826:マザーとの対決
「コイツはまぁ、何とも醜悪だ。
……マキーナ、機銃は使って大丈夫か?」
-問題ありません-
マキーナの回答に安心しつつ、目の前にいる巨大な化物、蟻の上半身とナメクジの様な下半身を持つソレに向けて、銃口を向ける。
[おぉ……マム……ただいま……。]
[兄さん……どうしてここに……。]
ガスとジェーンは、何かの幻覚を見ているらしい。
2人のパワードスーツはピクリとも動いていないが、生命反応には異常が無い事を伝えている。
[……。]
エイラの方も見てみたが、彼女はただ魂が抜けたように虚ろな目で、ボンヤリと突っ立っているだけだ。
(……妙だな、幻覚を見ているならあの2人のような行動を……いや、今はそんな事は良いか。)
化物に向けて発砲、無数の超硬スチール弾が吸い込まれていくと、黄緑色の液体をまき散らし、発泡スチロールをこすり合わせたかのような甲高い悲鳴が飛び散る。
[……!?あっ!?ここはどこだ!?]
[え!?兄さんは!?]
突然、2人がビクリと震えたかと思うと正気を取り戻す。
どうやら、あの化物の精神支配みたいなモノは解けたらしい。
[セーダイ殿、あれがこの古城の主、マザーアントでござる!!]
強烈な違和感。
先程まで全く反応を示していなかったエイラだが、幻覚が解けた途端に“突入した時とまるで地続きかのような行動”をしている。
時間にしたらほんの数十秒、いって1分程度ではあるが、確かに全員幻覚を見せられていたはずだ。
まるでその時間が無かったかのようなその振る舞いは、それこそゲームのキャラの様な……。
「よくも、よくもこの私の体に傷を!
……幸せな夢の中で、これから起きる惨劇を見せないようにしてやろうという仏心が、お前達には解らないようですね。」
こんな世界で仏心とは笑わせる。
いや、俺の頭の中にある言語で、このマザーアントとやらの意味を翻訳した時に近しい言葉がそれなのかも知れないが。
[マザーアント、あなたは何故人類と争う!
人類は、それこそ元を正せば我々は同じモノだったはず!!]
エイラがやや芝居がかった口調で叫ぶ。
これさえも……おっと、今は考えるな。
何か別の事を考えろ。
俺はパワードスーツの操縦を放棄し、ここに来るまでの戦いと、アナスターシイの言葉を思い出していた。
「ほう、そこの男の思考を読んだぞ。
お前等は回収した遺失技術で出来た武器を探そうとしているのか。
だが残念だったな、アレは私の優秀な子供達が回収し、我が兵達の強化に使われたぞ、ハハ、ハハ、ハハハ!!」
頭が割れそうなくらいの轟音、実際に音は鳴っていない筈だが、強烈な思念が頭の中で響く。
俺達は思わず耳を塞ごうとしたが、パワードスーツ越しではそれすらも叶わない。
「そしてそこの女、私達と、お前達が同じ存在だったと言ったな。
元はそうであったとしても、この星でアレに触れた我々の方が、今や優れた種として君臨する時だ。
弱肉強食、それこそが自然の摂理であり、弱者である人類は残さず我等の餌となるのだ!!」
ほんの少しだけ、思考がブレる。
“アレ”とはなんだ?
ここはLC-5だったか。
まさか、アレでは……。
「ほぅ、そこの男、別の世界から来ているのか。
それも我等が浴びた光、“深淵”の存在を知るか。
ますます面白い、やはり真っ先に殺しておかなくて正解だったか。
さぁ、その知恵を寄越すが良い。」
マザーアントの上半身にある蟻、その両の目が赤く光る。
俺をもう一度、真っ白な世界に飛ばそうという魂胆か。
-チャージ完了-
-即時展開します-
俺の意識が白く塗りつぶされる瞬間、マキーナのメッセージが俺の視界に映る。
「やれ。」
俺の言葉をキッカケに、サンドリヨン・ドアノッカーが展開される。
砲身の先はもちろんマザーアントだ。
「知っていますよ、人間。
その武器は充填まで時間がかかる筈です。
中の人間を制御してしまえば、それは不発に終わる。」
[だから、あらかじめ充填していたでござる。
ムービーシーン中に攻撃を準備し、終わったら即時撃破。
アサルトトルーパーズでは、定番の攻略法でござるぞ。]
-発射します-
視界が白く染まる。
完全にホワイトアウトする寸前、マザーアントが雄叫びを上げるような動きをしていた、と思う。
[……ダイ殿!セーダイ殿!!
そろそろ起きて欲しいでござる!!]
エイラの叫び声に、意識が戻る。
どうやらあのマザーアントとやらに意識を取り込まれずに済んだらしい。
「あ、あぁ、すまん!今起きた!!」
素早く機体をチェックすると、ちょうどシステムも再起動したばかりのようだ。
その後周囲を確認すると、また俺はエイラのパワードスーツに担がれて、古城の中を疾走しているらしい。
[やっと起きたか寝ぼすけセーダイ!早くこっちに参加してくれ!!]
[おはようセーダイ、まだ地獄には落ちてないから、頑張って逃げ出しましょ!!]
エイラに下ろしてもらい、俺もブーストで並走する。
「オイオイ、俺は天国に行くって決めてるんだ。
悪いが地獄にはお前等だけで行ってもらう事になると思うぜ?」
“ぬかしてろ”とガスが笑うが、正直状況が解らない。
今脱出しているのか、それとも別の目的地に向かっているのか。
並走しているエイラを見ると、俺の事を心配そうに見ているエイラと目が合った。
[あ、わ、その、さっきはナイスでござった!
マザーは必ず戦闘前にムービーシーンが挟まるので、入室前からドアノッカーのチャージを始めるのが定石でござった。
しかしまさか、シナリオ通りのセリフを言ったのにあんな反応が返ってくるとは思わなかったでござる!!]
「お前の予想通りって事だな!メッセージで“ムービー終わったら即ドアノッカー、マザーは思考読む”ってだけ書いてあって、最初は何の事か解らなかったぜ!!
ってか、今どこに向かってるんだ!?」
通路からワラワラと出てくる蟻を蹴散らしながら、ガスとジェーンの後をついて進む。
エイラの説明によれば、ドアノッカーでマザーごとぶち抜いた先の通路に入って、古城の地下に向かってるらしい。
そこに、“ロストテックス”が封印されているのだそうだ。
[今度のヤツは解析すれば機体性能が大幅に上昇する、いわゆる“1周目クリアボーナス”の装備でござる。
弾数無限、防護フィールド無限とまではいかないでござるが、それに近しいくらいのヤツがある筈でござる!!]
どことなく、エイラの声が弾んでいる。
この先にはもう蟻の群れがチョコチョコいるくらいで、いわゆるエース級の敵はいないらしい。
それを聞いて、俺達はどことなく余裕のムードが流れていた。
流石にもう、完全な不意打ちでもなければ、ただの蟻にやられるような俺達ではない。
だからだろうか。
その一撃を許してしまった。
11/27追記:
ちょっと夜になって疲労と痛みで頭が働かないので本日分飛ばさせて頂きます。
寝ればきっと何とか……。




