82:直感、ファンブル
<では私の前所有者、ランス・プローの事は覚えていますか?>
「あぁ、本町さんの事も覚えてる。」
王都へ戻る最中、マキーナが色々と俺に質問してきた。
そこから推測できたのは、何十回、何百回と繰り返し記憶した41年の内の1回が消されたであろう事、直近で500年近く過ごしていた転生者の世界の事を消失しているのではないか、という結果だった。
俺が意識を失っている間、マキーナは俺の脳と同調していたらしい。
そこで“恐らくこれ”だと思われる人為的な記録の消失を見つけ、俺自身との照合を行っているようであった。
事実、直前の世界のことなのに“どんな転生者だったのか”が、俺の記憶から抜け落ちていた。
彼と出会うまでに、割と苦労した事は覚えている。
彼と会ったときのことも覚えている。
ただ、話すために500年近く時を過ごす理由があったため、後の殆どはマキーナにお願いして“時間を圧縮して感じられる”様にしてもらっていた。
なので恐らくは、あの転生者のスキルは“実際の時間”では無く俺の、いや対象者の“体感感覚での時間”をベースにしているのかも知れない。
その他もしかしたら転移する前のトレーニングの記憶も消えているかも知れないとは思うが、そちらに関しては元々記憶しきっていないし、何よりマキーナ曰く“人為的な消え方をしていない”とのことなので、今は考えないことにしていた。
そうすると、41年の1回と直近の圧縮した500年から59年分相当が消失していたため、あの転生者のスキルは恐らく体感時間の100年分を消去する能力ではないか?と言うのが結論となった。
対抗措置の中身はマキーナの言うことが難しすぎてわからなかったが、要はかけてきた能力の設定時間を限りなく0に近付け、尚且つ過去の短期記憶の中から消去予定の不要なモノをそこに割り当てて、更にそれの体感時間をデータ的に引き延ばすことで、実行動に影響の出ないように喰らう、と言った割と乱暴な手段だった。
当然設定時間を超える技だったり、恒久的な技であれば意味をなさない。
“無効”ではなく“耐”なのはその為かと納得したが、あまり何度も喰らいたくはない話だ。
その他彼の能力で気になるのは、あの防御能力だ。
俺は触れられない場面が多かったが、無意識の時に1度だけ攻撃が当たっていた。
あの時彼は“速すぎる”と言っていたが、アレはどちらの意味だったのだろう。
“詠唱が間に合わないほど速い”なのか、“防御するための何かが間に合わないほど速い”だったのか。
何にせよ、彼と対峙することになれば防御手段としてマキーナは必須だし、あの超人的な“音を超える速さ”で動くにもマキーナは必須だ。
やれやれ、マキーナに介護してもらわなければ、俺一人じゃもう戦えないな。
<私のオートモードを破っておいて、それを言いますか?マスター・セーダイ>
年寄り臭いことを思っていると、マキーナからツッコミが入る。
心を読むのは止めなさいマキーナ。
<あれはアナタの、人間の潜在的な力でした。
あのように潜在的な力を持つ人間が増えれば、人はいつか神をも超えられるのでしょうか?>
マキーナが珍しく哲学的な事を言い出していた。
俺にはわからない、不思議な悩みだ。
「馬鹿言え。人間は神様になんか、なれやしねぇよ。」
そう返すと、マキーナはそれきり沈黙した。
そんな壮大な事より、今はあの転生者だ。
野郎、次あったらどうやってはっ倒してやろうか。
いやいや、そうじゃない。
アイツとはロクに話せぬまま終わった。
俺はまだ“アイツの立ち位置”を聞いていない。
ずっと考えていたが、別にアイツのやりたいことと、俺のやりたいことは相反してはいないと感じている。
それでも相容れないなら戦うしかないが、そうで無いなら話し合いで解決する方法もあるはずだ。
まずは話そう、そっから決めよう。
そう決意した俺の視界に、城門が見えてきた。
今までの考えを纏めながら列に並ぶ。
この時に
“そう言えば俺、アイツら追って城壁の亀裂から違法に抜け出してたんだ。”
と思い出せなかったのは、かなりの失敗だった。
やぁよい子の皆、勢大さんだよ。
今僕は、一糸まとわぬ姿で君達を出迎えているんだ。
何、怯えないで欲しい。
何故なら僕自身が、今この状況に落ち込んでいるからだ。
<気持ち悪いことを思わないで下さい。>
マキーナにツッコまれてしまうが、事実そうだから仕方が無い。
あの後、門番の顔を見たときに“自分がどうやって転生者の仲間を追ったか”を思い出した。
最悪のタイミングで思い出したことも有り、怪しむ門番にしどろもどろになってしまい、結果投獄されてしまっていた。
普通の投獄ならまだマシだったのかも知れないが、石級とは言え冒険者だったことが災いして、“何を隠し持っているかわからない”と言うことで、身ぐるみを完全に剥がされてしまっていた。
咄嗟に思いつき、マキーナをアンダーウェアモードで起動出来たのは不幸中の幸いと言える。
こうしておけば変身用の金属板は見えないし、基本このモードのスーツは他の人間には認識できない。
とはいえ実質防虫や防疫が目的のモードなので、この肌寒さは防ぎきれない。
天井の高いところにある小さな採光窓以外の光しかない、薄暗くジメッとした地面に全裸で座るオッサンとか、確実に絵にならない光景だ。
っーか、座っている石床に苔だけでなく短めの雑草も生えていて、それが大事なところに当たって気持ち悪い。
「オイお前、出ろ。
これから取り調べを行う。
下手なマネはするなよ。」
看守が牢の鍵を開け、アゴでしゃくり、出るように促してくる。
下手な真似と言われても、両手と両足がそれぞれ鎖で繋がれているこの状態では、普通何かしようも無いと思うが。
いや、この世界の上位冒険者なら、この程度のことは何とか出来てしまうのかも知れない。
現にあの転生者の彼なら、この状況でも切り抜けられるだろう。
そんな事を思いながらも大人しく牢を出、恐らくは取り調べを行う部屋、机と二対の椅子以外は物が何も無い部屋に通される。
部屋に入ると、ランタンのように“先端が光る杖”を掲げたローブ姿の魔法使いが、四隅に立っていた。
灯り、というわけではなさそうだ。
何かの防御手段の類いだろう。
机を挟んだ向こう、その椅子にはかつて城門で見た第一王子がニヤついた表情でこちらを見ていた。
うげ、噂の変態王子が直々に尋問かよ。
俺は、背中と尻に寒気を感じながら、部屋へと入っていった。




