820:情報共有
「オイオイ、お前動いて大丈夫なのかよ?」
自室に戻る途中、ガスと出会う。
聞けば、エイラから話を聞き“セーダイはまだ1人で動くのはキツイだろう”と思い、俺を迎えに来てくれたと言うことだ。
下ネタ好きでいい加減な発言が目立つ奴だが、根は優しい良い奴だなぁと感心する。
「あぁ、俺は意外と頑丈でね。
寝てても仕方ないから、どうせなら映画でも見て暇潰ししようと思ってな。」
呆れたような顔をしながらも、まだ足を引きずっている俺の為に肩を貸してくれる。
こういうさりげない気遣いが出来るなら、コイツももう少しマトモだったらモテるんだろうなぁと思ってはいたが言ってはやらない。
言ってしまえば、面白い行動が消えてしまうような気がしたからだ。
「おーい、セーダイのヤツ、自力でここまで来れるくらいには回復してたぞー。」
ガスは当然のように俺の自室の扉を開け、そして同じく当然のように談笑していたジェーンとエイラが、菓子を食べる手を止めこちらを見る。
……まぁ、談笑と言っても、ジェーンが一方的に不満を話しているのを、エイラは虚無の顔で聞いていただけのようだが。
「アラ、セーダイもう大丈夫なの!?
アンタ、見た目によらずタフなのねぇ。」
「まぁな、それよりエイラ、今回のオススメは何だ?」
俺が話を向けると、エイラは虚無顔から一気に感情が出てきたかのように、満面の笑みを浮かべる。
「セーダイ殿がのんびり見られる長めの映画をご所望と言っておられましたからな!!
それならこれだろうと、持ってきたでござる!!
大昔の、エイリブ系の国で戦うフィランカ系将校のお話でござる。」
タイトルをチラと見る。
“エイリブン・ローレンツ”と書いてあるその映画のジャケットには、古めかしい民族衣装を着た金髪の青年が馬に乗って剣を振りかざしている、いかにもなオールドシネマなパッケージだ。
「お前……これ3時間以上もあるじゃねぇか。」
少し呆れるが、まぁ内緒話をするにはこれくらい時間があっても良いだろう。
やむなく俺はベッドに腰掛けると、エイラはいそいそと再生準備をする。
「皆、悪いが1時間は寝てくれるなよ?」
俺がニヤリと笑いながらそう言うと、ガスとジェーンは観念したように肩を竦める。
伝わってはいないようだが、意図は察してくれたらしい。
映画が再生されるとすぐに、俺達は投影された画面を見る。
(マキーナ、始めてくれ。)
-映像データを記録、隠しカメラと盗聴器に割り込みをかけます-
-30分程で済みますので、しばらくの辛抱を-
それはありがたい。
全く興味のない映画を1時間以上見るのはそれなりに苦痛だ。
そうして寝ないように頑張りながら画面を見ていると、携帯端末に“作業完了”の文字が浮かぶ。
やれやれ、やっと自由に話せるってもんだ。
「おい、ガス、起きろよ。」
「……んぁ?ね、寝てねぇよ……。」
足でガスをつつくと、寝ぼけた声を出しながらガスが目を開ける。
「さて、俺のAIがこの部屋の盗聴器と隠しカメラを無効化してくれた。
ようやく、色々と話したい事を話せるってモンだぜ。」
俺の言葉に、3人とも驚いた様にこちらを振り返る。
「あぁ、安心してくれ、別にどう動こうが喋ろうが、今この話はこの部屋以外には聞こえない。
カメラの映像には俺達が映画を見ている姿と、映画の音声だけが流れているようになっている。」
-それと、ガスの寝息も足してあります-
さすがマキーナ、芸が細かい。
俺の言葉に、改めて周囲をキョロキョロするが、俺はマキーナに指定された隠しカメラと盗聴器の場所を全て教えてやる。
恐らく、3人の部屋にも同じモノが仕掛けられているだろうことも付け加えて。
「まさかそこまで……。
でも、上層部はアタシ達から何の情報を引き出したいのかしら?」
「……恐らくは、ロストテックスが他にもあるか、と言うような情報でござろうか?」
流石に転生者なだけあって、エイラはいち早く気付いたようだ。
あの時俺達はエイラの言葉に従って忘れ去られていた武器庫に立ち寄り、そこであのナイフを手に入れた。
現物は今回不慮の事故で失われてしまったが、あの武器庫に滞在していたことによって“何らかの情報を入手しているのではないか”という疑いをいまだに持っていると言う事なのだろう。
「トレメインの野郎、陰湿だとは思っていたが、ここまでやるとはなぁ。
あのアナスターシイもトレメインの古くからいる部下だし、こりゃあ……。」
「いや、トレメインだけじゃないかも知れん。
……今回の俺達の拘束、そのキッカケとなったログはゼロかマミ、或いはその両方から提出されている。」
ガスの言葉を遮り、俺はこれまでに入手した情報を話す。
もしかしたら首謀者はゼロの方ではないか、と疑っているという推測も含めて。
「どうかしら?ゼロもトレメインに言われて提出しただけ、って可能性は?
一応、ゼロだってトレメイン小隊な訳だし。
小隊長から言われれば、アタシ達だって特に疑いなく提出するんじゃないかしら?
だってその、本来ならアタシ達の作戦は万に一つも生き残る可能性がなかったんでしょう?」
そう、実際にはあの作戦の俺達の生還率は5%以下だったと、マキーナのハッキングで判明している。
それも、命にかかわるようなダメージを負った状態で救出される、という可能性で、だ。
正しい生還率としてはほぼ0%だ。
だからこそ、4人全員無傷での生還となれば疑われる。
しかも作戦目標はこの上なく大成功でそれなのだ。
“何の要因が重なってその結果になったのか”は当然分析されるし、その情報収集の一環で戦闘ログの提出を要求されるのは、十二分に考えられる事だ。
「あの時、アリ達をトレインしてきたパワードスーツがいたろ?
アレはアナスターシイではないかと、俺のAIが結論づけている。」
あの時の音声データと、マキーナが照合した音紋データを3人に送る。
「……つまりは、アナスターシイ経由で俺達の状況はトレメインは把握していた、と?」
「でもだとしても、結局は“地下の武器庫に潜った後に何があったか知りたい”ってなって、やっぱりゼロに情報提供を呼びかけたんじゃないのかしら?」
ジェーンの言う事にも、一理ある。
俺も、“ゼロはもう一人の転生者ではないか”という色眼鏡で見ていたからこそ、そういう結論を急いでしまっている可能性がある。
「……もしかしたら、なのでござるが。」
それまで、黙って俺達の話を聞いていたエイラが口を開く。




