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異世界殺し  作者: Tetsuさん
星々の光
795/831

794:入隊試験

「次!E72番、前へ!!」


俺は前に出ると、足元に印されている線の前に立つ。


「E72番、セーダイ・タゾノ、出身は……えぇと、ラ、ランド・チャーミング4号星です!!」


どうやら俺が拾われた場所というか、星の名前が“素敵な大陸(ランド・チャーミング)4号”と言うらしい。

何ともいい加減な名前だなと思ったが、この世界というか、少し前から惑星開拓が主流らしく、様々な人類が住める星を見つけた結果、この様な何とも言えない名前の星が量産されているらしい。


あの後陰キャ少女、エイラから大雑把にこの世界の事を教えてもらった。

地球で増えすぎた人類は、爆発的な増加を辿るかと思われたが、増えすぎた種が自然に淘汰されるようにその数を少しずつ減らしていったらしい。

そんな時、大国の科学者達が宇宙を渡る新技術が開発する。

その技術によってありとあらゆる問題を解決しようと、惑星開発が各国家・企業の間で過熱し、人々はその熱狂に巻き込まれていく。

次々に見つかる未開拓の星、当然そこには鉱物や食料などの資源も見つかり、状況は更に過熱。

一昔前の大国で起きた事象になぞらえて、“ゴールドラッシュ”と呼ばれたソレは、人類に再び生きる力を与えたらしい。

人口は緩やかに増大、しかも宇宙で入手した鉱石、技術の欠片、そういったものが恐ろしいスピードで組み上がり、人類はその寿命さえも克服し始めていた。

これまでの“死を先延ばしにする延命治療”から、“若かった頃の肉体を取り戻す再生治療”へと。

寿命を迎えた者、物事の認知が曖昧になった者、事故で、病気で、若くして……様々な要因で死んでいった者達を“蘇生”する、ある種の禁忌の技術。

それらが発展していっているらしい。


ただ、それにも問題があった。

再生治療を繰り返すと、数回目で人格が大きく変わる。

闘争心を失い、温和で穏やかな、いわゆる仙人のような人格へと例外なく変貌していくらしい。

そしてその頃にはこれまでの再生前の記憶や、大切な人との記憶など、全てを失ってしまうというのだ。

ただ、その効果は世界には限定的な、例外的なモノだと喧伝され、人々は進んで再生医療を受け入れていった。


余談だが、この話をしている時のエイラ女史は非常にギラギラした目で早口で話すので、“あぁ、いつの時代にもオタクっているよなぁ”と呟いた所驚いた顔をしていた。


「な、何で俺の部隊内でのあだ名を……。」


あぁ、ナード……オタク野郎(ナード)のスラングの方だったか。

てっきりエイラ・ナードみたいな名前かと思ったが、どうやら違うようだ。


「あぁ、そういえば自己紹介がまだだったな、俺の名前はセーダイ・タゾノ。

見ての通りここに至るまでの記憶がいまいち解ってはいないが、何かその、よろしく頼む。」


先程までの軍曹の言葉を思い出したのか、俺が言いあぐねていると顔を真っ赤にして両手を振る。

勢いがありすぎて、鼻にしたティッシュの栓が抜けてまた鼻血が流れ出している。


「そそそそそそんな!よろしくだなんて!男同士でそういう事は考えられないっていうか、出会って即ハメとか陽キャ過ぎて俺には無理って言うか……。」


「ん?君は……男なのか?」


話していて、“ん?”と引っかかる単語が出てきた。

先程から一人称は“俺”だし、今も“男同士”と言ったりしている。

女装趣味?にしては、体型や胸周りは言っては悪いが何かの加工をしているようには見えない。


「わ!ワタシ、俺はその、複雑なんで……。

昔は元男だったんですけど、今は銀河歩兵戦記の少女エイラでして……。」


何だ?これまでの歴史に関しての饒舌な口ぶりから一転、何かしどろもどろになりながら声も小さくなっていく。

後半は聞き取れすら出来なかった。


「あそうだ!こんなのんびりしてる場合じゃないですよ!!

安全が確保されたんだから、次は身体検査に行ってもらわないと!!

俺がまた怒られるんです!!」


何だかよくわからない圧力に押され、俺は急いでエイラから渡された衣服を身につける。

どうやら俺が着ていたものではなく、多分連中が身に着けていた服と似たような、それでいて色が蛍光オレンジの上下のジャージだ。


「これ、何だかブカブカ過ぎやしねぇ?

あ、そうだ、俺の荷物に金属板無かったか?あの、盾と歯車が彫り込まれてるやつ。」


「あぁ、それ左手首にあるスイッチで、ちょうどよくなるように補正されますから。

それと言っていたの、これかな?

さっき検査が終わってここに。

……何か、大事なものなんですか?」


キョトンと首を傾げて、まん丸に目を開いてマキーナを興味深く見るエイラは、美人になりそうな片鱗を伺わせる。


「あ、あぁ、だいぶ昔に、死んだ友達からもらったお守りなんだ。」


「そう、なんですか。

それは確かに大事なものですね。」


<候補生は直ちに、運動場まで集合。

10分以内に集合、繰り返す……。>


エイラが優しげにマキーナの金属板を眺めている時間は、突如流れた館内放送で中断される。

エイラにも手伝ってもらい、慌てて準備を済ますと体育館の入り口でネームプレートを渡され整列させられる。


(E72番か……、俺のようにさらわれた、とかではなく、皆志願してここにいるような、何だか覚悟を決めた表情をしているなぁ。)


ついでに言うと、その候補生とやらは全員白い体操着に白い短パンだ。

……オレンジのジャージ姿のやつなど、この場に俺しかいない。


「E72番、試験用の服装はどうした?」


「あ、あのぅ、すいません……。

お、アタシがその……渡す服をまちがえてしまいまして……。」


エイラがおずおずと言い出すと、試験官はエイラに冷たい目を向ける。

候補生達からも失笑が漏れるが、すぐに検査官が振り返り厳しい目を向けて音を止めされる。


「……相変わらず使えない“ナード・エラ”ですか。

よろしい、E72番、今回はその姿での参加を認める。

他の者も聞け!!

これより我が統一宇宙軍の入隊試験を行う。

その試験に通過し、10年の任期を全うした後、お前達には市民権と、移住先と住む所が与えられる。

しかも、それまでに貯めておけば、残りの人生は悠々自適に生きることができるだろう。

希望をつかむため、死にものぐるいでこの試験に参加するように。」


エイラという子は、随分と皆から雑に扱われているらしい。

“あの知識量は大したもんだと思うがなぁ”とぼんやり思いながらも、興奮しだしている候補生達の熱気を、俺は肌で感じていた。

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