変わる。

左足を押さえていたジェーン機が俺の左手を持ち上げると、肩に背負って加速する。

前を見ればガスのパワードスーツが両腕の武器を乱射しながら、滑るように加速している。

背面装備やドアノッカーが邪魔でよく見えないが、後ろでエイラが射撃しているであろう事が光と機体越しに伝わる音で感じられる。


-システム、再起動-


マキーナのメッセージももどかしく思いながら、ゆっくりと各種コンソールの光が戻ってくる。


[あっ!?]


後ろで爆発音が聞こえる。

同じタイミングで、エイラが叫ぶ声。


「オイ!どうしたエイラ!?

何があった!?」


[……こちらエイラ機、敵の砲撃でホバーユニットにダメージ。

ちょっと単独で行動するでござる。

なぁに、1人ならこのステージの裏道を使えますので、先に戻っていて欲しいでござる。]


すぐにエイラ機を見ると、ホバーユニットが欠落を示す黒い表示と、両足も危険域である赤い表示が点灯している。

これでは満足に移動も出来ない筈だ。


「バカ言え!お前その機体じゃマトモに動けねぇだろうが!!」


[……フフフ、セーダイ殿、安心してほしいでござる。

“アタシがこんな所で死ぬと思うの?いいからサッサと行って、戻ったらパフェを奢ってよね”というヤツでござる。]


そのセリフは、どこかで聞いた事のあるものだ。

エイラが前世の記憶とやらで、この“アサルトトルーパーズ”とやらの中盤で、エイラのキャラが言う筈の……。


「馬鹿野郎テメェ!そのセリフは!!」


もうエイラの機体は肉眼でも外部モニターでも捉えきれない。

ただ、その方向からは幾つかの爆発音と立ち上る煙が見えた。

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