818:現状を推測
「あぁ!セーダイさん!大丈夫!?」
軍警察2人に両脇を抱えられながら、引きずるように運ばれた俺はどこかの一室に運び込まれ、投げ捨てる様に放り込まれると扉が閉まる。
どうやら先客……エイラがいたようで、倒れている俺に焦った様子で駆け寄ってくる。
「……お、おぉ、エイラか。
すまんな、ちょっと目が腫れてて、よく見えねぇんだ。」
あの後、アナスターシイの気が済むまでブラックジャックという武器で殴られた俺は、全身の至る所に痣と腫れが出来ていた。
顔面も何発も殴られたおかげか、目の上が腫れ上がり瞼が開きづらくて仕方がない。
それでも何とかエイラの顔を見ると、やはり数は少ないが痣が見て取れる。
「ひ、ヒデェ事しやがるな……女の子の……顔を傷物にするとはよ……。」
「何言ってるの!セーダイさんの方がよっぽど重傷よ!!
軍医!軍医はいないの!?
聞こえてるんでしょう!!」
俺を抱きかかえながら、エイラは叫ぶ。
“お前、またいつもの口癖が消えてるぞ”と言いたかったが、口を動かすのもダルい。
「ヘイ!俺は何にもしてねえのに、何だこの扱いは!お前の顔を覚えたからな!!」
朦朧とした意識の中で、また誰かが部屋に連れてこられた音がする。
あの声からするに、ガスの奴か。
似たような尋問をされただろうに、随分と元気な奴だなぁ。
そんな事を思いながら、俺の意識は微睡みの中に消えていった。
-勢大、この世界の状況に関してなのですが-
「おぉ、聞かせてくれ。
……ていうか、ここどこだ?」
何も無い空間、最初に俺がいた、あの白い地面と青い空が広がる空間の様だったが、何処か違う。
青い空には時々亀裂が入り、真っ黒な何かが滲み出てきては元通りになる。
空も、よく見ればただ青いだけではない。
誰かの視点の、それは戦っている風景だったり食事をしている風景、別の誰かと話している風景などが、うっすらと見える。
-ここはあなたの心の中、それを投影しているだけの、どこにもない空間です-
「ってことは、俺はまだ死んじゃいねぇって事だな?」
“その通りです”とマキーナの声が聞こえたと思うと、俺の目の前に変身後の俺の姿が現れる。
全身を黒いラバースーツのような素材で覆われ、鈍色の銀に輝く胸当て、肩当て、それに手甲と足甲。
頭も、髑髏の意匠が施されたフルフェイスのヘルメット。
紛れもなく、変身した後の俺の姿だ。
ただ、そこまで見てふと、体型が違う事に気付く。
胸当ての膨らみ、腰つき、肩、そして立ち方。
まるで女性の様な形状だ。
<この姿は、私が私を投影したもの。
いつかの世界で、貴方は少女にこれを貸し渡した事がございました。
また、女神の力を持つ少女にも私で制御しました。
その際に全身をスキャンし、あなたのパートナーとして有利な体型を記録しておきました。>
それだけ聞くと、俺が女の子を取っ替え引っ替えしてるスケコマシみたいだな、と言おうとしたが、思い当たるフシも多いので黙っておく。
それよりも、今の状況だ。
<少しずつではありますが、現在の異世界において私の力を拡充させつつありますが、まだ変身能力を使うまでには行きません。
あなたの回復も、基本的なサポートしか出来ませんので引き続き注意して下さい。>
俺は頷く。
かなり前から解っていた事だが、俺は異世界に転移した際、多少の手持ちポイントを持っている。
転移したばかりの時に“100%”と表示されているソレは、滞在していると少しずつ減っていく。
そしてそれは、超常の力を使うと減少が加速する。
最終的に0%になると、これまで回収した他の異世界のエネルギーを消費し始めるか、そのまま滞在している異世界から消失するか、の2択になる。
これまで回収した異世界の力は、手持ちの減り方とは違い恐ろしい速度、体感で10倍以上の速度で減っていく。
これが減れば俺の目的である元の世界に帰るためのエネルギー目標から遠のくから、極力やりたくない。
じゃあ消失すればいいのでは、となるが、そうなっていると言う事は、かなりマズい状況まで追い込まれているという事だ。
何もかも放って消えれば、確実に転生者に不都合が起きる。
そして、“俺のせいでその世界が崩壊する速度が早まる”という結果になってしまう。
それだけは避けたい。
個人的な考えだが、因果は巡るのだ。
見殺しにした対価は、必ずどこかで払わされる事になる。
きっと、そんな結果で元の世界に戻った時、俺は胸を張って自分の人生を生きられないだろう。
そんな気がするのだ。
<勢大、現在の状況ですが、確実に周辺の人物に敵側の内通者がいます。
あの正体不明のパワードスーツ、アレもアナスターシイの可能性が高いですが、アナスターシイ個人の行動とは思えません。
そして、パワードスーツ自体はあの旧基地爆発の残骸の一部として発見されたと言う事で、首謀者不明のままクローズされます。>
なるほど、そういう流れに持っていく気か。
敵、と言うのが何を指すかによるが、この場合は俺達を殺そうとしている存在、の事だろう。
そう考えながらマキーナを見れば、大きく頷いている。
<この際、あのアリ達、変異人類は利用されているだけです。
現状、あなたかエイラ、どちらかを殺そうとしている勢力が軍内部にいます。>
これまでの流れを見れば、それは当然だな、と思う。
ただ、自分でこういう事を言うのも情けない話ではあるが、俺が異分子として目立つから邪魔なのは解る。
だが、エイラを目の敵にする理由が解らない。
傍から見れば、ただの狂言癖のあるオタク少女ではないのか?
<今回のあなた方の捕獲、勢大が言うようにあまりに早すぎたので調べた所、ゼロ機とマミ機の通信ログが提出された痕跡があります。>
なるほど、と合点がいく。
あの2人は個別行動をしていたとは言え、一応は分隊の隊長と副隊長だ。
傍受などするまでもなく、俺達の通信は聞き放題だったはずだ。
逆を返せば、“通信を聞いてたんならちゃんと命令しろ”と思わなくもないが。
だが、だとするとトレメイン辺りがゼロに指示したのか?
そこまでして俺達を追い込む理由はなんだ?
<現状ではその理由までは判断出来ません。
ただし、勢大と同様かそれ以上にエイラも危険視されている、という事実だけは残ります。
私も探索を進めますが、引き続き勢大も警戒してください。>
マキーナの姿が薄れていく。
あぁ、目が覚めるのかと俺は感じながら、何となく引っかかるものを感じていた。




