795:息の合った2人
「せ、セーダイさん!いよいよ!いよいよですよ!!」
前髪で目が隠れ気味だが、エイラが興奮しているのが良くわかる。
「お、おぅ、そうだな。」
「それでは!これよりパワードスーツの着用を開始する!!
あらかじめ決められたペア同士、着用を補助しあえ!!」
俺達の目の前には人の形をした金属の塊、少しだけずんぐりむっくりとした形状をしているソレが、直立した姿勢で、背面を大きく開けて鎮座している。
「それじゃあ、俺から入って良いですか!?」
エイラは満面の笑みを浮かべながら、いそいそと前に進む。
“こうして見ると割と可愛いんだけどなぁ”と思いながら、俺はエイラのパワードスーツ着用を手伝う。
着ぐるみのようなガワにエイラが入ったのを見て、跳ね上がっている背中の装甲を下におろして閉じる。
「セーダイさんもどうぞ!!」
テンションの高いエイラのエスコートを受けて、俺もガワの中に入る。
エイラが“よいしょっと”と呟くと、パワードスーツの腕で器用に背中の装甲を下ろしてくれる。
背中の装甲が閉じる時に聞こえた“バムッ”という音に、何だか車のトランクを閉めた時のような懐かしい音に感じていた。
「全員着用したな!!
これより、お前達はこの先のコースをペアで走り抜ける!!
途中に標的があるから、右腕についている機銃で撃破しろ!!
訓練とは言え気を抜くな!!」
周囲を見渡せば、俺達と同じ様な候補生達が緊張の面持ちで指導官が指差す方向を見ている。
ふと、“俺達と同じように、どのペアも男女で組んでいるんだな”という感想が出てくる。
(テーベ神聖隊だったか、アレの男女版みたいだな。)
元の世界の、古代ギリシャだったかにあった男性同士の恋人で編成された歩兵部隊。
互いを助け合うという意味では、確かに恋人という情を結んだ相手と組むのは有用だろう。
ここも男女で組むということは、そう言う側面も期待しての事なのかも知れない。
「セーダイさん!フヒヒ、つ、次は俺達ですよ!!」
うーん……まぁ、エイラの場合は俺で良かったな。
陰キャ俺っ子とか、癖の詰め合わせすぎて手に負えなさそうだからな。
「……何か、変な事考えてます?」
おっといかん、意外に鋭い子だな。
「いや?このパワードスーツが、意外と動きにくくないなと思っていたんだ。」
その感想は本当だ。
見た目だと変な姿勢を強要されそうだなと思っていたが、想像に反して中はそこまで狭苦しく感じないし窮屈でもない。
体の延長というイメージが近いか。
それにしても、どこかでこの感覚に覚えがある。
「次ぃ!出撃しろぉ!!」
管理官が俺達のペアに合図を送る。
「それじゃあイキますよセーダイさん!!
“ヘルメットクローズ”!!」
「ハイハイ、解ったよ。
“AI、ヘルメットを閉じてくれ”。」
かすかなモーター音と共に、背中側から半球体の、ガラスの様に透明度の高いシールドが頭部を覆う。
寸胴でドラム缶の様な胴体、短めの脚と長い腕、そして首から上は半球体のシールドで覆われたその姿は、どことなくコミカルなゲームのキャラの様だ。
ただ、科学技術としてはかなり高度で、胸元にある各種パラメータを、頭部のガラス球に投影してくれている。
その視界はマキーナのモノに近い、いや、ともすればマキーナ以上の情報量であり、何となく“一人称視点のロボットシューティングゲームみたいだな”と感じていた程だ。
[ヒャッフゥー!これこれ、これがやりたかったんだよー!!]
エイラはノリノリでバックパックのジャンプジェットを蒸し、次々と障害物を乗り越えていく。
「エイラ、あまり突出し過ぎるなよ。
そうしてると……。」
突然飛び出してきた巨大な板、多分エネミーとして配置されたモノだろう。
蟻みたいな虫の絵が描かれている、俺達のパワードスーツ位の大きさのそれを、俺は機銃で撃ち抜く。
撃ち抜くと言っても、装填されているのは空砲だ。
空砲とパワードスーツの判定で、有効なダメージを出せたかを計測しているらしい。
どうやら蟻の首筋に命中したらしく、一撃で撃破判定になっていた。
「……せ、セーダイさんやるぅ!!
もしかして、セーダイさんも銀河歩兵戦記やり込んでたクチッスかぁ!!」
ん?と思う。
そう言えば、この前もその“銀河歩兵戦記”とか言う単語を彼女から聞いた。
何の事だか解らなかったが、何かのタイトルらしい、と言う事は察せる。
彼(彼女)が言っていたのは何だったか……そうだ、“今は銀河歩兵戦記の少女エイラ”だか何だかだ。
これまでの傾向から想像すると、“銀河歩兵戦記”なるゲームが彼が元いた世界には存在し、それをやり込んでいた、と言う事だ。
……元いた世界?
「お、俺も負けないッスよぉ!見てて下さいよ!!
確かここと……ここぉ!!」
エイラのパワードスーツが機銃を構えると、狙った所に蟻が描かれた板が飛び出す。
(先読み……いや、少し違うな。)
未来予測や超能力の類なら、言っちゃ悪いがもう少し理不尽なまでに正確だ。
そう言うのも、嫌になるほど見てきたからか、差が解る。
どちらかと言えばこれは、“コントローラーが擦り切れ指から血が滲むほどやり込んだ”みたいな、ベテランの安定感に近い。
「格好つけるのは良いが、こんな訓練サッサと終わらしてお茶でもしようや。」
[フヒヒ、セーダイさんも言いますねぇ!!
それなら、どっちが多く倒せるか競争と行きましょ!!]
俺達はブーストを蒸かし、フィールドを駆け抜けていく。
扱っていてふと思う。
これは昔、どこかの世界で駆っていた武装 人型 機械、俗称でAHMと呼ばれた戦闘ロボット、それの原型に近い。
だから妙に馴染むというか、懐かしさすら感じているのだ。
あの時、誰かから聞いた言葉を思い出す。
“AHMは鍛えられた肉体の延長上にある”
きっとその言葉は、これから来ているのかも知れない。
エイラが原点となるゲームをやり込んだ転生者だと言うなら、俺は未来で更に発展した戦闘ロボットを操縦してきた異邦人だ。
これは負けられないなと思いながらも、2人で手助けし合いながら試験を突破していった。
2人で協力しなければ登攀出来ないような斜面でも、まるで息の合った熟練ペアの様にスルスルと登り、ただひたすらにエイラが感動していた。
[せ、セーダイさん凄いよぉ!流石ターンしちゃうロボのお兄さん!!
……おっと、拙者としたことがこれは伝わらない失言でござったなフヒヒ。]
感動の方法が、どう見てもキモオタなのは困るが。




