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異世界殺し  作者: Tetsuさん
昏い光
751/832

750:2番目の街へ

「えーと、後は何だっけか?」


<村長から要望のぶどう酒ですね。>


あぁ、と生返事をしながら、酒屋に向かう。


「あ、いらっしゃいま……ヒッ!」


どうにもなぁ、と考えながら酒屋の中に入ると、想像通りの展開になる。

酒屋の看板娘が、青ざめた顔で奥に引っ込んでしまう。

そうしてしばらくすると、奥から酒屋の主人がやってくる。


「おぅ、兄ちゃん、またお買い物かい?」


「え、えぇ、コトウ村の依頼で、ぶどう酒を小さい樽で1つ。

代金はこちらに。」


カウンターに銅板を1枚置く。

それを見た店主の親父は、“あいよ”と言いながら店の奥に行き、樽を小脇に抱えて戻って来る。


俺はそれをヒョイと持ち上げると、肩に担ぐ。


「それじゃどうも、忙しい所すいませんね。」


「……あー、兄ちゃん、その、なんだ。」


親父が申し訳なさそうに、そして言いにくそうに頭を掻きながら言葉を詰まらせる。


「いや、その、娘も悪気がある訳じゃないんだ。

ただな、お前さんのその……。」


「いや、仕方ないッスよ。

特に気にしてないんで、お嬢さんにもよろしく言ってください。」


肩をすくめながら、俺は気にしていないと返す。

まぁ、実際気にもなっていない。

というより、気にするだけ無駄だ。

何せ、このセスの街に入った時からこうだからなぁ、と、思い返す。




「次の者、身分と街へ入る要件を伝え……ん?貴様!!」


俺の目の前の門番が声を上げる。

その声に不穏なものを感じたのか、詰所から衛兵までもが飛び出してきて俺を取り囲む。


「あ、あの、山2つ超えた向こうの街から来ました、セーダイと申します。

ホラこれ、冒険者証です。

その、何かあの山の中にある村の人達から、こちらの街で物資を購入してほしいという依頼(クエスト)も受けてまして。」


名を名乗ったあたりでは“別人じゃないか”と言うようなヒソヒソ話が聞こえていたのだが、“山の中の〜”といった辺りでまた空気がややピリつく。

何となく察してはいるが、ここは何も知らない体でいた方が良いだろう。

“何故こんな風に囲まれているか解らない”と言うように困惑した顔をしていると、取り囲んでいる衛兵の中から、少しだけ良さげな防具をつけているオッサンが前に出てきた。

この中で、それなりに偉い立場にいる人だろうか?



「お前は、セーダイだったか。

どこから来た?

マツ・コトウと言う名に聞き覚えはあるか?

あの山の村人達とはどういう関係だ?

この街で何をしようとしている?」


矢継ぎ早に質問が飛ぶ。

まぁ、こうなるだろうなとは思っていた。

恐らく、マツという人物はこの街でもかなり暴れたのだろう。

とはいえ、同じ黒髪というだけで同罪に見られるのは御免被る。

俺は1つ1つ丁寧に衛兵の質問に答える。

あの山の村人から依頼を受けている以上、マツの名前を知らないとは言えない。

なので、これまでと同じように東の果てから来た、小銭を稼ぎながら旅をしている放浪者という体で答えていく。

やはり、コトウ村の連中との関係やマツの血縁者ではないのかとかなり疑われたが、最終的には嫌疑不十分で街に入る事を許可された。

この辺、身分証明がデータ化されていない近代化前の世界は楽でいい。

本人の証言以外に何もなければ、権力者の力技でもなければこうして簡単に入れる。


「ところでその、あの村の方もそんなに教えてくれなかったんですが、先ほどから散々出ていた“マツ”という人は、何をやらかしたんですか?

黒髪ってだけで、結構人から避けられるんですが?」


俺の質問に、先ほどまで俺を詰問していたオッサンは微妙な、それこそ苦虫を噛み潰したような顔になる。

“何と言ったらいいものか”という言葉が、顔に書いてあるように見えるほどだ。


「むっ、それは、その……。

ええい、我々も忙しいのだ。

さっさと移動しろ。

冒険者ギルドはこの大通りを歩けば右手側に見える。」


結局、この衛兵からは何も聞けなかった。

ただ、この事情については冒険者仲間から聞かされる事になる。

その後冒険者ギルドでも似たような一悶着があり、そして疑いが晴れると、あの村の依頼(クエスト)を正式に申請し、受領する。

ギルド職員の事務的な対応が終わり、受領の手続きが終わり外に出ると、何人かの人数の悪い、それこそチンピラの様な冒険者に囲まれる。


……この世界、治安終わってねぇか?

まぁ、こういう時代ならこんなもんなのか?


「よぉ、お前さん来たばかりの新人だろう?

しかも、あの村の関係者って噂だ。

お前に恨みは無いんだがな、俺も依頼(クエスト)を受けてるんだ。

“あの村の女以外の関係者はボコボコにしろ”ってな。

へへっ、悪く思うなよ。」


「……事情は良く解らんが、お前等だってこんな往来のど真ん中で白昼堂々揉め事はしたかぁないよな?

なら、もう少し場所を変えた方が良いんじゃねぇか?」


静かに凄む。

俺の気迫に押されるように、目の前のチンピラの一人が後ずさりする。


「へ、へへっ、随分な余裕じゃねぇか。

こっちは3人、しかもお前は丸腰だ。

それでも勝てると思ってやがるのか?」


一気に間合いを詰め、チンピラの喉元に手刀を添える。

その動きが見えなかったのか、チンピラは口を開けたまま動きを止める。


「ちょうど良かった。

何故だか知らんが、俺の容姿、特にこの髪の色を見ると前の街でもこの街でも同じような妙な事態に巻き込まれるんだ。

それが何なのか、ずっと気になっていたんだ。

……親切な君達なら、きっと教えてくれるよなぁ?」


俺を取り囲む残りの2人にも注意深く意識を向けながら、目の前で汗が滲み出しているチンピラを睨む。


どうやらそれなりに出来るヤツではあるらしい。

少なくとも、“彼我の実力差”を理解出来るくらいの腕前はあるからだ。


その後、チンピラの1人を拘束して人目につかない路地裏に向かい、突き飛ばす。

ついてきた残り2人も武器を構えて殺気立つが、手は出せずにいるようだ。


「さて、色々教えてくれ。

まず、この街でマツとか言う奴は何をしたんだ?」


ここでようやく、色々と聞き出す事が出来た。

どうやら、マツとか言う奴はここでもロクな事はしていないらしい。

いや、あの村の、“全員マツの女”という時点で、大体は想像できていたが。

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