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異世界殺し  作者: Tetsuさん
旅の途中⑬
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787:小休止

「ククク……タゾノ君といったか。

おめでとう、君を是非ウチで雇おうじゃないか。」


目の前にはボロボロの黒いローブを着たガイコツが、両手を広げてそう宣言している。

彼の両脇には、緑の肌を持つ巨大な豚顔の魔物、首の無い甲冑姿の騎士、そして大事な所しか隠せていない、コウモリの羽根を持つ褐色肌でグラマラスな美女が、みな拍手して俺を迎え入れていた。


俺は困った顔のまま、どうしたものかとそれを見ていた。





「いやぁ、セーダイさんがここにいてくれて良かった。

多分僕一人では、この化け物を倒せなかったと思いますよ。」


『そんな事はないさ。

君は、きっと俺がいなくてもやり遂げたよ。

俺がここにいたのはただの偶然だ。

何せ、また次の世界へ渡る異邦人だしな。』


隣に立つ転生者にそう言って笑うと、俺は変身を解除する。

マキーナが俺の体を修復してくれているが、この世界で入手した服はボロボロだ。

このまま街を歩いていても、おかしな浮浪者としか思われないだろう。


この世界の転生者は、とても友好的な好青年だった。

元々転生など望んでいなかったらしいが、元の世界で死んだ時にあの神を自称する存在に“お前でなければ救えない世界がある”と言われた事から、この世界で勇者として召喚された、と言うことだ。


理不尽な世界に疑問を持ちつつも、遂には現時点で最も人間族と敵対していて苦しめていた魔王を、こうして仲間と協力して倒している。

それは、きっと俺がいなくてもやり遂げていただろうと思わせる絆の強さだった。


俺はいつものように転生者の後を追い、途中この転生者が生まれたという村に立ち寄った際、襲ってきた魔物の群れを退治していた。

そこからの縁でこうして転生者と出会い、“条件を飲む代わりに魔王の1人と戦う時に助力してほしい”と言われたのでこうして戦っていたのだ。


「結局、セーダイさんはすぐにまた別の世界へ行ってしまうのですか?」


彼の言葉に、俺は少し考える。


「そうだな……。

少しだけ、この世界を見て回らせてもらうよ。

ここしばらく、それこそこの世界に来る前からずっと戦いっぱなしだったからな。

ちょっとくらい、休みは必要さ。」


彼は少しだけ寂しそうな顔をすると、手を差し出す。

俺も、それに合わせて手を取り、握手を交わす。


「俺はここまでだが、君の戦いはまだ続くんだろう?

無理はするなよ。」


「寂しくなりますが、でもセーダイさんとの旅は楽しかったです。

いつかどこかで、今度はセーダイさんが困っていたら呼んでください。

どこへだろうと、飛んでいきますよ。

では、あなたに一時的に権限を移譲します。」


“そんな目には会いたくねぇな”と笑いながら、俺は手早くあの存在との繋がりを断ち切っていく。

最後に、全ての項目を決定する前に、俺という異物を排除する時間をひと月後に設定して決定する。


「1ヶ月くらいこの世界を観光させてもらったら、次に移らせてもらうよ。

じゃあな、勇者サマ。

これからの旅の無事を祈ってるぜ。」



「僕もです。セーダイさんもお元気で。

……そうだ、これを。

のんびりするには、ソレが必要でしょう?」


渡された袋の中をチラと見ると、金貨や宝石、ついでに質のいい魔石まで入っている。


「貰い過ぎだぜ。

俺はこんなもんで良い。」


そう言って袋から1掴みすると、それをポケットに入れて残りを返す。

彼は呆れたように袋を受け取ると、“元気で”と笑う。


それに手を上げて返すと、俺はその場を立ち去る。

良い連中だった。




<勢大、これからどこへ向かいますか?

このままの方向ですと、以前魔族が支配していた街になりますが。>


確か、だいぶ前に皆で蹴散らした街だったな。

だいぶ復興も進んでいるだろうし、寄ってみるのも面白いかも知れん。


「よぅし、じゃあまずはそこだな。

幸い、軍資金はある訳だし、のんびり美味いものでも食って風景でも見ようぜ。」


この世界、彼が尽力した部分もあるのだろうが、衛生環境は非常に良い。

文化レベルはそれこそ元の世界と遜色がほぼない。

これだけ居心地が良い世界なら、少しはのんびりしたくもなるというものだ。


<山の中の街ですから、山の幸は入手しやすいでしょうね。>


マキーナもどこかのんびりとしながら、あの地域の名産らしき食材を表示してくる。

これは期待がもてそうだ、と考えている内に、ふと“そう言えば残り1ヶ月しかなかったんだな”と思い出すと駆け足になり、そうして数日歩き通してようやく街が見える。

危なかった。

下手したら移動だけで1ヶ月が終わるところだった。


到着した街の中は活気づいているのだが、何だか違和感があった。

復興作業をしている中に、魔族の姿があったから、というのもあるかも知れない。

この世界では、まだまだ魔族と人間族は不倶戴天の敵なのだ。

こうして一緒にいるのを見ると、先に違和感が出てきてしまう。


「……いや、もしかしたら俺の価値観が古いままで、こういう風に手を取り合う未来を、この街はどこよりも早く実現してるのかも知れないな。」


何だか可能性の未来を見た気がして、少し嬉しい気持ちになる。

そうなると、無性に酒が飲みたくなる。

一足早く理想の未来を実現しているこの街に、乾杯したくなったのだ。


「よし、酒場だ。

どうせ冒険者ギルドの近くには冒険者の懐を当てにした飲み屋が大量にあるからな。」


街をウロつき、お目当ての場所を見かける。

日も落ちかけて、時間帯も丁度いい。

いくつか店を見て、賑やかな喧騒が聞こえる店に決めて、ウエスタンな両開きの扉を押して店に入る。


(良いね良いね、この雰囲気。)


店の中に入り、ワクワクしながら空いている席に座る。

男も女も、屈強でいかにも熟練の冒険者達。

彼等が気軽に大声で飲み食いしながら旅の話をしている。

食事も、冒険者の楽しみの中では大きな割合を占める。

こういう、その街の熟練冒険者がいるという事は、それだけ味が保証された良い店と言うことだ。

どのテーブルにも美味そうな食事が乗っている。

注文を取りに来た女の子に適当に注文すると、テーブルに置かれたエールを手にする。


(キンキンに冷えてやがる!これは、久々に良い所引いたなぁ。)


この世界でも、保冷技術の浸透の遅さから、冷えたエールを出せる場所は少ない。

冷えたジョッキを掴むとグッとあおる。


「くぁ〜!!たまんねぇなぁ!!」


「あ〜らお兄さん、良い飲みっぷりねぇ。」


最初の一口を一気に喉に流し込み、幸せを噛み締めていると声がかけられる。

いかにも色気を振りまいているその声は、今夜の客を取ろうと狙っているお姉さんかな?と俺に想像させる。

チラとそちらを見ると、その口調が非常に良く似合う、いかにもな露出の高い服を着た、グラマラスな美女がそばに立っていた。

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