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異世界殺し  作者: Tetsuさん
星々の光
804/831

803:ストーリー改変

[アレが本編のメインヒロイン、ええと、デフォルトネームは……そうだ、マミ!マミ・グランウィッチ少尉ですぞ!!]


エイラの話ではやっぱりキャラネームを変えられるらしいのだが、姓にあたるグランウィッチは変えられないのだそうだ。


[まぁ物語の根幹、この船団の有力スポンサーがグランウィッチ家という設定ですので、そこはリソースの都合上変えられなかったと公式も言っておりましたなぁ。]


そりゃまぁ、そんな細かい所で文句言うユーザーもいないだろうしなぁ、と、エイラの解説を聞きながら彼女の動きを目で追っているのだが。


……何と言うか、こう、何と言うか。


[セーダイ殿が言いたい事は解りますぞ?

“動きは一流なのに、射撃センスが壊滅的にダメ”と言いたいんでしょうなぁ。

まぁ、このステージだと彼女はお邪魔キャラにしかなりませんから。]


そうなのだ。

動き自体は凄く良い。

俺でも見惚れるほど、綺麗にかわしアリの死角へ死角へと移動し続けている。

だが、射撃が壊滅的に当たらない。

ほぼゼロ距離なのに目標のアリに命中していないのを見た時は、空砲でも入っているのかと思った程だ。


[彼女は射撃系の武器の操作と、火器管制システムの使い方が壊滅的にダメなキャラですから。

あ、でも今回の一件以降、彼女は大型ハンマーを使うので大丈夫ですぞ。]


明日の希望よりも、今を生き残るのに必死な状況なんだが?

とは言え、エイラがやっていたゲームのストーリー通りなら、あの2人は生き残る事が確定しているようなもんだ。

あの壊滅的な射撃の腕を心配するより、今は少しでも多くの友軍を助ける方が先決だ。


「まぁいい、アリを蹴散らすのは彼奴等に任せて、俺達は救助を優先するぞ!!」


[ガッテン承知の助でござる!!

しかし急ぐでござる!そろそろラストウェーブが来るでござる!!]


“お前はいつの時代のおっさんだ”と言いそうになるが、そんなツッコミを入れてる場合でもないようだ。

最後の一斉攻撃が近いと知った俺は、潰れかけた降下ポッドに近付く。


[おぉい、誰か助けてくれぇ!!]


「無事か!今開けてやるぞ!!」


左腕のシールド裏に収納されているヒートナイフを取り出し、ハッチの隙間に突き刺す。

パワードスーツの出力を上げて溶断しつつ、ハッチを引っ剥がす様に力を込める。


[すまねぇ、助かった!このまま身動きできずに食い殺されるかと思ったぜ。]


[同じくよ。

全く、システムエラーでハッチが開かなくなった時は、コイツと心中かと思ってヒヤヒヤしたわよ!!]


俺がこじ開けた場所から、2体のパワードスーツが飛び出してくる。

降下ポッドはグシャグシャに損傷していたが、中の乗員は無傷だったらしい。


「とは言え、中身は無傷で助かったなあんた等!!

もうじき敵の大攻勢が来る、手伝ってくれ!!」


[ったりめーよ!!]

[もちろんよ、このまま手柄なしじゃ帰れないわ!!]


戦意は十分、しかもまだ火力消耗の無い味方が増えるのは頼もしい。


[セーダイ殿!奴等が来ますぞぉ!!]


エイラの声で丘の方を見れば、先程よりも密度の濃いアリの群れがこちらへ向かってきている。

まるで真っ黒な絨毯が滑り降りてきているかのようだ。


[セーダイって事は、ナード・エイラの恋人か。

お前等強かったんだなぁ。]


助けた男の方がそんな事を呟きながら、肩のスマートキャノンを構えている。


「その噂は後で訂正させてもらいたいが、ともかく今は生き残るぞ!!」


俺もスマートキャノンを構え、マキーナに榴弾装填の指示を出す。


[そんな……まだセーダイ殿とはそこまで親密なドゥフフフ……。]


「準備出来次第一斉射!()ぇ!!」


エイラの気持ち悪い笑い声を無視しつつ、俺達は一斉にスマートキャノンの弾を吐き出す。

近付くまで引き付けてなどいられない。

とにかく近付かれるまでに数を減らす、そちらが優先だ。


助けた2人が、まだミサイルを残していてくれた事もありがたかった。

合計6発の高威力ミサイルは、押し寄せるアリの数をゴッソリと削り取ってくれた。


-スマートキャノン、残弾ゼロ-


ありとあらゆる弾頭を撃ち尽くし、遂に機銃のみとなる。


「マキーナ、ウェポンラックパージ!ブースト!!」


デッドウエイトとなった肩の武器を外し、身軽になった状態で前へと突っ込む。

3人もほぼ同様に俺に続き、アリに機銃を叩き込む。


1時間か、2時間か。

いや、もしかしたら30分程度だったのかも知れないが、俺達には永劫に思えた時間。


[見ろ、アリ達が撤退していくぞ。]


誰かの呟きが、その長い時間の終わりを告げる。

目の前のアリに銃弾を叩き込み沈黙させると、俺達の周囲に動くアリの姿が無くなった事にようやく気付いた。


「終わった……のか?」


チラとエイラの方を見る。

ゲームの展開上、更に敵が来るのかそれともこれで終わりなのか、エイラなら解るだろうと思ったからだ。


[……そんな、信じられない。

え?待って?

だってこのステージだと……。]


エイラは、何故か呆然とした様子で去っていくアリの群れを見つめている。


「……ん?おいエイラ、どうしたんだ?

大丈夫か?どこかやられたか?」


[はぅ!?だだだ大丈夫でござる!!

それよりも、凄い事でござるぞセーダイさん!!

このステージ、本来なら人類軍は撤退する筈でござったのに!!]


[あぁ?何言ってるんだ?またナードの悪い癖が出たのか?]


一緒に戦っていたペアの男の方から、知らなければ当然の疑問が出る。

だが、俺は知ってしまっているが故に、エイラの言葉を笑えなかった。


なるほど、本来ならばここで主要キャラ以外はやられ、撤退していく筈の戦場だった訳か。

それを、俺達は覆してしまったのか。


少しだけ、エイラに疑いを持ってしまう。

“自分は生き残るのが解っていたのだろうが、では俺は?”と。


考え過ぎだろうとは思う。

単に、エイラのこれまでの人生において物語の修正力を体験し過ぎ、状況に流されてしまう事に既に慣れきってしまっているのかも知れない。


目の前のエイラの驚きと興奮は、恐らく本物だ。

俺を見るエイラの明るい表情が、それを如実に物語っている。


(コイツの心の闇は、もしかしたら想像以上に深くなっちまってるのかもなぁ……。)


そんな、ため息混じりの感情と共に、俺は生き残った仲間を探す為にまた戦場を歩き出す。

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