791:優しい奴等
「おぉ!おぉ!帰ってきた!!
某の頭が帰ってきたでござる!!」
作業が終わり、組織の基地に帰って来た瞬間、手に持っていた兜から大きな声が発せられる。
勿体つけて皆の前に出そうと思っていたが、流石に首無し騎士本体と一定距離まで近付くと解るらしい。
聞こえたデューの声に、俺だけでなく何故か皆“あれ?誰が喋ってる?”とか“え?こんな声だったっけ?”と首を傾げているのには笑った。
ってか、忘れるくらいしばらく頭無かったんかい。
「いやぁ、セーダイ殿は恩人にござる!!
見つけてくれるとは流石でござるなぁ!略してさすダイでござる!!」
いや、何かこう、イメージと違う……いや違わないか。
まぁギリギリ、こんなお喋りな奴だとは思わなかったくらいか?
「いやぁ、フリスビー代わりに某の頭を犬に投げて遊んでいたら、そのまま咥えて持って行かれて、もう終わりだと思っていたが……よもやよもやでござるなぁ!!
せっかく頭が戻った記念ですし、今晩はパァーッと飲み明かしましょうぞ!!」
あ、コイツやっぱりアホだ。
このメンツの中にいるのも、何だか納得出来るなぁ。
そんな事を思いながらも、今日の仕事はこれ以上特に無いらしく、夕暮れまではまだ少し早いがせっかくだしと、全員で飲みに行くと言う事に。
道中もずっと喋っていて皆辟易しだした頃に、街の入口の方から叫び声が聞こえる。
「何か、あったんですかね?」
「祭には少し早いですし、何かあったのかな?
丁度いいや、デュー君見てきてよ。」
スケさんもこれ幸いと、デューを走らせる。
“合点承知でござる!”と勢い良く駆け出した後ろ姿を見ながら、俺達は束の間の静けさにホッと胸を撫で下ろす。
「……あの人、あんなにうるさかったんスねぇ。」
「いや、悪い子じゃないんだけどねぇ。
元はどこかの国の聖騎士団長とかで、威厳のあるフリをしなくちゃいけなかったらしくてさ。
ずっと無口でいないといけなかったらしいから、その反動なのかなぁ。」
人に、いや首無し騎士に歴史ありだなぁ、と彼が向かった先を見ていると、すぐに彼が全力で戻ってくるのが見えた。
どうでもいい事だが、やはり人間でなくなっているからか体力を気にしない全力疾走だ。
「た、た、た、大変でござるーー!!
魔族が、魔族が攻めてきてるでござるーー!!」
全員、飛び上がる程に驚く。
特にハイ・オークのイノ氏など、ショックで倒れそうになってる。
「どどどどうするのよスケさん!この辺でアタシ等以外の魔族っていうと、アイツの残党じゃない!!」
それを聞き、転生者の彼と倒した魔王の姿を思い出す。
人間族に対して強烈な憎悪を持ち、共存も隷属もあり得ない、根絶やしにするまで止まらないという奴だった。
ならば、その配下の残党軍も同様の考えだろう。
「マキーナ、最後にもう一度変身と行こう。」
<宜しいのですか?
もう我々はこの世界から退出する事を決定しています。
ここに留まれる残り時間を、ほぼ全て消費する事になりますが?>
“構わねぇさ”と笑うと、光の線が俺を包む。
この世界でのんびりしたかったが、だからといって人々が苦しむ姿を黙ってみているのは少し違う。
俺は俺だ。
神でもなければ不正能力持ちの転生者でもない。
ただの異邦人、物語の異物、ただの人間、田園勢大だ。
出来ない事は出来ないが、出来る事があるならやるだけだ。
『スケさん、あんた等は逃げろよ。
ロクに戦えないんだろう?』
そう言って、ポカンとしている彼等を置いて走る。
彼等は魔族かも知れない、色々と悪巧みをしているっぽいから、将来はどうなるかわからない。
でも、今の段階では、人間族と共存する楽しい奴等だった。
なら、後の事はこの世界の人間達が決めればいい。
街の入口を抜けると、土煙を上げてこちらに向かってくる軍勢が見える。
『これは、ちっとマズそうだな。』
先方として狼のような魔物が駆けてくる。
その後ろに歩兵としてオーク、更にその奥にはゴーレムと、中々の物量だ。
それぞれの力は俺に及ぶべくもない。
ただ、数が多い。
『考えてる暇はねぇな!!』
大きく飛び上がり、狼の群れの手前に拳を振り下ろしつつ着地する。
地面は激しく抉れ、多数の狼とオークを巻き込む。
ただそれでも、軍勢からすればほんの一部だ。
<勢大、両端の軍勢が抜けていきます!>
解っているが、どうにもならない。
多勢に無勢、俺自身はどうと言う事はないが、防衛線を張るには人手が足りない。
「うわははは!我が剣の錆になりたい奴はかかって参れぇ!!」
「こ、ここから先は、通さないぞぉ!!」
『デュー!?イノさんまで!?』
振り返ると、デュラハンとハイ・オークの2人が、それぞれ剣と棍棒を振り回し、俺の脇を通り抜けた魔族をなぎ倒している。
「やれやれ、セーダイさん、1人で行っちゃうのは良くないよぉ?
僕等だっているんだからさぁ。」
スケさんが、のんびりこちらに歩いてきている。
その隣には、本来の姿に戻ったサキュバスも一緒だ。
「僕は僕だけだと魔法が使いづらいんだけどね?
サっちゃんがいてくれるなら、こういう事だって出来るんだよ。」
サっちゃんがスケさんの肩に手を置くと、強大な魔力が溢れる。
「我が声に応じよ、“道端の石”。」
ここからでも見える。
街の道路が次々とめくれ上がり、巨大な人型になっていく。
超巨人となったそれは、足を踏み出しただけで攻めてきた魔族を薙ぎ払っていく。
更に地面に振り下ろされる拳は、俺の攻撃の比ではないクレーターを作り、次々に魔族を殲滅していく。
あの散布していた謎の液体、あの正体はこれのための触媒だったのか。
魔族は尽く殲滅し、超巨人はまた街に戻るとバラバラになって道路へと戻っていく。
「いやぁ、街の人に避難してもらうためにちょっと時間かかっちゃった。
ある意味、セーダイさんに先行してもらったから、今回の事は不問にしてあげるね。
でも、独断専行は駄目だよぉ?
僕達は仲間なんだから、ちゃんと相談しないと。」
変身を解除し、俺はその言葉に笑う。
何が悪の組織だ。
人と共に生きる、気持ちの良い魔族達じゃないか。
<勢大、限界が来ました。>
足元が光り始める。
それを見て、彼等は何だなんだと驚き始める。
「やぁ、私はここまでの様です。
次の世界に行かなくちゃならなくなりました。
でも、皆さんと会えて、楽しかった。
また、ご縁があったら会いましょう。
あぁ、もしもこの世界の勇者がこの街に来たら、“セーダイがよろしく言っていた”と伝えてもらえますか?
それで、事情は解ると思います。」
俺の言葉で、意味は解らないまでも察したようだ。
スケさんは力強く頷くと、最後に俺と握手する。
何だ、楽しい時間だったじゃないか。
こういう世界も、また良いものだな。
この世界から消える瞬間、俺はそんな事を思っていた。
丁度の区切りとなりますので、一旦ここでお休みを頂きます。
次回は8/26(火)から、新章を始めさせていただければと思います。
※もしかしたら月末月初なので少し伸びる可能性もありますが、その際はここに修正情報を記載します。
皆様、体調にはお気をつけて良いお盆休みをお過ごし下さい。




