827:世界の敵
-高熱源体、接近-
緊張の糸が切れていたんだと思う。
マキーナのその警告を見た瞬間、既に手遅れと解った。
この世界、光学兵器には幾つかの種類がある。
サンドリヨン・ドアノッカーもその内の1つではある。
ただアレは、射出する弾丸にエーテル粒子を圧縮、電磁的な力で加速して射出している。
砲身から飛び出た弾丸は、圧縮されたエーテルを撒き散らしながら更に加速して進み、放出されたエーテル粒子の範囲内にある全ての存在をなぎ倒す。
まぁ、核となる弾丸がある時点で、厳密には光学兵器ではないのかも知れない。
その他にはレーザー兵器とビーム兵器が存在する。
レーザーもビームもどちらも同じビームではあるのだが、中〜近距離への威力を高めエーテル粒子でコーティングしきらない太めの光線がビーム兵器で、エーテル粒子で更にコーティングして特殊な光のみを抽出し、遠距離特化させたモノをレーザー兵器と分類している。
もう少し先の未来では、追尾誘導し曲がるレーザーで出来たミサイルなんてモノを開発するのだから、人類の知恵というヤツは恐ろしい。
ただ、そういった特殊なモノを除けば、光学兵器は“当て続けなければならない”という宿命が存在する。
トリガーを引いてから同じ位置に狙いを定め続け、エーテルが周辺の空気を焼く事で飛び散る光、これを俺達は“ビーム光”と呼んでいるが、それが着弾というか目標に到達して初めて威力を発揮する。
無論、耐ビーム性能が無い存在、例えば丸裸の人間などは、トリガーを引いた瞬間に全身が焼け落ちるだろう。
もちろん俺達のパワードスーツにも耐ビーム性能はある。
だからレーザーによる狙撃は、相手が警戒している時は殆どの場合当たらない。
-左脚、損傷-
“あっ!?”と思った時にはもう遅い。
左のスネあたりに一筋の細い光線が表示され、遅れて肉眼でもビーム光が見えた時には、激しい衝撃を受けて転倒していた。
[セーダイ殿!?]
[何!?どうしたの!?]
[あの岩場に走れ!!]
ガスの反応は早かった。
俺に駆け寄ろうとする2人を掴んで放り投げたかと思うと、俺の首根っこを掴んで走り出す。
「ダメだガス……離せ……。」
足を撃ち抜かれた激痛に喘ぎながら、俺はガスの手を剥がそうと両腕を伸ばす。
この瞬間を相手が見逃すはずが無い。
予想通りにガスの頭部ガラスに一筋の光線が表示される。
「こなクソぉ!!」
ブースターを全力で吹かし、ガスに体当たりする様に突撃する。
ガスにぶつかった時の衝撃か、俺の右肩から鈍い音がしたがもつれるように倒れてすべりこみ、肉眼で見えるレーザー光は何とか倒れたガスの上を通過していった。
[セーダイさん!すぐに止血するから!!]
はは、またいつもの口癖が消えてるぞ、そう言おうとしたが、痛みでうめき声しか出ない。
[野郎!どこから撃ってきやがった!?]
[落ち着いてガス!探索ドローンを出すわ!!]
ジェーンの背中から小型の偵察機が飛び上がり、周辺の状況を確認する。
俺達の機体にもその情報はモニターされており、俺が撃たれたと思わしき方向をマキーナがマークする。
[いたわ、コイ……ツ、よ……。]
ジェーンの言葉が尻すぼみになり、映像を見ていた俺達も絶句する。
[ハロー、独立部隊の皆、副隊長だよ。
……あぁ、もう副隊長でも無かったか。]
赤を基調とした専用カラー、人類軍の先端技術を結集して作られたカスタムパワードスーツ。
ゼロの機体が、レーザーライフルを放り捨て、そしてドローンに向けて手を降っていた。
「や、やっぱりか……!部下が失敗続きだから、て、テメェから仕留めに、来やがったってところか、あぁ?」
[ハハハ、本当に使えないよねぇ、僕以外の人間って。]
ゆっくりと立ち上がると、こちらに向けて歩き始めているのが見える。
ドローンがある以上その行動はこちらに筒抜けだが、それすらも意に介していないかのような動きだ。
[何故!?何故アタシ達が軍から狙われなければならないの!?]
ジェーンがまだ信じられないという雰囲気で、ゼロに問いを投げかける。
ガスもゼロが来る方を警戒しながらも、同じような表情をしている。
[何故、か……。
そうだねぇ、ジェーン君とガス君には解らないよねぇ。
でも仕方ないんだ、君達も“世界の敵”の側についてしまったんだし。]
その言葉で、ピンとくるモノがあった。
そして同時に混乱する。
そうなるとエイラは一体誰になるんだ?
ゼロは恐らく“この世界が生み出した対抗手段”なのだろう。
となればエイラが転生者で間違いない。
しかしエイラには転生者であるはずの何かが抜け落ちている。
世界の権限が存在していない事もそうだ。
記憶があやふやなのもそうと言える。
更には先程のマザーの精神汚染を受けた時の反応。
アレを見て正直、俺は“エイラが世界の対抗手段としての存在なのでは?”と疑っていた。
だが、実際はゼロの方が世界の対抗策として、今俺達の前に立ちふさがっている。
エイラに聞こうとしても、今は泣きながら俺の手当てで必死だ。
ゼロの事すら認識していない。
[君達には可哀想だが、そこのエイラ君と……セーダイ君だったか、その2人が悪いんだ。
彼等がこの世界にいる限り、僕達の世界は崩壊してしまうんだ。
“世界の崩壊を防ぐ”という、そこに関してだけはあのマザーとも一致していてね。
人類軍の情報を流してでも君達を止めようとしたのだが。
……全く、自分達こそ上位種だマザーだなどとほざいておきながら、使えない蟻だったね。]
俺達の中で、沈黙と動揺が走る。
コイツだ、やはりコイツが内通者だったのだ。
だが、今それを知った所で他の奴等に伝える方法が無い。
特殊部隊用と言うことで、この機体と装備には超長距離通信装置が無い。
基地から遠く離れたこの場所から本隊に伝えるのは、それこそゼロの機体でないと無理だ。
[そうだ、ガス君にジェーン君、元副隊長として君達にチャンスをあげよう。
そこにいるエイラとセーダイを殺すんだ。
その死体をこちらに持ってくるなら、君達にはお咎めが無いように手配しよう。
ついでに、敵将であるマザーを駆除したのだ。
昇進と追加報酬、それに希望の部署への転属もセットで与えようじゃないか。]
全員の手が止まる。
ガスとジェーンが、どこか怯えた様な表情でこちらを見ていた。
木曜は失礼致しました。
ちょっと本当に何も手につかなかったので飛ばさせてもらいました。
あ、ちなみにセーダイさんの撃たれた所と作者の骨折の位置は関係性がありません()
マジで偶然です。




