789:悪の組織の活動
「いや、あの、突然そんな事言われても……。」
ボロボロの布を着たスケルトンは、もう一度両手を大きく開く。
「君を!我が組織の一員にしてあげよう!!」
スケルトンの両脇にいる三人も、また拍手する。
……が、すぐ拍手は鳴り止むと後には気まずい沈黙が訪れる。
(え?ちょっと待って、彼ノリノリだったんじゃないの!?)
(いやそんな話はしてませんって!ちゃんと説明してって言ったじゃないですか!!)
(でもオマエ、行ける、言ってた。)
俺の目の前でヒソヒソと内緒話を始める3人。
その会話に参加できないのか、首無し甲冑騎士だけはオロオロしている。
ただ、部屋が静かだったからか皆の声が大きいからか、会話は俺に全て筒抜けだった。
「あの、まぁ、なんですかね、情報量多すぎるので1つずつ確認なんですが、皆さんのその、容姿とか組織とか、一体何の事ですかね?」
「キミィ、このご時世に容姿の事をとやかく言うのはよろしくないぞぉ?」
そんな事言っとらんわ。
ってか骨に容姿の事を注意されるとは思わなかったわ。
ともあれ、彼等が何でどういう存在なのか説明してもらったところ、彼等は自分達を「悪の組織」と名乗った。
「悪の組織……ねぇ?」
「その通り!
魔王が倒れた後、その意思を引き継ぎ世界統一を為すのは我が組織だ!!
手始めにこの街を手中に収め、勢力を拡大してゆく予定だ!!
そのためにも、今は有力な仲間が一人でも多く欲しい!!
だから君をこのサキュバスのサっちゃんがスカウトしてきたのだ!!」
何だか腰から崩れそうになる。
んん?いや、聞き間違いか?
「あの、皆様のお名前は……?」
「おぉ、自己紹介がまだだったな!
君をスカウトしたのがサキュバスのサっちゃん!
そしてこのイカツイのが上位猪男のイノ君、そしてこの甲冑騎士が首無し騎士のデューだ!!
サっちゃんは見かけ倒しだし、イノ君は小心者だし、デューはこの間兜を無くしちゃったちょっとオッチョコチョイだぞ!!」
「ちなみに、この人は私達のリーダーの死者魔導師のスケさんよ。
魔法はたくさん知ってるけど体の維持で魔力を使い過ぎてて、魔法は撃てないわ。」
ツッコミどころが多すぎて手に負えない!?
ダメだ、考え出したら負ける!
<何に負けるんですか?
とりあえず聞いていて勢大も感じているとは思いますが、脅威度は低めで良いのではないですかね?>
マキーナも若干呆れ気味だ。
俺としても、別にここから抜けて帰っても良いのだが、この時は何となく“コイツ等、こんな事を言っているが本当に脅威度は低いのだろうか?”と少し気になっていた。
「ま、まぁ、とりあえず解りました。
組織に参加しても良いんですが、組織の人間はここにいる人間で全てなのですか?」
「ククク……、やはり我等の志に賛同してくれるか。
良い、実に良いぞサっちゃん。
良い人材を見つけてきた。」
スケルトンは上機嫌にカラカラと笑う。
そしてドサリと椅子に座ると、威厳を出そうと足を組んで頬杖をつく。
「ククク、もちろん、ここに居るのは私にとって最も信頼の置ける忠臣達だが、組織のメンバーはまだまだ他にもいる。
明日はそいつらにも引き合わせてやろう。
明日も世界征服に向けた活動を行うしな、ククク。」
どれくらいのメンバーがいるのか、それを把握してやるのも良いだろう。
本当に驚異となるようであれば、いつか彼の前に立ちはだかるかも知れない。
そうなる前に、俺が殲滅しておくのも悪くはない。
この世界がせっかく手に入れた、束の間の平和だ。
不穏の目は摘んでおく必要があるだろう。
「ククク、さぁ諸君。
今日はこの街を不浄の海に沈めてやろうではないか。」
よく朝早く、それこそ日が昇る前から俺達は集まり、道具を準備する。
俺も作業着に着替え、スコップを持っている。
「ククク、セーダイ、ちょうど良い機会だ。
紹介しておこう、彼が我等組織に協力する、下部組織と言うやつだ。」
「へぇ、今日は新しい方もいらしてらっしゃいますだか。
スケさんの所もようやく人が増えてきて、よござんしたなぁ。
それじゃ、今日の作業、よろしくお願いしますだ。」
杖をついたおじいさんがスケルトンに何かを渡す。
資金か何かかと思ったが、スケルトンはそれを俺達に配り始める。
「よし、皆の者、作業中はその腕章をしっかりと見えるように取り付けておくこと。
汚水が目に入ったり、怪我をした者はすぐに言って洗い流すように。
また、作業中注意事項をサっちゃん、読み上げて。」
「はい、本日は区画8から区画10までが担当地域になります。
通勤時間に交通量が増えます、また、学童の通学路も一部通過しますので、必要以上の騒音、機材の放置は厳禁でお願いします。
また、作業中にデューの兜を見つけたものにはデューから自腹で金一封が出ます。
こちらも合わせ、探すようにしてください。」
「それでは、作業開始!今日もご安全に!!」
ガサガサと猫車の上に道具を置き、そのまま運び始める。
「イノ君、この一面のブロック全部はがしちゃって!」
道路脇に整備された下水道。
それのメンテを行うために作業に就いているのだ。
ハイオークのイノが力を込めて次々とブロックを剥がしていく。
その下にたまっている汚泥をスコップですくい出し、猫車に乗せる。
ある程度溜まると、大型の袋に入れて車両に積み込む。
デューが猫車を持つと、スイスイとまるで見えているように進んで袋に入れ、そして車両に積み込んでいく。
実に手際の良い動きだ。
「セーダイ!少し遅れているぞ!」
スケさんは骨だからか早い。
サクサクとドブさらいを進め、あっという間に一区画終わっていた。
「よし、次の区画ちょっとやって、昼にしよう!」
悪の組織初日の活動は、こうして街のドブさらいをし、下水道の整備を行なっていた。
<……勢大、彼等は本当に……。>
皆まで言うな。
だが、気になる。
「あの、……スケさん、この活動、本当に世界征服の足がかりなんですか?
もっとこう、大量虐殺とか……。」
俺の言葉に悪の集団達がザワザワし始める。
スケさんも、心なしか慌てているように見える。
「せ、セーダイさん、何をそんな危ない事を!
ほら、イノ君泣いちゃったじゃないですか!!
と、ともかく、そんな物騒な事はもっと力をつけてからです!
今は、こうして下部組織と連携して、市民の生活に浸透していくのです!」
泣く豚顔の大男、慰めるサキュバス。
ウロウロするデュラハン。
呆れているエルダー・リッチ。
……なんだこいつら?




