810:撹乱作戦開始
-それでは、追加武装はエイラの言っていたN装備で良いですね?-
「あぁ、それで設定してくれ。」
目の前のウェポンラックが動き出し、俺のパワードスーツのバックパックを外すと、別のハンガーから運ばれたバックパックを取り付け始める。
-武装説明には目を通しておいてください-
マキーナに言われ、俺は端末に装備内容を展開する。
「あぁ、主兵装が高速振動剣なのか。
これゼロが最初に見た時に使ってた奴か。」
-正しくはそれの改良型、のようですが-
日本刀の様な見た目ながら、刀身が高速振動する事によって斬れ味を上昇させる近接武器。
ただ、消費エネルギーが桁違いなため、これを装備すると他のレーザー系兵器は全て装備出来なくなる。
また、その攻撃特性の都合上、右腕にメインウェポンとも言える機銃も装備出来なくなるというオマケ付きだ。
-再設定なら間に合います-
-エイラには秘密が多過ぎます-
-彼女が転生者でない可能性が出てきた以上、本当に狂言を言っている誇大妄想家の可能性も考慮すべきです-
「いや、このまま、エイラの指定した装備で行く。
何より、ポン刀の扱いなら多少は練習したろ?」
それ以上はマキーナも何も言わず、バックパックの換装と高速振動剣用のエネルギーケーブルを通す作業を進めている。
確かにエイラに例のキーワードを言わせた時に、何の反応もなかった。
ただ、これまで話した内容やエイラ自身の記憶とを照らし合わせると、どうにも腑に落ちない。
エイラが本当に妄想で語っていたとしたら、もぅとあやふやな所が多かったり、辻褄が合わない事が出ても良いはずだ。
しかし、これまでの話にそう言った点は見られない。
マキーナもその事は気にかけているからこそ、俺の言葉にそれ以上反発しないのだろうとも思う。
「……何か、邪魔をしているモノでまあるのかな?」
-或いは、“2人の転生者”という線も考えられます-
-別の転生者が主たる存在であり、エイラの中にいる川大・野市という少年が従であった場合、その様な事象も想定されるのでは?-
“確かになぁ”と呟きつつ、俺はタバコの電源を入れる。
流石未来の世界だ。
紙巻きタバコは無くなり、タバコの形をした電気製品が存在してやがる。
スイッチを入れると吸い込み口からタバコを吸い、ゆっくりと煙を吐く。
煙といっても水蒸気なのか、すぐにかき消えて無くなってしまうのは少し寂しい気もするが。
とはいえ、宇宙戦艦の中を煙だらけにする訳にはいかないからこういうモノも流行るのだろう。
ってか、これ便利だから元の世界でも発明されないかなぁ……。
-勢大、お寛ぎのところ申し訳ありませんが、バックパックの側面……あぁいえ、左右の肩装備はどうされますか?-
マキーナからの皮肉も聞かなかったフリをし、もう一度表示されている武装に目を通す。
N装備は高速振動剣が中心の装備だが、両肩の装備は任意自由選択となっていた。
不足している遠距離戦用にチェインガンやミサイル等が装備出来るようだ。
「うーん……。
どれも悪くないんだがなぁ。」
-ショルダーチェインガンは標準装備の機銃よりも口径は大きいですが、その分装弾数が減少しております-
-マイクロミサイルポッドは装弾数が通常のものより多くなりますが、重量が増加します-
パチパチと装備データを切り替えて見ているが、いまいちどれもパッとしない。
高速振動剣を使うのに、遠距離装備でバランス良くしてしまうと結局剣を装備する意味がなく、“なら別の装備で良いじゃねぇか”という結論になりそうだ。
「あ、これ良いんじゃねぇか?」
-正気ですか?-
マキーナからあまりにもシンプルな言葉が出て来て、思わず笑ってしまう。
「これくらいの方が、いっそ潔いだろ?」
俺は笑うと追加装備を選択する。
どうせなら振り切った方が良い。
エイラの事もそうだ。
彼女には何か隠し事があるのかも知れないし、もしかしたら転生者で無いのかもしれない。
それでも、エイラの言葉には信じるに値する何かがある、そう感じていた。
なら、それで振り切ってみて、大外ししたらその時考え直せばいい。
俺は俺の思うように生きていたい。
そうでなければ、元の世界に戻った時に俺が俺ではなくなってしまいそうだ。
まぁ、“その時”にまだ生きていたら、の話だが。
「それでも、俺は俺さ。」
装備換装が終わったパワードスーツが、ゆっくりと俺を招き入れるために機体を展開していく。
[おぉ、セーダイ殿、やっぱりその追加装備にしてくれましたか!!
いやー、追加装備の事を言い忘れておりましたが、セーダイ殿なら必ずそれを選んでくれると信じておりましたぞ。]
[うげ、なんだよセーダイ、お前のその装備、カタナ以外は何もねぇじゃねぇか!!]
そう、追加装備には予備の刀身、追加ブースターと増槽という、“完全近接特化”を俺は選んでいた。
[アラ、だって愛しのエイラに言われたんでしょ?
なら、男だったら良い所見せたくなるものねぇ。
アンタみたいなチキンハートとは大違いよ、ガス。]
[なんだとぉ!!
ジェーンてめぇ!戻ったら覚えてろよぉ!!]
いつもの賑やかな雰囲気に、俺は思わず笑いが出そうになる。
良いチームだ。
エイラの言葉ではないが、全員生きて戻るために頑張りたくなるってもんだ。
「まぁ、そういう訳なんでな、遠距離戦になったら俺は役立たずだ。
頼んだぜ皆。」
[おう、任せとけよ。]
[良いわよ、お姉さんが2人の恋ごと守ってあげる。]
[ここここ恋とか!そう言うのではござらんが!!
ともかく、セーダイ殿には1番ヤバい状況を抑えてもらう必要があるでござる!!
なので、しばらくは俺達3人で踏ん張る必要があるので!よろしくお願いしますでござる!!]
エイラが慌てつつも、一生懸命進行ルートと展開位置を示して、それこそ普段聞かないような大きな声で話している。
エイラを除いた俺達3人はそれを微笑ましく見ながらも、移動ルートを頭に叩き込む。
-ポッド降下-
マキーナのメッセージと同時に、フワリとした嫌な浮遊感に全身が包まれる。
-逆噴射ブースター、点火-
気持ちの悪い浮遊感は終わり、一気に重力が戻ってくる。
離脱高度に到達すると、ポッドが花びらのように開き、俺達を放り出す。
幸い、降下地点には虫どもはいないようだ。
機体のブースターを短く吹かして着地すると、すぐに俺達は陣形を組んで前進を始める。
長い夜になりそうだ、と、誰かが呟くのが聞こえた。




