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異世界殺し  作者: Tetsuさん
星々の光
806/831

805:試作型

「これはゼロ伍長殿!昇進おめでとうございます!!」


俺達は全員起立すると、ゼロに向かい敬礼する。

それを見たゼロは、困った様に苦笑いする。


「や、止めてくださいよ皆さん。

皆さんは僕の分隊になりますが、これからも変わらず階級呼称抜きで“ゼロ”と呼んでいただけると助かります。」


チラとゼロの顔を盗み見る。

よく見た顔だ。

痩せている女性が周囲から“少し痩せた?”と言われて“そんな事ない”と謙遜(けんそん)している時に見せる表情だ。


或いは、転生者が(・・・・)よくみせる表情(・・・・・・・)とでも言えば良いだろうか。


あまり好きではない表情だ。

本当は自信に満ち溢れているのに、それを隠して褒められるのを待っている顔。

謙遜は美徳だが、行き過ぎた謙遜は鼻につく。

ゼロの態度や表情は、どう見ても後者のソレだ。


「あーっ!ゼロ!いないと思ったらこんな所にいた!!」


やれやれ、おてんばヒロイン様もご一緒か。

エイラを見れば、ますます存在が薄くなっている。

……ってか、マジで物理的に透けてると思えるくらいの存在感の薄さだ。

それが陰キャの奥義なら、後で俺も教えてもらおう。


「何だよ、マミも来たのか。

まぁ丁度いいや、皆とこれからの事を話したかったんだ。

皆さんも、座ってくださいよ。」


俺達は再敬礼すると、規則正しく席につく。

ジェーンとガスの2人も余計な口を開かない所を見ると、この辺の機微は心得ているらしい。

仲間が優秀だと助かるが、それはそれで会話の口火を切る役がいなくなる。

まぁその役は俺、という事だろう。


「ゼロ伍長、……いえ、ゼロ、これからの事とは、何でしょうか?次の作戦ですか?」


「そんな、僕は皆さんと比べれば若輩者ですから。

敬語でもなく、フランクに話していただけるとありがたいです。」


俺は“追々と”と一言返すと、ゼロは肩をすくめて諦め、胸ポケットから端末を取り出し、立体画像を表示する。


「……これは?パワードスーツですよね?」


立体画像で表示されたのは、俺達が使っているパワードスーツ。

ただ、背面の装備が先日俺達が使った物よりゴテゴテしている。


「……!?」


一瞬、エイラが目を見開いたのが見えた。

どうやらゲームで見覚えのある装備、と言う事なのだろうか。


「これはまだ量産前の、試作パワードスーツで、その名を“アルテミス”と言います。

従来のパワードスーツに比べて1.25倍の機動力と装甲、そして2倍の稼働時間を実現する予定の、次期主力量産機になる予定です。

また、この背面の装備が新兵器、“サンドリヨン・ドアノッカー”という名称のレールキャノンです。」


立体画像に表示されているパワードスーツが、ゆっくりと動き出す。

両足での歩き、ホバーダッシュ、ブーストジャンプ、右腕の機銃で射撃、左腕に備え付けのシールドからヒートブレードが飛び出して斬るモーション。


左腕についているヒートナイフが、右手で操作しなければならなかった今のパワードスーツよりも便利そうで、こちらの方が使いやすそうだな、というくらいの感想が浮かぶ。


「すげぇな、ホバーの機動力がダンチだぜ。」


「ジャンプの継続能力も凄いわ。

1.25倍のハズなのに、かなりの高度まで到達出来てる。」


ジェーンとガスも、その性能に驚いている。

ただ一人、エイラだけが無反応だ。


「しかも凄いのはここからですよ。」


ゼロが凄いオモチャを披露する少年の様な表情で端末を操作する。

立体画像のパワードスーツがリセットされて直立に戻ると、腰を落として背面の装備を展開し始める。

ソレ(・・)は、背中から正面に頭上を通り抜けるように動き、ゆっくりと砲身を伸ばす。

それに合わせるように、背面と腰から地面に向かって棒が伸び、突き刺して体を固定する。

立体画像のパワードスーツがトリガーを引くと、砲身の先端から弾丸が射出され、影響範囲が表示される。

グングンとパワードスーツが小さくなり、砲弾とその余波の影響範囲が大きくなっていく。


「……ワァオ……。」


「コイツは……スゲェな。

お前もそう思うだろ?セーダイ。」


ガスに話を振られ、俺も小さく頷く。

ゼロはそんな俺達の驚いた顔を見て、満足そうに微笑む。


「どうです、これが我が分隊に支給される試作機です。

今回の活躍で、僕達の働きを上も期待していると言う事で受領しました。

1日でも早くこれに慣れるためにも、明日からこれの慣熟訓練となります。

……まぁ、マミは新型機でも装備は変える予定ですが。」


「何よそれ!アタシの腕が信頼出来ないって言うの!?」


ゼロに詰め寄るマミを見て、ジェーンとガスは笑い出す。

新型パワードスーツの話を通して、そしてこのやり取りで、チームの結束が少し強くなった、という所だろうか。


だが、俺はエイラの表情がずっと気になっていた。

特に、サンドリヨン・ドアノッカーという装備を見た時のエイラの厳しい表情が、だ。

それはまるで、敵を見るような目だった。




「おい、あの装備に何かあるのか?」


食堂からの帰り道、自室に戻る途中にエイラに話しかける。


「アレは……ストーリー後半に投入される、増援の人類軍が使う量産機の原型機、でござる。

量産機はガチで強いので、それが主人公部隊にも一部支給されたら真っ先に主人公と育てた推しキャラは乗せ換える事、それでラストまではまず死なない、と言うのが攻略での“ある種の常識”なくらい安定しているでござる。」


「あぁ、確かにそう言うのあるよな。

“もっと早くこれを寄越してくれたらあの時のステージ楽だったのに”とか“この装備でもう一回最初からやってヌルゲー体感したい”とか、よく思うよな。

……つまり、それを入手するまでの難関ステージがある、と?」


言われて、何となく察してしまう。

先程までのエイラの表情、そして今のこの物言い。


「あの試作型サンドリヨン・ドアノッカーは一発撃つまでに5秒の充填時間と、それまでの行動で熱が蓄積している場合、システムリブートで60秒のブラックアウトが発生するんですぞ。

……あの素早い動きのアリ達を相手に、60秒間静止するとどうなるか、セーダイさんならすぐ解りますよね?」


珍しく真っ直ぐに、真剣な目で俺を見るエイラの気迫に、一瞬気圧される。

高速戦闘中に1分間棒立ちになる結果など、考えるまでもない。


「……いつものオタク口調が無くなってるぜ?

まぁ、どれだけヤバいかは理解したけどよ。」


「なら良いでござる。

セーダイ殿がヤバさに気付いてくれたなら、わた……俺から言う事は無さそうでござるし。

あ、ちなみにあの試作型、攻略サイトで“ゴミだから我慢して従来のパワードスーツに乗りましょう、イベント上降りられない場合?知るか”と書かれているくらいの機体なので、ゲーマーの腕の見せ所、という奴ですぞ!!」


ホッとしたように笑うと、先程までの張り詰めた空気が一瞬で消えて、いつものエイラに戻る。

不思議な情緒のヤツだなぁ、と思いながら、軽い足取りで自室に戻るエイラの後ろ姿を、俺は呆れながら眺めていた。

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