801:LC-5降下作戦
[降下3分前!!]
俺達は全員戦闘服を着用すると、慌ただしくパワードスーツに入り込む。
ペアに背面の装甲を閉じてもらい、視覚に表示されている場所まで移動させる。
-作戦としては、過去に墜落した戦艦の近くへ降下、外敵を排除しつつ生存者救助、の様です-
-一般的にはアクセス出来ませんが、本作戦の損耗率は70%と作戦本部は予想している様ですね-
(何だよ、3割しか生き残れねぇってか。)
マキーナが割とロクでもない情報を追加してくれる。
訓練もそこそこの新兵を送り出しておいて、まともに生還させる気のない作戦とか、この世界の偉い奴は全員マトモじゃないのか、それともそこまで実は追い詰められているのか。
-後者、ですかね-
-敵前線基地を攻撃する予定の本隊は、損耗率90%以上と予想されています-
-しかしそれでもなお、惑星開拓総本部としては“これ以上の戦力は送れない”という回答の様ですよ-
なるほどなぁ、と遠い目をする。
ゴールドラッシュの闇、という訳だ。
惑星開拓は、そこに所属している国家だったり企業だったり個人だったりで、かなり状況が変わってくる。
国家以外に所属している船団は、基本的に“その船団の自己責任”という名の下に惑星を開拓する。
その代わり、発見した惑星での資源や統治は船団が独占出来るのだ。
「ここは恐らく企業所属の艦、って事なんだろうなぁ。」
[そうなんでござるよセーダイさん!主人公の舞台設定としては、ERD社という企業国家の所属なんでござる!!]
ダヴィフェド、ダウィフェッドねぇ……。
少し記憶を思い出す。
遥か未来の世界で、敵として転生者と戦ったことがある。
ローイチだったか、シンだっか。
ローイチの時はアイツとしか組んでなかったな。
後はスリースターの面々か。 じゃあ、ボブと組んで敵対していたシンの世界の方か。
……待てよ?あの時、XLとか言う星は破壊したはずだが、LC -4は破壊できなかった筈だ。
その後の未来は不確定という終わり方だった。
「LC-5……。」
嫌な予感を感じ、呟く。
何かを忘れてるような、首元まで来ているのに出かかっていない考えが出てきている。
[セーダイ殿!落下しますぞ!!]
エイラの声で現実に戻る。
今はそれどころじゃねぇな。
俺とエイラで向かい合って機体を並べ、固定化される。
パワードスーツに武装がつき始め、周囲の壁が閉じていく。
壁、と言っているが、パワードスーツ2体がすっぽり入る降下用ポッドだ。
四方からせり上がった壁は天辺でふたをされ、完全に密閉される。
[この降下ポッド、ゲーム中はチューリップと言われておるのですが、ユーザーからは“ニンニク”と呼ばれていましたな。
非常に装甲が薄いので、無事に落下できたらそれだけで勲章モノですぞ?]
「そんな勲章いらねぇよ。
それよりも、降下したらどこに行くのが正解なんだ?」
俺の視界に2本の線が表示される。
[おや?セーダイ殿のAIは当たりAIなのですかな?
この戦況を呵責なしに分析していて、随分と頭が良い。]
表示された線は殆ど同じラインを映しており、マキーナの推定ラインとエイラの攻略手順が完全に一致していた。
「まぁな、そんじょそこらのAIには負けない、俺の頼れる相棒だ。
欲しいと言っても、くれてやらんからな?」
通信の向こう側でエイラが悔しがっている。
“序盤だと優秀なAIは貴重なのに!”と文句を言っているが、こればかりは譲れない。
何せ、マキーナと俺は一心同体だからな。
-勢大は随分と頼りない半身ですね-
うるせぇ、その分お前が頑張るんだよ。
“ハイハイ”とマキーナのメッセージが表示されると、機体内部にアラートが鳴る。
[降下猟兵、各自降下!!]
前の方から悲鳴が聞こえる。
ガチャガチャと、まるでドミノ倒しの様に機械の筒が滑り落ちていく。
[せ、セーダイさん!!怖い!!]
エイラのフェイスモニターが映し出される。
「ビビるな!そんな時は好きな相手の事でも考えてりゃ、あっという間に終わる!!」
適当に怒鳴りつつ、マキーナの表示するブースター角度の調整に目をやる。
そのついでに、効果先のモニターもチェックすると、地面から散発的に巨大の光の玉が、尾を引いて幾本も通り抜けていく。
[おい、今の光!あんなの訓練に無かったぞ!]
[あったってどうにかなるモノかよ!!]
[こ、このままじゃ!!]
[あ、おい寄せ!!]
皆、混乱の中にある。
1つのポッドからは、空中で展開してパワードスーツのままポッドから飛び降り、自由落下を始める。
飛び降りたままパワードスーツは、下に銃口を向けて狙いも付けずに乱射する。
無人のままゆっくりと降りていくポッドは、地上からの光の塊に飲み込まれ、いくつもの爆発を起こしながら地面へと落下していく。
[お、俺も!]
「よせ!止めろ!!」
思わず、俺は後に続こうとした兵士を止める。
「落下点を見てみろ!!」
近くのポッドの、外部カメラがグリリと動く。
落下していったパワードスーツのその先、銃を乱射しながら降りていった彼は、しかし地上から射出された黒い槍のようなモノに全身を串刺しにされて、
何も言わぬまま落下していく。
その姿を見た他のポッドの兵士達も、唾を飲む様子が伺える。
[セーダイ殿、今凄いことをやったのを理解していますか?]
落下の恐怖に耐えながら、エイラが青い顔でこちらを見る。
「いや、普通の事だろ。」
狙われている輪の中から抜け出すのは、短期的には安心感を得る。
だが、実際には“この数がいるから自分が生きていられる可能性が上がっている”という判断も必要なのだ。
輪から抜け出せば、かえって悪目立ちして狙われるからだ。
その説明をしても、エイラは青い顔ではあるが真剣なままだ。
-着地成功、ポッド解放-
マキーナの表示でパワードスーツのロックが解除される。
数歩進むと、武器のチェックをする。
右腕に備え付けの12.7mm徹甲機銃、左腕のシールドと高速振動ナイフ、右肩の多目的砲に左肩のマルチミサイル。
どれも正常に作動している。
「セーダイ殿!まずは周囲のポッドの安全確保を!!」
すんなり出られたのは俺達くらいだった。
ポッドが横転していたり傾いていたり、着地の衝撃で動けなくなっているポッドもある。
「早速忙しくなりそうだなぁ!!」
俺は右腕の機銃を、近付いてくる蟻に向けながら迷わず発砲する。
戦いは、始まったばかりだ。




