813:補給と発見
「んで、その……旧基地ってヤツはどこにあるんだ?」
俺達全員、先程の戦闘で疲れ切っていた。
ただ、あの場に留まって小休止していても危険だと考え、すぐに移動していたのだ。
[隠し基地ですからな、簡単に見つかる所にはないのでござ……あ、ここでござる。]
エイラのパワードスーツが地面を指差しているのを見た俺達は、頭に“?”マークを浮かべながらそこに近寄る。
周囲は一面の森林であり、指差す地面も枯れ葉と土で覆われている。
“何の冗談だ?”と聞こうとした次の瞬間、ガクンと地面が凹む。
[うお!?何だよこりゃあ!?]
[ちょっと!大丈夫なのこれ!?沈んでいってるんじゃないの!?]
ガスとジェーンが慌てて周囲を伺うが、エイラは落ち着ききっている。
そして、大体3メートル程度だろうか?ゆっくりと降りた地面は止まり、横に抜ける通路に明かりが灯る。
[こっちでござる。]
エイラが進むと、俺達も何となく警戒しながら後に続く。
俺達全員が最初の地面から降りると、またゆっくりと上に上がっていく。
[……凄いわね、エーテル機関がまだ生きている昔の基地があるなんて。]
[ここは、LC-5に降下した第一次調査団が残した地下拠点、そこの弾薬庫でござる。
当時は最新鋭、今となっては旧式ではありますが、循環式エーテル機関を使用していて、耐用年数は建築物が朽ちるのとイコールでござるからな。
……着いたでござる。]
何となく古ぼけているが、何となく見覚えのある施設、格納庫らしきモノが透明な扉の向こうに見える。
[お、これもまだ動くでござるね。]
エイラは壁際のコンソールを動かすと、俺達が来た方向の通路からシャッターが降りる。
密閉状態になると周囲から穴が空き、液体を噴射する。
[おぉ、こりゃすげぇな、クリーンシャワーまで当時からあったのか。]
[洗浄液はもう無くなってるかなと思ったでござるが、どうやらまだあったみたいでござる。]
洗浄が終わると、格納庫への扉が開く。
エイラはサッサと空いているハンガーにパワードスーツを固定すると、機体から降りてこちらを見る。
「ここは空気も汚染されていないので、機体からおりて活動できるでござる。
いわゆる、生身で進むパートでござるな。」
ガスとジェーンもだいぶ慣れた様で、エイラが言っている事が部分的に理解は出来なくても理解出来る範囲内で状況を把握してくれるので、非常にありがたい。
全員でハンガーに機体を格納しつつ、とりあえず体を伸ばす。
パワードスーツの中も、そこそこ窮屈な姿勢を維持しているからこそ、こうして降りられるチャンスがあれば降りて体を伸ばす。
そういう意味では、この休憩は非常にありがたかった。
「で、お前が言っていた“弾薬のアテ”ってのはあるのかよ?」
「もちろんでござる。
さっきこの格納庫内部を確認したら、ブースターの圧縮推進剤、それと機銃の弾丸、ミサイルの予備は人数分補充してもまだ余りがあるくらいには余裕がありましたぞ。」
“それに、アレも”とエイラは意味深な笑みを浮かべる。
とりあえず俺達は手分けをし、ガスとジェーン、それにエイラも弾薬の補充を進める。
俺の機体はそも弾薬を使っていないから推進剤の補充だけで済むのだが、それもエイラがやっておくという事で、俺はエイラに頼まれたお使いに回される事になった。
「マキーナ、この弾薬庫、何で無事なんだ?」
1人で通路を移動しながら、通信用ゴーグル越しにマキーナに確認する。
-ここの弾薬が誘爆した際に、隔離して基地を守る構造になっている様ですね-
-何らかの要因でそれが機能し、基地とこちらは隔壁で分断されているようです-
周囲を把握したのか、マキーナがゴーグル上にマップを表示する。
俺達が降りてきた場所は、本来は非常用の出入口で格納庫から別の通路が伸びているが、それは途中で切れている。
なるほど、この切れた先が旧基地、現在はアリ達の巣になっているわけか。
-次の部屋に、エイラが言っていた情報端末があるようです-
扉の1つが、ゴーグル上で赤く表示される。
「ええと、確かここのパスコードは“LC-5”だったな。」
余りにも簡単なパスコードだが、まぁこんなモンだろう。
どんなに科学技術が発展しても、結局は使う人間がそんなに進化できないって事だ。
-敵性反応なし、無人です-
確かに生物の気配はない。
まぁ、防衛ロボットの類がいたら解らないか、と思いつつ中に入る。
「この端末か……。
よし……あー、エイラ、端末を繋いだぞ。」
[オッケーでござる。
データ吸い出しはこちらでやるので、セーダイ殿は第2武器庫からニューテルミットボムをありったけ持ってきて欲しいでござる。]
“大丈夫なのか?”と思わず聞いてしまうが、エイラの調子は変わらない。
言われるまま第2武器庫に入って、周囲を探す。
「へぇ、元の世界にもあったな、こんな武器。」
長い銃身と、給弾ベルトに対応している機関銃を見つけ、思わず手にとってみる。
確か真っ黒いプロテクトギアとか言う防具をつけて、この武器を使う映画あったなぁ、と思いながら、銃の右側にあるコッキングハンドルを引いてみる。
ガキリ、という嫌な音を立てると、ハンドルが元の位置に戻らないまま止まる。
-どうやら、中のスプリングが折れた様ですね-
やれやれ、確かに置いてある武器は使い物にならないって所か。
少しガッカリしながら元の位置に機関銃を戻すと、マキーナの探索に何かがヒットする。
-この箱がテルミットのケースの様です-
-それと、その隣の箱なのですが……-
マキーナが計測しきれないその箱を手にとってみる。
ジュラルミンで出来た、少し小ぶりの箱。
どうやら危険は無さそうなので、ボタンを押して開けてみると、中には1本のナイフが入っていた。
「……なんでこんなモンが、こんな厳重な箱に入ってるんだ?」
エイラに見せたら何か解るかも知れない。
俺はテルミットの箱と一緒に抱えると、皆の元へと引き返した。
「おぉ、セーダイ殿、遅かったではござらんか!心配したでござるよ!!」
戻ると、エイラが花の咲いた様な笑顔で俺を迎えてくれる。
「さっきまで、“セーダイさんに何かあったのかな?”って、ずっと心配してたんだぜ?」
ガスがニヤニヤしながらそう言うと、近付いていたエイラが途端に照れたのか顔を伏せて立ち止まってしまう。
ガスがジェーンに足を踏まれ、悲鳴を上げた声で、やっと顔を上げたエイラと目が合う。
「お、おかえりなさいでござる、セーダイさん……。」
耳まで真っ赤になったエイラを見ながら、俺は“こんなんでこの作戦大丈夫なのか?”と一抹の不安を感じていた。




