823:オールドキャッスル
[……しかし、本当にその機体で良かったのかよセーダイ?
メチャメチャ初期装備じゃねぇか。]
「お?あ、あぁ。
まぁエイラがこれで良いって言ってたしな。
何か策があるんだろうが……。」
そう言いながら、エイラの機体をチラと見る。
エイラからのお願いと言うやつで、ガスとジェーンは実体弾多めの重武装、俺はジェネレーターこそ最新のモノに交換したが、この試作機の標準装備、そしてエイラ自身は前回の俺と同じ近接装備なのだが、背面装備に輸送用の追加アームが付いている。
[そうでござる。
ジェネレーター交換後の“ドアノッカー”がどうしても必要な場面が存在するでござる。]
[独立隊、降下ポイント到着!御武運を!!]
エイラが何か言いかけていたが、降下予定ポイントに到着したらしい。
操縦士の通信後、俺達はフワリとした浮遊感を味わう。
[この感覚は何度やっても苦手だぜ。]
[アラ、ガスにも苦手なモノなんてあったのね。]
いつもの夫婦漫才を聞きながらも、俺は地図を展開し、降下地点をサーチする。
幸い、周辺に敵影は無い。
まず着陸は、問題なさそうだ。
そのまま地図をスクロールし、移動予定を確認する。
衛星から撮影された画像だが、俺達が降下したすぐ先に森林地帯がある。
その森林地帯を抜けると、人類軍が命名した“古城”が存在する。
巨大な蟻塚を中心として無数の小さな蟻塚が生えているそこは、恐らく今は活発でなくなった奴等の巣。
ただ、その巨大な風貌から“古い城”という名称が付けられたのだという。
[総員降下、着地したらすぐに四方にテルミットを投げてほしいでござる。
あ、B装備も忘れずに。]
小隊内通信でエイラが言うと、俺達は無言で頷き、次々に降下ポッドから飛び出す。
全員で背中合わせに着地し、言われた通りすぐにオプション装備を外し、テルミット手榴弾と一緒に放り投げる。
[……こりゃあ、驚いたな。]
ガスが呟くのも解る。
B装備の爆発力がテルミットと同じ威力だった事にも驚いたが、それだけではない。
爆発の光の中で、真っ黒な外皮をもつ小型のカマキリ、恐らくはアリ達と同じくらいのサイズの奴等が粉々に吹き飛んでいるのが見えた。
確かにセンサーには敵影は無かった。
それなのに目の前には人間よりやや大きいサイズのソイツ等がいるのだ。
[“初見殺し”でござる。
センサーには反応しないから、肉眼で見つけるくらいしか方法が無いでござる。]
エイラはすぐに飛び出すと、爆発の光が弱まる前の一瞬で敵の中に飛び込み、両手に持った高速振動剣を振る。
[突破するでござる!!]
更に黒いミニカマキリの残骸が増えた所で、エイラが短く怒鳴る。
流石に俺達も慣れてきているからか、全員が即座に動き出し、突破に最適な布陣になるべく動き出す。
-解析完了しました-
-仮称“カマキリモドキ”の生体反応を固定、フレームとして視界に表示出来るようにしました-
「でかしたマキーナ!!
全員、ウチのAIが敵影をとらえた!今送ったデータを展開してくれ。」
マキーナの作成したアプリケーションを起動すると、暗闇の中に緑のフレームで彩られた敵の姿が確認出来る。
[これは助かるでござる!コイツはステルス特化で装甲は無いに等しいでござるから、見えればこっちのものでござる!!]
ガスとジェーンも見える事で迷いが消えたようで、両腕に搭載されている機銃を次から次へとカマキリモドキに叩き込み始める。
「おっと、俺もウカウカしてられねぇな。」
その様子を確認しながら、俺も自分の受け持つ方向の敵に弾丸を吐き出し続ける。
敵の数はそれなりにいたが、こうなってしまえば俺達の敵ではない。
10分もしない内に、周囲はあるべき静寂を取り戻していた。
[……おかしいでござる。
殆どは最初のテルミットで倒せて、数体くらいが残る算段だったでござるのに。]
倒した敵……人間よりも少し大きいくらいの真っ黒なカマキリモドキを確認しながら、エイラが首をひねっている。
[アタシ達の狙いが甘かったって事?]
少しだけ不満そうな空気を出しながら、ジェーンがエイラに問う。
それを聞いたエイラは、“はわわ……そそ、そんな、つもりじゃ……”とコミュ障を発揮し始めてしまう。
[落ち着けよジェーン、エイラはそういう事を言っている訳じゃないんだよな?]
ガスの助け舟で、エイラも少しだけ落ち着きを取り戻すが、まだ挙動不審のままだ。
「……今、残骸を調べていて思ったんだが、多分エイラとしては“想定より敵が多い”って言いたいんじゃねぇか?
最初のテルミットの辺りにも、ビッシリとコイツ等の破片が落ちてやがる。」
[そそ、そうでござる!それでござる!!
こんな敵の数、マッドネスモードでも体験した事が無いでござる!!]
言っている意味が今一理解出来ていないジェーンとガスに向けて、それっぽい言葉に置き換えて補足してやる。
どうやら、完全にゲームとは違う展開になっているらしい。
ステルスの敵が、今パッと数えただけでも100体近く。
ゾッとしないどころか、確実にここで仕留めようという悪意さえ感じられる。
[……何ていうか、俺達が降下するここにそんな敵を配置してるって、普通じゃあり得ねぇんじゃねぇか?]
ガスの疑問は全員感じている事だ。
あまりにもピンポイント過ぎる。
[認めたくないけど、情報が完全に漏れているか、内通者がいるって事よね。]
[おいおいジェーン、俺の方を見ながら言うなよ!!
あんな虫相手じゃ、流石の俺でも勃たねぇよ!!]
思わず笑ってしまうが、ジェーンの冷たい視線を感じて咳払いする。
実にガスらしい。
というより、先程のカマキリモドキはこちらの誰かを区別して襲ってきているわけでは無かった。
確実に全滅させようとする意思があった。
もしもこの部隊の中に内通者がいるなら、そんな事にならないはずだ。
「まぁ、前にも後ろにも敵がいる、楽しい遠足だって事だ。
頼りにしてるぜ、エイラ隊長!!」
[えぇ!?わた……俺が隊長でござるかぁ!?]
それまでの挙動不審もどこへやら。
慌てふためくエイラのパワードスーツを見ながら、敵地の入口で俺達は笑っていた。
いや、笑えていた。
お時間頂きましてありがとうございました。
左膝の骨折で全治3カ月というところでして、今は割と鎮痛剤が効いてる時に作業が出来る、という感じです。
そのため、ちょこちょこ休む事があると思いますが基本打ち切りはしないで書き続ける予定ですので、のんびり生暖かく見ていただければと思います。
よろしくお願いいたします。




