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異世界殺し  作者: Tetsuさん
昏い光
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766:日々の糧

<だいぶ人がいなくなったようですね。>


「そうだな、ようやく俺等も何か依頼が受けられるってもんだ。」


食事を取り、少し落ち着いた所でギルドに戻ってみれば、殆どの冒険者達は満足する依頼を受けられたのか、閑散としていた。

幾人か残っている冒険者達は、お気に入りの依頼が見つからないのかまだ掲示板を穴が開くまで見つめていた。


あぁやって掲示板に貼られるのは期限に限りがある特別依頼なのだが、俺はどちらかと言うとそちらには興味がない。

ギルドが恒久的に募集している、或いは“いつでもいいから”という納期未定の依頼、この手の依頼を“一般依頼”と言うのだが、この一般依頼は掲示板に貼り出される事はない。

ギルド恒久募集の代表的な依頼と言えば“薬草採取”などだろう。

各地域で生えている薬草に使える草は様々だが、それを採ってきて納品するだけだ。

誰でも受けることが出来て、何人でも受けることが出来る。

掲示板のスペースも圧迫するし、貼り直しに行くギルド職員の労力もかかる。

そのため、この手の依頼は受付で直接聞く事が主流だった。


「すいません、一般依頼(いつもの)見せてくれますか?」


「あぁ、セーダイさん。

いつも助かりますよ。

そうですね……まぁ、いつも通りのですがこれです。」


各種薬草採取に下水掃除、港改修工事の日雇いといつもの依頼が並ぶ。

この手の依頼は直接的な危険が少ないが報酬もそれなりだ。

ただ、これをやるとギルドからは“あまりやりたがらない仕事をこなす便利屋”と重宝されたり、街の住人と親しくなったりと、長期の情報収集を目的としている俺からすれば非常に都合の良い依頼が多い。

今は北の大陸に関して情報が欲しい。

そう思い、“港の改修工事”の依頼を選ぶ。


「やぁ、助かりますよ。

漁の時期が始まっちゃったのに、あの辺は人手不足で工事が進んで無かった所ですからね。」


受付の男は、眼鏡の位置を直しながら受付票を書いている。


「そう言えば、北の魔族の島、でしたっけ?

今どうなってるんでしょうね?」


何気なく、受付の男に聞いてみる。


「さぁ、どうなっているんでしょうねぇ。

何でも近々調査船を出すかって話にもなってるみたいですが……。

また、前みたいに戻ってこない、なんて事にならないと良いんですけどねぇ。」


“はい、出来ましたよ”と、受付票を渡してくれる。

俺はそれを受け取り礼を言うと、ギルドを後にする。

この世界の残り時間やらマツに勝つ方法やら、考える事は沢山ある。

とはいえ、日々の飯と寝床を確保する為の資金稼ぎも大切だ。

まずは路銀を稼ぐ為にも働かないと、である。


「……いつも思うんだけどよ、異世界って言う割には、こういう所はどの世界も夢が無いよなぁ。」


<何を馬鹿な事を言ってるんですか。

それとも勢大は、生き物を殺すと何故かその世界の貨幣が落ちる、そんな世界がお好みですか?>


いやそんな事は無いけどさぁ……。

やれやれ、異世界は“元いた世界とは異なる世界”だというのに、世知辛さは結局変わらないらしい。

俺はため息と共に、指定された現場に向かうのだった。




<勢大、朝ですよ。>


「……んぁ。」


俺はロクに返事もせず、のそのそと寝床から起きて身支度を始める。

かれこれ2週間程度、港での改修工事現場に通っている。

港の中にある、船を修理するための場所が現場だった。

船底を修理しやすいように、海からそのまま修理場所に運び水を抜くという、大掛かりな設備らしかった。

何でも、北の交易の時にもたらされた情報を元に作っていたらしいが、北との交易が途絶える際に魔人族の技術者が引き上げてしまい、残された人員だけで設計図を読み解きながらコツコツと作成しているらしい。

この時期だからか、そこそこ肉体労働に耐えられる俺は重宝されていた。

“そのままここで働かないか”とスカウトされたくらいだ。


「……さて、それじゃあ今朝も楽しい労働に出かけますかね。」


<そうですね、北に向かうにしても、まずは地道な資金集めからです。

……そう言えば、少し不思議だと感じているのですが。>


出勤中、マキーナがふと疑問を口にする。


<現在勢大が作業に従事しているあの修理場ですが、勢大が元いたという世界で、似たような文明の時期ではこのような施設はあったのでしょうか?>


言われて、少し考える。

元の世界でも、この設備自体は知識で知っている。

ドライドックと言われる設備で、当然、科学技術が使われているから船がドックに入ると電動式の扉で海との境界を作り、排水ポンプで水を抜いてた筈だ。

ただ、これの原典がいつの時代のモノなのか、それは記憶になかった。

というより、正直調べたことも無い。


「いや、解らないが、これくらいの時代とかでもあったんじゃねえの?

きっともっと原始的な装置なんだろうが。」


<……そうかも知れませんが、それにしては発想が近代的(・・・)過ぎる気もします。

勢大のメモリにあった中世ヨーロッパの暗黒時代と言うものは、もう少し閉鎖的で科学技術よりも宗教や封建的な、文明の発展とは縁遠い思想が蔓延していたように感じますが?>


人の記憶をメモリっていうの止めない?

いや、そんな事はさて置いて、これまでの変身や肉体の修復等、マキーナと結びつきが強くなっているためか、俺の記憶もある意味でマキーナと共有されている。


「ただまぁ、俺も興味本位で調べていたのは暗黒時代の、それも内陸部の話ばかりだしな。

こういう港街はそういう時代にあっても割と発展していたっていうから、無くはないんじゃないか?

それともアレか?

仮にこれが時代を先取りしているオーパーツ的な技術だとしたら、魔人族には相当頭のいい奴がいるって事か?」


そんな話をしている内に、現場に到着する。

現場監督は俺を見ると笑顔で手を上げ、“今日も頼むぜぇ!”と元気な声をかけてくれる。

船を入れるための囲いを作るための土台作り、そのための土砂を海に運び込む作業が既に始まっており、俺も慌ててその作業に取り掛かる。

だからかも知れないが、小さく呟くマキーナの言葉は聞き逃していた。


<その時代に無いモノを持ち込むのは、確かに稀代の天才か、……或いは転生者(・・・)です。>

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