表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界殺し  作者: Tetsuさん
昏い光
760/831

759:絶対絶命

顎を蹴り上げられ、宙に浮いた俺の胴体に左右の拳が突き刺さる。

横ではなく、斜め上に突き上げるようなその拳は、俺が吹き飛ぶことすら許さない。


「あらよっと。」


左の拳を突込みながら、マツはその場でくるりと半回転。

俺の顔の前に、奴の右足の裏がチラリと見え、“ゴギン”という聞いたことのない音を立てながら衝撃とともに吹き飛ぶ。


<勢大、状況は深刻です!

ダメージ回復に回っていますが、これ以上のダメージを受けると……!!>


マキーナの声が遠くに聞こえる。

顔が熱い。

ヘルメットの中で焚火でもやってるんじゃないかってくらい、燃えるように熱く、そして痛い。


黒い影が俺の前に立ちはだかる。

やたらと金でピカピカしてる、黒い影だ。

ソイツが腰だめに構えた右拳を突き出してくる。


あぁいけない、これは防御しなきゃ、とぼんやり思いながら、左手を影の拳に添わせて受け流す。


「ハッ、良いねぇオッサン!まだやれるじゃねぇか。」


うるさい影だなぁ、と、ぼんやり見ると、その影が徐々に晴れていき、俺と同じような姿を形作る。




あれ、俺何やってたんだっけ?




「ハッ!?やべっ!?」


間一髪、上段の回し蹴りを右腕でガードしながら屈んで避ける。


急速に視界が晴れ、そしてうるさいくらいの周囲の音が耳に入る。

木々のざわめき、時々弾ける燻っている火の音、俺の心臓の音。


<勢大!意識が戻ってきましたか!?

現状は危険です、ここから退却を!!>


マキーナはそう言うが、目の前のコイツは逃がしちゃくれない。

矢継ぎ早に拳を、足を叩き込み、確実にこちらの命を狙ってきているのだ。


「どぉしたよオッサン、威勢がいいのは最初だけか!?

キャスパーも飽きてきたって言ってるぜ!!」


“キャスパー”というのが、ヤツをサポートしている何かなのだろう。

俺で言うところのマキーナみたいなもんか。


『へっ、勢いが良いのは認めてやるよ。

だが、そんなに早いと女の子にモテねぇぞ?』


マツの動きは鋭い。

だが、読めない訳では無い。

同じ流派ではなさそうだが、コイツも元の世界でその道を学んだ事があるのだろう。

そういう、“部を学んだ事がある人間”なら、逆に動きが予想がつく。

ギリギリの段階だが、受け、かわす事が出来始めていた。


「なるほどねぇ、オッサンも多少はやる訳だ。

でも、もう大体わかったかな。」


殴り合い、蹴り合った末に、ふとマツが間合いを取る。


こちらの防具類はボロボロだが、マツの方には大した傷は無い。

これだけでも、彼我の状況を物語っている。

残念だが、俺と奴では基本の戦闘能力に差があるらしい。

今のこの状態、真正面からの正攻法では勝ち目が薄いと言う事だ。


<勢大、ブーストモードで一気にカタをつけましょう。>


(俺が、その可能性を考えなかったと思うか?)


相手から見れば、まさしく時間が停止したに等しい超加速(ブースト)モード。

初見殺しの必殺技としては申し分ない技だろう。


だが、戦いにおいては“自分が出来る事は相手も出来る”と想定した方が良い。

相手が絶対にこれは仕掛けてこない、或いは知らないと確証があるなら使えるが、残念ながら奴は存在自体が俺の上位互換みたいなもんだ。

なら、使えると疑ったほうが良い。

もしかしたら、今は使えないかもしれないが、見た瞬間に理解して同じ事をやってくるかも知れない。

この転生者だけなら一か八かでやっても良かったが、“キャスパー”というサポートがいるなら話は別だ。


<勢大も、私よりあちらの方が高性能と考えているのですか?>


いつも以上に無機質な、下手をすれば凍りつくような冷たい声でマキーナが呟く。

こいつめ、サポート役として嫉妬しているのか?


(そうじゃねぇ。

だが確かに、軽くも考えてねぇ。

“目の前で敵の能力を解析して自分の物にしてきた相棒”を目の当たりにしてるとな、自然とそういう警戒をするようになるんだ。)


俺自身は不正能力(チート)を使えなくても、相手の不正能力(チート)を解析して、似たような行動が取れる様になっていくマキーナを目の当たりにしているからか、サポートキャラがいる、と言う事を軽く見るわけにはいかない。


「そっちはそっちで、“相棒”との会話が終わったかよ?

こっちはこっちで“相棒”がもう少しだけお前達に興味があるみたいでな?

“どこまでやったら転生者は壊れるのか?”って疑問があるらしいからよ、付き合ってくれるか?」


マツは両拳を握ると、大地に両足をしっかりと付けて、深く深く腰を落とす。

あの構えは、元の世界でも広く普及している流派の、一撃を重んじる時の構えだ。

辺りを包むほどの殺気が広がったかと思うと、その気は一気にマツの右拳に収縮していく。


「まだこの技に名前をつけてねぇんだけどよ、威力は保証するぜ?

しかしそうだな、“異邦消滅拳”とか、良いかもな。」


満足に動かない体ながら、俺も静かに腰を落とし、構える。


『ははっ、いやぁ、お前には感謝しねぇといけねぇな。』


「あぁ?」


マキーナに、アーマーの防御力のほとんどを手甲に回すように指示する。


『俺は結構いろんな世界でよ、“ユーモアのセンスが最悪だ”って怒られてたんだがよ。

……そんな俺より酷いセンスを持つ奴がいてくれたおかげで、少し安心したぜ。』


「チッ、抜かしてろ!!」


マツが拳を突き出すと、俺の全身を飲み込んでもまだ余りあるくらいの大きさの、光の拳が高速で俺に襲いかかる。

その巨大さに受け流す事は出来る訳がない。

俺も全力で右拳を突き出すと、マツから放たれた光の拳を受け止める。


『グォォォォォ!!』


受け止め、静止できたのはほんの一瞬。

俺の拳は簡単に砕け、そのまま光の拳に飲み込まれ、衝撃を受けながら後ろへと高速で引き摺られ、俺の体ごと木々をなぎ倒していく。

薄れる意識の中で俺は、妻の顔を思い出していた。




「おぉー、すっげ、山がえぐれたなぁ。」


マツはひとしきり子供のように喜んだ後、変身を解除する。


「で、どうだったキャスパー?

アイツのサポートだか何かの情報は抜き取れたのかよ?

……はぁ、“抜き取る必要を感じられないデータばかりだった”だとぉ?

なんだよ、あのオッサン、結構この異世界を渡り歩いてる風だったのに、実際は大した事無かったのかよ。

んだよ、がっかりだな。」


そう言い残すと、もう興味を失ったかのように街へ向けて歩き出す。

久々に暴れられたからか、その足取りは軽い。


「次はどうすっか。

またあの街をメチャクチャにしてもいいし、サージャーの街まで足を伸ばす……か……。

あ、いけねぇや、まだ魔大陸で遊んでる途中だったじゃねぇか。

ま、サージャーの街はその次だな。」


日が落ち、マツの姿は不意に見えなくなった。

後には、ただ静寂のみが残されていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ