806:変わるストーリー
「こ、コイツ!?扱いが……!!」
模擬弾を回避しようとブーストを蒸した瞬間、バランスを崩してド派手に転倒する。
[大丈夫!?]
焦った声で通信してくるエイラに、“大丈夫だ”と苦笑いしながら返す。
ヤレヤレと呟きながら、俺は何とかパワードスーツを起き上がらせるべく藻掻く。
この感じ、昔にもあった気がする。
帝国製の操縦方法から、共和国製の……いや、手動操作に切り替えた時だったか?
ともかく、それまでの操作方法を変更した結果、反応が過敏過ぎて扱いこなすまで相当苦労した世界が、確かにどこかであったはず。
そんな事を思い出していた。
[遂にセーダイもやったか。
いやこの機体、出力が上がった分操作が過敏になり過ぎてるぜ。
これ作った科学者も、いっぺん乗ってみりゃいいんだ。]
[アラ、初めてに失敗は付きものでしょう?
だからアタシ達もこうして慣熟訓練を受けてるんじゃない。]
ガスとジェーンも軽口を叩きながら、何度も転倒しては起き上がるのを繰り返している。
ゼロの分隊に改めて配属命令が出た俺達は、そのまま試作機テストパイロットの任も受けていた。
やはりここでも、前回の降下作戦において一番最初に戦線を安定させ、人類側を逆転に導いた兵士達、と言うことで一目置かれていたらしい。
俺としてはそんな評価など気にする必要は無いが、それの影響として“エイラが表立って虐められなくなった”のは大きい結果かも知れない。
エイラの代名詞でもある“オタク野郎”と呼ばれる事も減り、露骨に避ける様な真似は減っていた。
ただ、本人は未だに引きずっているのか、それとも“そういう事をした人間達には興味は無い”とでも言わんばかりに無視を続けていたし、相変わらず暇な時は俺の私室に来てアニメ鑑賞会で盛り上がっていた。
[全員、本日の訓練はここまでにしましょう。
では格納庫に戻って整備、解散で。
また、明日は0900にブリーフィングがありますのでよろしく。]
ゼロの号令で、俺達はホッと息をつきながら格納庫へと歩みを進める。
-勢大、惑星間通信並びに旗艦との交信量が増加しています-
-何か動きがあるかも知れません-
マキーナからの文字が表示され、俺の中で緩んでいた緊張の糸がまた張り直される。
マキーナもまだそこまで機能を拡張出来ていないようだが、ネットワーク全体を計測は出来たようだ。
「通信が増えるってのはつまり、敵に動きがあったか、何か攻勢を仕掛けようと準備してる、って所かな……。」
[セーダイ殿?何か言いましたでござるか?]
ガスとジェーンがやかましく話している中でふと漏らした呟きも、エイラは聞き逃さなかったらしい。
見ればパワードスーツのガラス越しに、こちらを凝視しているエイラの顔が見える。
「いや、何でもねぇよ。
今日も何のアニメでも見るんかなと、気になっただけさ。」
[おぉ、それならまだ見ていないオススメの映画がありましてな!たまにはアニメでない、古い実写のホラーとか……。]
[うぇ、ホラーとか相棒の顔だけで十分だぜ。]
[ちょっとガス、今お前何て言った?あぁん!?]
ヘトヘトになりながらも夫婦漫才を繰り広げる2人を見ながら、全員で格納庫へと帰る。
この機体、一つ一つはゼロが見せてくれたようなスペックを持っているのだが、その全てが組み合わさると突然何も出来なくなる。
もっと言うなら、全てにエネルギーが回されてしまい従来機よりも出力が落ちる。
その上、操縦系統だけはピーキー過ぎるので、以前エイラが言っていた“我慢して従来機に乗ろう”という言葉もよく理解出来た。
-このパワードスーツを動かすには、ジェネレーターの出力が圧倒的に足りなさすぎます-
-恐らくですが、この試作機は“それぞれをテストする為”に作られており、これで実戦は危険過ぎます-
マキーナからの忠告を受け、格納庫に戻った俺はゼロに要望を出しておく。
多分だが、ゼロとマミの機体に積まれているのは実戦をも想定したジェネレーターのはずだ。
だから気付いていない、と言う所なのだろう。
案の定、俺からの報告を受けたゼロは渋い顔をしていた。
「……何だこのジェネレーター、僕の機体のものどころか、従来機のモノより低い出力しか無いじゃないか。
トレメインさんにお願いしていた筈なのに……。」
気になる名前が出てきたので事情を聞くと、トレメインは未だに軍の人脈に強い影響力を持っているらしく、今回の機体配備に関しても1枚噛んでいるらしい。
なるほど、降格した事を根に持ってか、俺達の昇格が気に食わなかったか、或いはその両方か。
面倒な奴に目をつけられた、という事か。
「ともかく、ジェネレーターに関しては僕の方からも軍に掛け合います。
いや、報告してくれて良かった、このまま戦場に出ていれば危ない所だった。」
その言葉からも、明日朝のブリーフィングとやらは作戦指示なのだろうと想像がついた。
やれやれ、危うい所だった、そう思いながら作業に戻ろうとした時に、強烈な殺気を感じた。
「!?」
振り返っても、他に誰かいた形跡はない。
「……気のせいか?」
「セーダイ殿!後はセーダイ殿の機体の整備だけですぞ!!」
エイラに呼ばれ、俺は慌てて持ち場に戻る。
腑に落ちないモノを感じるが、今は出来る事をするしかない。
「ところで、何か話したい事があったのではござらんか?」
整備を終え、自室に戻ろうとした時にエイラから話しかけられる。
この後、自室に戻ったらガスとジェーンも含めて、全員で俺の部屋で映画鑑賞の予定になっていた。
だから、内緒の話を出来るのは今しかないと思ったのだろう。
「あぁ、その、お前が前世で遊んでいたっていうゲーム、基本的な展開を教えて欲しくてな。」
「いや、今となっては、ストーリーの流れが変わってしまっているので、参考になるかどうか……。」
それでもいいから、と、真剣な表情でエイラを見る。
ストーリーが改変されていようと、いわゆる基礎の部分を知っているのと知らないのとでは大きな差がある。
エイラが遊んでいたと言うゲームのストーリーが解れば、最悪俺が解らなくてもマキーナがある程度の予測が立てられるはずだ。
何故かエイラは恥ずかしそうに目を逸らした後、少し考えるような素振りを見せると、ゆっくりと話し始めてくれた。




