824:古城への道
「それじゃあエイラ隊長、この後どうするよ?」
[もう!その呼び方辞めてほしいでござる!!]
エイラは拗ねたように怒るが、移動ルートが俺達のパワードスーツに転送される。
森林の中を随分と曲がりくねって移動する、奇妙なルートだった。
[何だよこれ、真っ直ぐ行ったら2時間くらいで着くんだから、真っ直ぐ行けば良いんじゃねぇか?]
[そうね、森林地帯とはいえ少し勾配がある程度だし、このパワードスーツならもっと急勾配でも問題ないじゃない。]
ガスとジェーンも俺と同じ疑問を持ったらしい。
古城を中心として緩やかな円錐状に森林が広がっており、古城とその周囲が窪んでいる。
簡単に言うなら、緩い山の火口に城がある、みたいな地形だ。
そこに侵攻するに辺り、事前の作戦予定でも最短ルートが予定されていたはずだ。
「……そうか、最短ルートは軍部も掌握済、か。」
[そうでござる。
この情報は、当然敵側も知っていると考えるべきでござる。]
背中にも敵がいるってのは本当に厄介だ。
こんな事で無駄に時間を取られるとは思わなかった。
[でもやっぱり、どう考えても理解できないわ。
何でアタシ達を殺したいわけ?
セーダイとエイラの活躍が目障りだっていっても、そこまでする?]
迂回路を移動中、ジェーンがポツリと漏らす。
それを聞いて、俺も考える。
トレメインもアナスターシイも、俺達の事は目の上のたんこぶみたいに考えているのかも知れない。
自分達の手柄を取られたと思っているかも知れない。
だから難易度の高いミッションに放り込んで、うまく行ったら自分達の采配による功績、うまく行かなくても練度の低さが招いた自業自得、で済まそうとしているとも考えられる。
しかしそうなると、先の作戦で蟻達を引き連れた“トレイン”をやってきた事の意味がわからなくなる。
アレは俺とエイラでなければ確実に殺られていた。
明確な殺意の元、アレを実行したと考えられる。
“作戦失敗による死亡”という体は取れるが、人類全体で見れば今後の作戦が不利に傾く。
実行するにはあまりに利己的というか、得られるメリットが少なすぎる気がしてならない。
[それもそうなんだけどよぉ、どうやって蟻達と意思疎通してるんだろうな?
セーダイに見せてもらった例の人型?のヤツにしたって、アレじゃ俺は勃たねぇぜ?]
[アンタの脳みそは下半身についてるのね、ガス。]
ジェーンの的確なツッコミに笑うが、途中までのガスの言い分はわかる。
俺でもあの亜人の言葉らしきものは理解できなかった。
言語が解析されたという話は聞いていない。
確かに、“ではどうやって意思疎通を?”という疑問が残る。
「なぁエイラ、お前の体験したっていうこのゲーム、ラスボスはどんな奴なんだ?」
[それがその……知らないのでござる。]
エイラが言うには、彼が前世で遊んでいたゲームは定期的にアップデートが入るオンライン型のゲームで、“いよいよ終章突入”と言う所で死んでしまったらしい。
[一応、それまでのボスらしき存在はいたでござるよ。
それがこの古城か最終拠点にいる“マザー”と呼ばれる女王蟻なのでござるが……。
女王蟻はいつものアント・アーミーと強化型のアント・プリンスに囲まれているんでござるが、それらを全滅させると一瞬無防備になるのでござる。
次の蟻達が出現する前にダメージを与えて、何度か繰り返すと撃破になるでござる。]
なるほど、ウェーブ型のボスって事か。
だがそれだけ聞くと、別に人類軍との接点が無い。
[あ、そう言えば……。]
また、エイラが何かを思い出す。
これも、不思議に感じていた。
やり込んだゲームの筈なのに、エイラの記憶は曖昧だ。
こういう風に、直前になると突然思い出したりする。
[新しいシナリオ、さっき言っていた終章って奴で、シナリオライターが“遂に真実が明らかになります、主人公はどうやって造られたのか、そして敵は人と亜人の……おっとこれ以上は”みたいなインタビュー記事があったような……気がするでござる。]
本当に思い出しているのだろうか、という疑念がふと頭をよぎる。
もしかしたらエイラはやはりこの状況を楽しんでいて、“結末を知っているプレイヤーが、新人の楽しみを奪わない為に情報を小出しにしている”というヤツなのでは無いだろうか?
-可能性はあります-
-ただ、現状のエイラ機をモニターしていても、脈拍・呼吸・発汗等に異常値は検知されません-
“嘘は言っていない”と言うことか。
マキーナの判断であるなら、そこはあまり疑っても仕方ない事なのかもしれない。
[しっかし、全く敵と遭遇しねぇな。]
[油断しないでよガス、気を抜いていて、さっきのステルスのヤツにバッサリ!なんて嫌よ?]
[あったでござる。
セーダイ殿、こっちに来てほしいでござる。]
ガスとジェーンが軽口を叩きながらも警戒しつつ進んでいると、先行していたエイラが足を止め、こちらに振り返る。
「アレは……何の塊だ?」
エイラの指さす方を見れば、巨大な穴と、それを塞ぐ何かの液体で固められた石の集合体があった。
[アレは古城に続く穴を、蟻達の体液で固めた“門”でござる。
事前に提出したルートの先にあるのが正門とするなら、こちらはさしずめ“裏門”というヤツでござる。]
エイラがニヤリと陰気に笑う。
それを聞いて色々と察する。
確か、今回の作戦が発令された時、エイラは移動ルートにこだわり続け、最後まで司令部と掛け合って交渉していた。
「お前、まさか。」
[久々にアレだけルートの重要性を熱弁したでござる。
そのおかげで、奴等はどうやら正面の防備をしっかり固めてくれたようで良かったでござる。
……皆で、帰りたいでござるから。]
“陰キャのお前にしては珍しいと思ったんだ”と俺は呆れる。
どうやら、読まれている事込みで策を考えていたらしい。
正直な所、疑念が晴れたわけではない。
それでも、恥ずかしそうにしながら俯くこの少女の事を、この戦場を乗り越える仲間の事を信じてやるか、という思いに変わっていた。
「オーケー、隊長殿。
それで、俺は何をすればいい?」
[ここからは予定していた作戦の通り、時間がモノを言うでござる。
まずはお城のドアをノックして開けてもらい、動けないセーダイ殿を担ぎつつ、一気に最下層まで突入するでござる。]
“あいよ”と笑いながら、俺はドアノッカーを展開する。
なるほど、その為の追加アームか。
-チャージ開始します-
俺は、少しずつ充電されていくエネルギーメーターを横目で見つつ、扉の中心に照準を合わせ始めていた。




