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異世界殺し  作者: Tetsuさん
星々の光
808/831

807:本来のストーリー

「まず……なんですが、これバーチャルリアリティの……。」


そこは聞いた事を、一応優しく返す。

相変わらずエイラは様々な方向に話題を振り回すので解りづらいが、少しずつ全貌が見えてくる。


ゲームが始まると主人公のゼロ(ここはプレイヤーが好きに変更できるらしい)は、いきなりパワードスーツ装着画面になり、チュートリアル代わりのデジタル演習を受け、戦地に降下する。

それが俺達の体験した、あのLC-5降下作戦だ。

本来はあそこで負け戦となり、表大陸の人類拠点まで追いやられる。

追い詰められた人類は、起死回生の一発と言うことでゼロを含めた少数部隊に裏大陸への特攻作戦を命じる。

作戦内容としては敵主要拠点へ宇宙空間から突撃し、敵情報の取得だという。

その作戦を達成すると敵、要はアリ達の出生理由と科学技術を目の当たりにし、主人公達は葛藤する。

更に、そこには“人間の姿をした”アリ達もいて、そこの女の子を1人救助してしまうらしい。

というのも、“人間の形を保ってしまったアリ”は、彼らの中で迫害対象であり奴隷階級に貶められており、ゼロはその正義感から救助してしまう。

それが足かせとなり敵に発見され、ゼロの部隊は半壊しながらも脱出する。


持ち帰った情報から新しい動力のパワードスーツが誕生したり、また奴隷の女の子は実はアリ達の女王の娘で、そこから重要情報であるアリの女王の居場所を知った人類軍は大攻勢をかける。

この大攻勢は既にアリに知られており、囮作戦として人類軍は殆どが壊滅する。

この時に、エイラも命を落とすのだという。

そして僅かに残された人類軍は最後の手段として、惑星を破壊し切る新型爆弾を、“本当の女王がいる拠点”に設置して惑星LC-5から脱出する、と言うのが本来のストーリーらしい。


「……という、次回作もありそうな雰囲気でストーリーモードが終わるんですぞ。

その後は新しいストーリーが配布されるのを待ちつつ、エンドコンテンツであるPvPが主流でござったなぁ。

そう言えば、そっちの方が大ウケしていてですな、新ストーリーよりもPvPのFPSに路線変更するかも、みたいな話は上がってましたな。」


「……なるほどねぇ。

ジャンル変更とか、たまに聞くよなぁ。」


あまりピンとこないが、昔やってた“銃とグリフォン”みたいなロボゲーも、リアル戦場シミュレーター路線から普通のロボゲー路線に切り替えて大失敗、とかあったから、そんなモンだと理解する。

あれもなぁ……、補給ヘリの挙動に悶絶するのも楽しみなのに、建物を破壊すると空中に浮かんでる弾薬を拾って補充、とか陳腐になっちゃったからなぁ……。


「セーダイ殿?どうしたでござるか?」


いかん、ついつい懐かしさから考え込んでしまった。

そんな考え込んでいる俺の顔を、エイラは下から覗き込むように見ている。


「あ、あぁ、別に何でもない。

確かにそれだと、最初のミッションで俺が改変しちまったって事だろ?

確かにこの後が予想出来ねぇなと思ってさ。」


覗き込んでいるエイラの表情に動転してしまい、何だか思っても無い事を慌てて口に出して誤魔化す。

ただエイラは“そうでござろう”と神妙な顔で腕組みしつつ、俺の隣を歩く。


「そう言えば、ガスとジェーンの2人は、本編に出てくるのか?」


ふと、思いついた事を聞いてみる。


「あぁ、思い出したのでいつか言おうと思っていたでござるよ。

あの2人、確か最初のミッションで落下したカプセルが開かずに出られずにいて、そのまま閉じ込められている2人なんでござる。

あそこに到着したプレイヤーが気付いて助けると、その後の撤退が少し楽になるお助けキャラですぞ。

ただ、仮に最初のミッションであの2人を助けても、次の特攻作戦で命を落としますな。」


“マジかよ”と思わず呟く。

自分でも、その言葉が何に対してなのかよく解らない。

厄介な運命を持っている2人だったのか、と思ってしまった自分に対してなのか、それともそれを(・・・)知っていながら(・・・・・・・)普通に(・・・)接している(・・・・・)エイラに対してなのか。


もしかしたら、と、エイラの顔を見ながら思う。


俺もエイラも、既にどこかおかしいのだろう。

俺はいくつもの異世界での死を見すぎた。

エイラはまだ現実感を持てないでいるのだろう。

俺達は、理由は違えど、その精神は常人のそれとは大きくかけ離れてしまっているのではないか。


「大丈夫でござるよ、セーダイ殿。

ストーリーが変わったなら、あの2人もまた違う展開になる筈でござる。

それに、ワタシとセーダイ殿がいれば、きっとどんな敵が来ても大丈夫でござるよ。」


屈託の無い笑顔を向けられて、俺は自分の思い違いに気付く。

この子は自分の腕と、そして俺を信じているのだ。

解りきっていたストーリー、自分で変えようとして変えられなかった流れを、俺が変えたのだ。

俺のように下を向いていない、明日を信じる希望を抱いて前を見ているのだ。


「……そうだな。

ってかお前、今自分の事を“私”って言ったか?」


「あ!いいいいや、そんな事は無いでござるよ!!

俺は俺だし!ってゆーか俺でござるから!!

……どうにも、セーダイ殿といると変な気分になるのでござるよ。

最近、エイラとしての気持ちと俺の気持ちが混ざってきているのかも知れないでござるなぁ。」


なるほど、と思う。

“ロールプレイに引っ張られる”というのは、俺も体験している。

その世界で“役割”を得てしまうと、自分自身の思考がというか、世界が“世界に初めからいた存在”として固定しようとしてくる。

エイラの元の人格、確かノイチ君だったか。

その人格とエイラの人格が混ざって来ているのかも知れない。


「それがお前にとって望ましいモノなら、そんなに悪くは無い事でもあるが……いや、エイラに完全に上書きされてしまうのはマズいな。

なんせ死亡フラグを持ってるキャラだ、たまには元の世界の事もしっかり思い出せよ?

それも出来るだけ詳細に、物心ついた時からここに来るまでの記憶を、だ。」


俺はその為に、完全に飲まれないように鍛錬と一緒に記憶の定着をやっていたのだ。

俺は俺だ。

他の誰でもない、田園(たぞの)勢大(せいだい)だ。


「お、待ちわびたぜお2人さん。

てっきり、お邪魔虫が来る前に何処かの休憩所で一発ヤッてるのかと思ったぜ。」


「馬鹿、アンタじゃあるまいし、セーダイとエイラがそんな事するわけ無いでしょう!!」


いつもの夫婦漫才に、俺とエイラは目を合わせるとお互い呆れながら合流する。


こういう楽しい時間が続く世界だったらどれだけ良かったか。


そんな事を思いながら。

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