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異世界殺し  作者: Tetsuさん
報復の光
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75:久々の王都

「次!通行証、或いは目的を話せ!」


俺の番が来た。

とりあえず門番に、露天商の時と同じ言い訳を伝え、王都で冒険者か何か仕事がしたい旨を話した。


後ろの衛兵達が何かザワついたかと思うと、何人かが城に向かって走って行った。

何だ?何かやらかしたか?

内心では焦っていたが、商談の時のように平静に振る舞う。


「オマエ、その黒髪はこの辺では見たことが無いが、どこの出身だ?」


また髪の話してる、カッコAA略、なんて事が脳裏を掠めたが、いや今はそんな事を考えている場合ではない。


頭をフル回転させて、露天商の話を思い出す。


「あぁ、私のご先祖様が遠い東の国から流れてきたのだと、死んだ家族に聞いたことがあります。

あのぅ?それが何か?」


門番は“そうか、苦労していたんだな”と呟くと、入国費用として銅板1枚が必要なこと、それと王都内でのしてはいけないルールについてざっと教えてくれた。

ついでに、冒険者ギルドの建物の位置も教えてくれるなど、中々にいい人だった。


危ない、露天商との雑談はマジで有意義だった。

あの時も髪色の話をされ、東の方、と適当に答えたところ“あぁ、極東の竜胆りんどう家のある国か”と言われていたのだ。


どうも元の世界と同じように、極東には日本の様な国があるらしい。

そこは小国が集まって出来た複合国家で有り、各国の“ダイミョー”なる君主のために命を捧げる事を誉れとする教え、“ブシドー”が根づいており、かつて王国もちょっかいをかけたことがあるらしいが、その際に“ニンジャ・ウォリアー”という兵士にことごとく返り討ちにあったらしいと聞いていた。

今は基本的に極東はアンタッチャブルで、唯一の例外として竜胆りんどう家だけが“デジーマ”という閉鎖エリアで細々と交易をしているらしい。

なので、商人の間では極東の国名よりも“竜胆りんどう家のある国”として広まっているらしい。


“武士道は侍だろ”とツッコミ入れたかったが、まぁ、聞いておいて良かった。


まぁ、今はそれほどでもないらしいが、以前は黒髪は“不吉の象徴”として迫害の対象だった時期もあるとのことで、門番氏が言っていたのはこの事を連想したからだろう。


ともかく入国費用を払い、門番に礼を言って門を潜ると、見るからに高価そうな純白の礼服に白のマントを羽織った美形が、こちらを睨んでいた。

後ろには息を切らした衛兵達がいるところを見ると、入国審査が終わるのに間に合わせるため急いだらしい、と言うことが解った。


「そこの黒髪、待て。」


怖い顔の美形に呼び止められる。

ここまでくると嫌でも分かる。

例の転生者の勇者君と、俺が関係あると思っているのだろう。

だが、そう言う厄介事に今から巻き込まれるのは困る。


「へ、へぇ、お貴族様が私に何のご用でしょうか。

今このお国に入ったばかりでして、お名前も存じてませんで大変申し訳なかですが。」


俺はオドオドした態度で、腰を低くしてこの場をやり過ごす事に決めた。

こりゃあ、転生者君は相当何かやらかしてるんだろうなぁ。


「その顔、彼では無いな?

おい、オマエと同じ様な黒髪の少年を見なかったか?」


「へ、へぇ、見ておりませんで。

お役に立てなんで申し訳なかですが。」


有益な情報が手に入らず、イラついているのが見て取れる。

右手が腰のサーベルに伸びかけたところで、門番が慌てた様に間に入る。


「殿下!この者は廃村の村からこちらに来る途中、魔獣に追われ仲間と散り散りになったとのこと!

恐らく例の者とは髪色が似ているだけの無関係の者にございます!

ここは国の玄関口ゆえ、何卒!何卒!」


殿下と呼ばれた男は、“もう良い!”と吐き捨てるとそのまま踵を返し、報告した衛兵を蹴り飛ばすと城へ向かって歩いて行った。


中々にかんしゃく持ちのようだし、白昼の往来でその行動、自らバカ王子と喧伝しているようなモノだ。

これはますます、転生者君の言い分も聞いてみたい所ではあるな。


助けて貰った門番にお礼を言い、改めて冒険者ギルドへ向かう。


まぁ助けて貰ったとはいえ、先程の門番、“国の玄関口”だからと言っていた。

つまりはここがそう言う場所でなかったとしたら、“世間体を気にしなくていい場所”であるなら、バカ王子が切り捨て御免!しようと、無視したと言うことだろう。

まぁ世の中そんなモノだし、とは言えなんであれ助けて貰っただけでもマシ、かも知れないな。


王都にいないとギルドの仕事は受けられないが、あのバカ王子がこれで引くとは思えない。

ある程度信頼される等級になるまでは、ここを離れられない。

やれやれ、前途は多難だ。


暗鬱たる気持ちを抱えたまま、冒険者ギルドの建物に入る。

ここは“冒険者ギルドへようこそ”等という看板はついていなかった。

地方の役所みたいな無機質さのある建物だが、やはりここの1階の半分は酒場になっている。

情報収集もでき、仲間も探せ、ついでに冒険者が稼いだ金をギルドが巻き上げられる、実に便利な建物だ。


俺は入ってすぐの受付で冒険者登録をお願いする。

割と慣れたものだ。

文字は少ししか読めない、出自の村はもう廃村、知り合いは皆散り散り、当然スキルもわからない。

これがTRPGなら、キャラクターシートはさぞかし空欄だらけだろう。


だがこんなどこの馬の骨ともわからない相手でも、石級冒険者証は発行される。

まぁ石級なんて、登録のあるごろつきと大して変わらないだろうしな。

そう思いながら、とりあえず石級冒険者に出来そうな、ドブさらいと薬草採取の依頼を受ける。

明日の午前はドブさらいで、午後は薬草採取だ。


まぁこれから地道にやっていくか、と決意を新たにしたところで、腹が空く。


“う~ん、頑張りは明日から!”というダイエットしようとして挫折する女の子みたいな事を思いながら、早速併設されてる酒場で安くてオススメを注文する。

ここはどんな謎肉が出てくるか、早くも楽しみだぜ。



“今日の魔獣肉ステーキ定食”という謎の料理が出て来てテンション上がる。

しかも銅貨3枚という破格の値段。

あの露天商におごって貰ったコーヒーが銅貨4枚くらいだから、どれくらい破格かというのがわかる。


一応“何の魔獣の肉か”を運んできたお姉さんに聞いたが、お姉さんは何も言わず、ただ笑顔を返すだけだった。


そう、これだよこれ!この恐怖だよ!


謎肉にフォークを刺し、ナイフで一口サイズに切り分けてみる。

強く押し当てなくても、ギコギコと刃を引かなくてもスッと肉に入る。

“何だ?ハンバーグみたいなミンチの寄せ集めか?”と思ったが、そんな事は無い。

僅かに筋が引かれ、断面は程々に火が入った、表面の灰色と中のピンクが美しい。

プレートも良い加減の熱を持っており、フォークで少し持ち上げた肉から滴る肉汁がプレートの上で焼かれ、沸騰するその音が耳に心地良い。

そのままフォークに刺した肉を口元に寄せれば、胡椒とソース、肉汁が奏でる芳醇な薫りの暴力が、俺の脳髄を刺激する。


えいやと覚悟を決め、口の中にいれ奥歯でグイと噛みしめると、ナイフで切ったときには感じなかった確かな弾力が俺を魅了する。


噛んだ肉からは、どこに隠し持っていたのかと言わんばかりの更なる肉汁の旨み。

胡椒とソースの香ばしい薫りが、肉の臭みを消しつつ肉本来の旨みを加速させる。




そこでハッと我に返る。

そうだ、“でも何の肉かはわからない”んだった。

危ない危ない。

あと少しで“うーまーいーぞー!”とか言いながら目と口からビームを出すところだった。

いや、この料理の場合は“オーマイ昆布!”だろうか?


そんな風に食事を楽しんでいた俺の向かいの席に、見慣れた、そしてこの世界では初対面の男が座る。


彼が何を言い出すのかを、俺は食事を楽しみながら待っていた。

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