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異世界殺し  作者: Tetsuさん
星々の光
803/831

802:激戦区

[セーダイさん!右方向、敵増援!!]


流石のエイラも、いつもの余裕が無くなってきている。


「了!中央任す!!」


俺とて人の事は言えない。

言葉少なめに意思を伝えると、言われた方向に移動する。

俺達が降下したLC-5という惑星は、球体の表裏に同じくらいのサイズ、ほぼ同じ形状の大陸が存在するという、面白い形をしている。

その特徴から、表大陸と裏大陸という名前がついている。

なぜ表かと言えば、この星を発見した当時の奴等が降り立った場所だからだという。

そんな表大陸に、人類は都市を作るべく色々と発展させていた。

そして当然宇宙から見ているから裏大陸の事も把握しており、調査を開始したところ例のバグスが巣食っていると判明したのだ。

バグス達も、表大陸に人類が入植しだした事に気付いたのか、それとも裏大陸に調査に来た事をきっかけに動き出したのかは定かではないが、それ以降ドロ沼の戦いが繰り返されていた。


そして今回俺達が投入されたのは、表大陸最大の人類拠点“アズール”、その近くの旧宇宙船降下地点と呼ばれる平原だ。

三方を起伏の激しい山や丘に囲まれた、宇宙船の降下ポートが建設されている平原……いや、“建設されていた”の方が正しいか。


まぁ、要はこの星における人類拠点ギリギリまで攻め込まれてる、という方が正しいモノの見方かも知れない。


少し先、丘の斜面を見れば、忙しなく6本の足を動かしてこちらに向かってくる虫の群れが見える。


「マキーナ、ミサイル全弾射出。

スマートキャノン構え。」


左肩に装備している3連ミサイルが、轟音と白線と共にアリの群れに吸い込まれていく。

肉眼でもハッキリと解るような大きな光の玉が3つ咲くと、それなりの数のアリ達が吹き飛ぶ。

ただそれでも、彼等の足は止まらない。

虫特有の忙しない足の動きと共に、黒い雪崩のようにこちらに向かってくる。


「貫通弾装填、次弾以降は榴弾だ。」


右肩の砲身がゆっくりと下がり、背面でガチャガチャと弾頭が装填されている音が聞こえる。


-装填完了-


マキーナからの文字が表示された瞬間、俺は初弾を放つ。


軽い音を立てて砲身から弾頭が射出されると、狙い通りにまっすぐ飛んでいく。


その威力は気持ちいいほどで、射線上にいたアリを複数匹、貫通してなぎ倒す。


次の弾を警戒してか、アリ達が散らばりながらこちらに押し寄せる動きを見せる。


「想像通りでありがとよ。」 


次の弾はアリ達の手前に着弾すると、予想よりも激しい炸裂を起こす。

アリ達は中途半端にお互いの距離を取った事により、炸裂した破片を最大限食らってくれたらしい。


それなりに数は減った。

ここらで前に出るか。


「マキーナ、後は散弾を装填しておいてくれ。」


キャノン砲の装填部分がまたガチャガチャと音を立てているのをききながら、俺はブースターの火を灯す。

そうして滑るように前に進みながら、右手の機銃を乱射しアリ達をバラバラにしていく。


「しかしクソッ!数が多すぎて意味わからねぇな!!」


物凄い数のアリか波状攻撃を仕掛けてくると聞いていたが、想像以上の数だ。

唯一の救いは、こちらの武器も俺の想像より威力が高い事だろうか。


機銃も、訓練のモノよりもかなり威力が高い。

アリ達の弱点を狙わなくても、その装甲をやすやすと貫通している。


[セーダイさん!そろそろ大物が来る!!]


エイラからの危険を知らせる通信と、マキーナのアラートはほぼ同時だった。


上空から不快な羽音が聞こえたかと思うと、日が一瞬陰る。


「……テントウムシ?」


そちらの方向を見てみれば、球体に半円が2つ、球体と半円の間には、高速で動く透明な羽根。

その影を見た時、頭に浮かんだイメージはとてつもなくデカいテントウムシだ。


その大きさは車……いや、田舎の一軒家くらいはある。

そんなバカでかいテントウムシが、不快な羽音に不快な足を広げ、着陸してくる。


「オイオイ、あんなバケモン、こんな機銃じゃ倒しきれねぇぞ……。」


とはいえ、狙うしかない。

試しに数発撃ち込むも、ほとんどダメージを受けている様子はない。


-警告、攻撃が来ます-


即座に横に逃げるためにブースターを吹かす。

テントウムシは足をたたんでゴロリと転がると、恐ろしい速度で回転し体当たりをしてくる。


もう無茶苦茶だ。

パワードスーツの防衛線など、何の意味もなさない。

複数の兵士を巻き込み、テントウムシは防衛線を食い破り内側に入り込む。


「やべぇ!マズイぞこれ!!」


未だアリ達は雪崩のように襲いかかってくる。

そちらを対処しようにも、背面にはテントウムシのバケモンがいる。

簡単に挟撃されて壊滅する、そんな考えが頭に浮かんだ時、1本の光線がテントウムシを貫く。


[皆!無事か!!]


識別信号に映るそれは友軍機、ゼロ士長の機体だ。


[全く!いきなりこんな戦場に放り込まれるなんてお互い災難だな!!

でも、何とかしてここを乗り切るぞ!!]


ゼロの機体は特注なのかそれとも装備がカスタマイズされているのか、ともかく俺達の装備とは違うらしい。

ブースターで一気に加速すると、左肩に装備している日本刀の様な剣を抜き放つ。


「……高速振動剣(ヴィヴロ・ブレード)か。」


その武器の威力は俺もよく知っている。

何せ左腕を斬られているからな。

その時の記憶が一瞬チラつく。


[おぉ、セーダイ殿もよくご存知で。

アレは主人公専用の特殊パワードスーツですぞ。

もうこの戦場は“勝ったなガハハ、風呂入ってくる”くらい安心ですな。]



いや安心出来ねぇフラグだろそれ。



ただ、ゼロ士長が巨大テントウムシを倒した事で、明らかに戦場の潮目が変わった。

実際、エイラがオタク口調でジョークを言えるくらい、俺達にも余裕が出てきていた。


エイラ曰くゼロは強化人間というか、“そう言う存在”として設計された人間だと聞いていたが、戦場での動きを見ると改めてその事が理解出来る。

人間には不可能ではないかと思われる加速と減速、機銃やテントウムシを倒した時に使ったビームガン、しかも高速振動剣をも鮮やかに使いこなし、次々とアリ達を薙ぎ払っていく。


[ちょっとぉゼロ!アタシを置いて行くなんて酷いじゃない!!]


負傷した友軍の救助に回りだした俺達を飛び越えるように、ド派手なピンクのパワードスーツがゼロの元に向かう。


あまりの場違い感に思わず動きを止めた俺に、エイラがのんびりと口を開く。


[おぉ、ついにヒロインの登場ですな。]


なるほど、ゼロの相方って訳か。

そんな事を思いながら、俺は華麗に立ち回るピンクの機体を見ていた。

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