825:謁見
「しっかし、こんな強引な方法を思いつくとはねぇ!!」
[振り落とされてないでござるなセーダイ殿!!
危なくなったら言うでござるよ!?]
“過保護なくらい楽させてもらってるよ”と言うと、俺は機体状況に目をやる。
ドアノッカーで進入路の障害、“門”とやらを吹き飛ばした瞬間、エイラが追加装備のサブアームで俺のパワードスーツを担ぎ、一気に突入した。
俺の機体がオーバーヒートとリチャージで動けない時間も無駄にしないための策、と言う事なのだそうだ。
「しっかし、まさか必要だというのが“門の破壊”とはね。
これならドアノッカーじゃなくても良さそうだけどな。」
[あの門は“DPSチェック”も兼ねているのでござる。
半端な攻撃を繰り返しても門は自動回復するし、尚且つ反撃と増援を呼ぶでござる。
だから一発で吹き飛ばす方が結果的に効率が良いでござる。]
DPSチェック……あぁ、オンラインゲームのボス戦とかである、“制限時間内に◯◯を破壊せよ”みたいなヤツか、と理解する。
エイラが言うには、ドアノッカーを使わない方法であの門を破壊するとしたら、タイミングよくテルミット手榴弾を投げ込み爆発させ続ければ、4人の手持ちテルミットが無くなるくらいには破壊できるらしい。
確かにそんな面倒な方法しかないなら、一発で吹き飛ばす方が面倒がなくて良い。
[後は、ゲームなら誰かにテルミットのみを装備させてツッコませる、バンザイアタックという方法もあるでござるが……。]
まぁそりゃ論外だな。
-システム、リブート-
そんな話をしていると、マキーナからシステム復旧の通知が入る。
エイラに合図をし、サブアームを解除してもらうと俺もホバーダッシュ移動で皆に続く。
「悪ぃ、復旧した。
ここからは俺も参加する。」
[頼むぜ兄弟!もう銃身が真っ赤っ赤だぜ!!]
先行しているガスが、撒き散らされる機銃の音に負けないくらいの悲鳴を上げている。
[もうじきエイラが言っていた大広間って所に出るわよ!準備は良い!?]
俺の機銃で、正面の扉とその前でバリケードを組んでいる蟻ごと、銃弾で無数の穴を開ける。
即座に俺と場所を入れ替えたエイラが2本の剣を抜くと、剣の軌道にあるもの全てを斬り裂く。
[今ぁ!!]
エイラの号令と共に、俺達3人は両手に持ったテルミット手榴弾を崩れた扉の向こうに投げつける。
扉の付近に蟻達が持つ遠距離武器、酸の液体が付着し一部溶解するが、それを予測していた俺達には当たらない。
一瞬、パワードスーツが外部音声を遮断し遮光フィルターが展開されるくらいの光が溢れ、そして静寂が訪れる。
「やった、のか……?」
こういうシーンで言ってはいけないセリフなのだろうが、やはり人間、自分の成果を目視できない時には言ってしまうものだ。
[近衛は撃破出来た筈でござる。
……ゲームと同じ配置なら、でござるが。]
[時間がねぇんだろ?ならここでグダグダやってたって始まらねぇぜ!!]
[あちょっとガス!んもぅ、援護するわ!!]
一瞬、突入するか慎重にいくか迷っていた俺達を、ガスは待ちきれなかったらしい。
両腕の機銃を構えると、入口だったモノの残骸を踏み越え、大広間へと突入する。
そしてそんなガスを援護するように、ジェーンも一緒に飛び込んでいく。
「こういう時、あぁいうクソ度胸は有り難いな。」
[行くでござる!!]
無鉄砲な、いや、勇気ある2人の後を追い、俺達も大広間へと突入する。
「これは何とも、まぁ……。」
テルミット手榴弾の影響か、他の蟻よりも頑丈そうな外皮を持っていたであろう蟻達が四方に吹き飛んでいる。
中には、天井に突き刺さり体を揺らしている個体もあるくらいだ。
そして大広間、という単語からは想像できないくらい、その部屋は何と言うか、機械的だった。
もちろん、金属やプラスチックの箱で覆われた何かがあるわけでは無い。
蟻が掘ったであろう広めの洞窟に、体液なのか何かの液体で固められた鍾乳石が無数に突き立っている。
ただ、それ等の鍾乳石のような何かの中にはチカチカと光る灯りがあり、そして鍾乳石同士を繋げるケーブルのような線が張り巡らされている。
もう少し角ばっていれば、もう少し線が束なっていたら。
多分俺は、巨大なサーバールームにでも迷い込んでしまったのではないか、そんな印象を受けるだろうと感じていた。
[ここは古城の心臓部とも言える場所でござる。
そしてこの先に、“大聖堂”があるでござる。]
エイラのパワードスーツは淡々と、見慣れた景色のように迷いない足取りで大広間を歩く。
周囲の風景と、エイラに気圧されながらも、俺達も後に続く。
-勢大、エイラからの文字通信です-
エイラの言う“大聖堂”とやらへの入口に近付いた時、マキーナがエイラからの通信を受信する。
表示された文字を読むと、この後部屋に入った後の行動が書かれていた。
(マキーナ、出来るか?)
-もちろんです、お任せを-
俺は目を閉じると、深く深呼吸する。
良いだろう、もしもそうなるならやってやろうじゃねぇか。
[多分ここは攻撃がこない筈でござる。]
エイラは事も無げにそう言うと、入口らしき扉を斬り、そして蹴り倒す。
地下とは思えない眩い光が溢れるその場所へ、俺達は引き寄せられるように入っていった。
「よく来ました、かつての同胞達よ。」
頭の中に穏やかな女性の声が聞こえる。
それも驚いた事に、日本語だ。
「驚く事はありません。
あなたが聞き取りやすいよう、それぞれ最も馴染みのある言語に置き換わる様に思念を飛ばしています。」
超能力?テレパシーとかいうヤツなのだろうか。
ただ、その思念を飛ばしてきている存在を認識出来ない。
変わらず、光で真っ白な空間に1人ポツンと立っている。
「よくここまでたどり着きました、人間の勇者よ。
私も、元を辿ればあなたと同じ存在、同じ種族だったのです。
どうか、私を受け入れてはくれないでしょうか。」
……いや、皆はどこだ?
周囲を見渡しても、やはり何もない真っ白で、どこまでが奥行きでどこまでが天井なのかもわからない、見渡す限り白い空間だ。
段々と、自分が地面に立っていることすらあやふやになってきている。
「……この嫌な感じ、覚えがあるな。」
俺は目を閉じる。
確固たる個、俺という存在。
そこに触れようとするならば、俺は誰であろうと容赦はしない。
心を鎮め、ゆっくりと目を開く。
真っ白な空間は消え、そこには先ほどの大広間で見たような生物的で機械的な気色の悪い風景と、そして見上げるほどに巨大な蟻……いやナメクジのような何かが蠢いていた。




