表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界殺し  作者: Tetsuさん
昏い光
783/831

782:別れ

「……だず……だずげで……、ダレか……。」


嫌な予感はそのまま的中する。

人体を、魔人族とはいえ人の体を、繋ぎ合わせる技術を産み出しているのだ。

こうされない(・・・・・・)保証など、確かに始めから無い。


それにしても。


……それにしても、だ。


「メノウ……。」


アルガスが、絶望に似た言葉を漏らす。

俺達はその姿を見上げる。

人間2人分はあるだろうと思われる身長に、発達して肥大化した上半身と、それに不釣り合いな程貧弱な下半身。

そして首から上がない、さながら海外のカートゥーンに出てくるモンスターの様な、逆三角形のシルエット。


そんなモンスターの胸に、メノウが縫い付けられていた。


腕は肘から下が、足は太ももの途中から、モンスターと結合されている。

更には、メノウの両眼も縫い付けられていて、瞼を閉じている糸からは今も血が流れている。


「テメェ、よくも、よくも……。」


アルガスの全身から殺気が溢れ出す。


<マスター・マツはオモチャをすぐに壊してしまう癖がありますからね。

そのまま消費するだけというのも勿体無いですからね。

こうして私が有効活用しているのです。>


怒りの限界点を超えたアルガスが、光のような速さで飛び出す。

上段に構えた剣を、目の前のモンスターに振り下ろす。


モンスターが、まるで自ら差し出すように両手を広げ、アルガスの振り下ろしに対して胸を晒す。

つまりは、メノウを前に突き出してくる。


「……ッ!?」


振り下ろしていた剣は、しかしメノウに当たらないような軌道に変えて振り降ろされる。


「あ゛あ゛っ!痛い゛ぃ!!」


振り下ろした剣は完全にメノウを避ける事が出来ず、左の二の腕を切り裂く。

その瞬間、メノウの絶叫がこの空間に響き、アルガスも躊躇してしまう。

その隙を逃すほど頭は悪くないようで、モンスター側の巨腕が風を切るとアルガスを殴り飛ばす。


『……マキーナ、対策はねぇのか?』


<こちらをご覧ください。>


攻めあぐねている俺に、マキーナが解析した情報を表示する。


『……マキーナ、こりゃあお前……。』


先に結論から言ってしまうなら、メノウはもう死んでいる。

“壊した人形の再利用”とは、確かにそういう事なのだろう。


埋め込まれている様に見えていた両手両足には、実際はそこから先は無い。

体内にも、いくつかの器官が失われている。

胸の片側も切り取られた跡がある。

女性として大事な部分に関しても、言い切れないダメージを発見していた。


『……あーあ。』


やっちまったな。

怒りを通り越す。


武道であれば当然だが、例えば戦争と言うものにもルールはある。

妙な話ではあるが、“必要以上に苦しめて人を殺さない”というルールがある。

“必要”とはなんだ、と言うのは色々と議論があるだろうし、散々異世界で人を殺してきた俺が言うのか、とも思うが。

それでも、“ここまでやる必要が無い”と、俺は思う。


転生者は、特にあの神を自称する存在から不正能力(チート)を授かった奴には、世界を思いのままに出来る力がある。

抵抗出来ない異世界の現地人に対して、何の力を誇示しようと言うのか。


いや、思い通りに出来るからこそ、こういう力の誇示をするのかも知れないが。

それは解りたくない事だ。


『アルガス、メノウはもう救えない。

せめて、もう楽にしてやるべきだ。』


「うるせぇ!まだ解らねぇだろうが!!」


アルガスの動きは精細さを欠きながら、モンスターの手足だけを狙おうと剣を振るう。

その剣のでたらめな軌道に、俺は巻き添えを食らわないように踏み込めずにいる。


『落ち着け!1人で何とかしようとするな!!』


「うるせぇ!テメェはメノウを殺す気だろう!!

パーティでもない奴には、仲間のいない奴には、わからねぇんだ!!」




一瞬の空白。

ずっと一緒だった訳ではない俺が足を止めるには、アルガスが言ってしまった言葉を後悔して動きを止めるには。


そして、その隙をモンスターを操るキャスパーが突くには。


十分過ぎる時間を作ってしまった。


「おぐっ……!?」


先程までとは違う、モンスターの全力の一撃。

ロクにガードが出来なかったアルガスには、これまでに無い痛恨の一撃となる。


<勢大!!>


マキーナが叫ぶ。

視覚情報に、あのモンスターの(コア)、弱点の位置が表示される。


『わかった!!』


俺は手にしていた剣を全力で投げつける。

アルガスを殴り、こちらへ向きを変えようとしていたモンスターの胸、メノウの心臓とその奥にある(コア)へと剣は吸い込まれ、同時に突き刺さる。


『ダメ押しだっ!!』


間合いを詰めつつ、メイスを振り抜き剣の柄を全力で打ち抜く。


(コア)に突き刺さっていた剣は、後ろからメイスで打ち抜かれた事により、撃鉄に打ち出された撃針のように(コア)へとより深く突き刺さり、そしてモンスターの胴体を突き抜ける。


「あ゛あ゛ぁ゛あ゛〜!!」


まるで城全体に響かせるかのようにメノウが絶叫し、そして少しずつその体が崩れていく。


<フム、今しがたマスターからもあなたをお通しするように言われましたので、私からの歓迎はここまでと致しましょう。

ここで食い止めきれなかったのは残念です。>


キャスパーの声が響くと、重苦しい沈黙が周囲に押し寄せてくる。


『……そうだ、アルガス!大丈夫か!?』


俺は慌ててアルガスの元へと駆け出す。

虫の息だったが、アルガスはまだ生きていた。

俺は急いでポーションを取り出すと、アルガスに飲ませ、そして傷口……いや、全身にポーションを振りかける。

本当に死の寸前までいっていたらしく、回復は遅い。


「セ、セーダイ、その、すまねぇ……。」


追い詰められていたとはいえ、先ほど口走った事。

それの事だと、想像しなくても解る。


『いや、いい。

誰だってそうなる。

俺だって、さっきの状況なら似たような事を言うと思う。』


俺の言葉に、アルガスは力無く笑う。

追い詰められた時に、人間の本性が出ると思っている。

ただ、だからといってそれを非難する事は出来ない。

善悪の話で言うのならば、この場合は“追い詰めたキャスパー”が悪いのだから。

その上で、アルガスはメノウを大切に思う心を持っていた。

ただ、それだけの事だ。


「すまねぇ、俺はしばらくマトモに動けそうにねぇ。

セーダイ、お前は先に行ってくれ。」


『あぁ、そうさせてもらう。

悪いな、アイツ先にぶっ飛ばしちまうかも知れねぇけどよ。』


アルガスは力無く笑うと、目を閉じる。

俺は立ち上がると、広間の中央に見えていた階段へと進む。

他の世界と構造が同じなら、ここを一番上まで登った先に、“玉座の間”がある筈だ。


階段を登りながら、チラと下を見る。

アルガスが這うようにして、メノウの元へと向かうのが見えた。


あの2人がどんな関係だったのか、俺は知らない。

ただ、今はアルガスが気持ちを整理する時間が必要だと、そんな事を思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ