表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界殺し  作者: Tetsuさん
報復の光
75/831

74:世間(を知る)話

「そうか……、アンタ過疎村から出て来たんだもんな、その辺の情報に疎いのも仕方ないか。」


露天商のオッサンは顔をしかめたまま、しかし何かに納得したような表情を浮かべる。


「まぁ、あの村もなぁ、調子に乗ったと言えば調子に乗ったんだろうが……。」


露天商のオッサンは一休みがてらと、自分の分だけでなく、“これはサービスだ”と、俺の分までコーヒーを入れてくれた。


「アンタ、何か“スキル”は持ってるかい?

……そうか、それも知らないか。

まぁ、神殿で金を払えば調べてくれるから、興味があるなら調べてみるといい。

もし良いスキルを持っていたら、それだけで人生が激変するかもな。」


露天商のオッサンはそう笑うと、話を聞かせてくれた。

案の定、国の名前はダウィフェッドだった。

大陸と種族の位置関係も同じ。

地図の左上、人間の住む大陸の北西に魔族の住む大陸があり、そこの名前もアンヌ・ン魔帝国。

魔族と人間の戦いは続いており、争いの切り札として、結構前に王城で別の世界から勇者が召喚されたらしい。


ただここは、いやこの国では、より良いスキルを持っている者が優遇されるらしい。


召喚された勇者は、本人曰く15歳の男性とのことだ。


そしてその勇者が持っていたスキルは“清潔”。

身の回りを清潔に保つ事が出来るレアスキルらしいが、この世界の基準ではまごう事なきクズスキルになるそうだ。


ふと、“元の世界だったら、医療関係者がこぞって習得したがるスキルだろうなぁ”とは思ったが、特に口は挟まずに先を促した。


召喚された勇者の魔力量は普通の人間を遙かに超えている事が災いした。

また“清潔”スキルも、その後の実験で戦闘による返り血などの汚れを洗浄するだけでなく、状態異常に対しても一定の効果が見込めたため、魔王討伐軍、その中でもスキル“英雄”を持つリーダーがいる、最精鋭部隊に配属されたらしい。


そこで何があったかは分からないが、結論からすると勇者は何度も脱走した。

その度に連れ戻され、勇者の道理を説くも結局上手く行かず、挙げ句に精鋭部隊の何人かを殺害して逃亡。

現在に至る、という話だった。


「あれ?あのー、何か近くの村の話が出てこなかったんですが……。」


「……そのー、あれだよ。

異世界の勇者が脱走したときに、逃げ込んだのがこの山向こうの村だった時もあってな。

既に手配書が出回っていたから、村人総出で捕まえたらしい。

ただ、噂じゃ捕まえるときに結構手酷い事をやったらしくてな、騎士団に連行される勇者が、村の奴等にずっと罵倒してたって話だ。」


何だか歯切れの悪い話し方ではあったが、何となく分かる気がする。

昨日の様なことをやられて、逃げ切れなかったのだろう。

もしかしたら、懸賞金付きの手配書でも出回っていたのかも知れない。

あの村人が総出で血眼になって探している様子は、普通じゃない。

だとするなら、この村も安全とは言えないし、これから向かおうとする王都は更に危ないと言うことだ。


「その転生してきたって言う勇者は、今も王都にいるんですかねぇ?」


俺が何気なくそう聞いた言葉に対して、露天商のオッサンは道行く人達に注意を払いながら、顔を近づけ素早く小声で話す。

どうでもいいがちょっとコーヒー臭い。


「アンタも勇者の懸賞金目当てなら止めた方が良い。

何でもその勇者、自分を迫害してきた奴等に復讐して回ってるって話だ。」


オッサンは顔を離すと、まるでさっきの話の続きかのような調子で話を続ける。


「さぁなぁ、噂じゃここからもう少し北東に行った、プロビィンシャルって俺等が呼んでるプロー伯爵家の領地にいるとか聞いたけどなぁ。」


あ、ランスさん家だ。

前々から気になっていた、プロビィンシャルの由来を聞く。


なんでも元々はあまり交易も盛んでない田舎だったのだが、王都の空気が合わない頑固者や偏屈者が流れ流れて住み着き、更には王都やその周辺の街や村にいられなくなった流れ者なども住み着くようになり、それなりの規模の街になっているらしい。


ただ、その成り立ちからもわかるように、割と他者との関わりが薄い街であり、行商人達からは“偏屈者ばかりの田舎町”という意味合いでプロビィンシャルと呼ばれているらしい。


タチの悪いことに、その土地の人間もその蔑称を知っており、しかも気に入って“俺はプロビィンシャルの出だ”と、変に誇りまで持っているとのことだ。


「あそこはどちらかと言えば、王都から出てった奴の集まりだからなぁ。

俺も、あんまりあそこに行商しに行く気にはなれないんだよ。」


なるほど、あまり治安はよく無さそうだ。

ついでに言えば反体制というか、王都に不満を持った奴等の集まりって事か。

過去の経験と位置関係から、多分プロー領のもう少し西寄りの奥にロズノワル領があるんだろうなぁ、と、想像はつくが、多分そこまでは行ってないだろう。

あそこはどちらかと言えば現体制寄りだし、言うて最前線だからなぁ。


その後は適当な雑談をしている内に、チラホラと客が見えたので世間話はそこまでになった。

俺は露天商のオッサンに礼を言うと、この村で唯一らしき食堂で食事を取ることにした。

食事をしながら周りの声に耳を傾けていたが、聞こえる話題は逃走した勇者の話題ばかりだし、露天商のオッサンから聞いた話以上の話は聞こえてこなかった。


食後のお茶を飲みながらこれからのことを考える。

多分転生してきた勇者を探すなら、このままプロー伯爵領地に向かうのが正解なのだろうが、如何せん路銀が心許ない。


悩んだ末に、やはり当初の目的通り王都に向かうことにする。

先程の雑談の中で、この世界には“冒険者”が存在することも、確認済みだ。


自由に各都市を行き来することが出来て、受ける依頼で日銭も稼げる。

この村にも冒険者ギルドの支部はあるようだが、下手にこういう所で登録すると“村の戦力”と見なされて身動きが取れなくなりそうだ。

ならばいついなくなっても誰も不思議に思わず、いつどこにいても誰も不思議に思わない、一人一人のウエイトが低い王都で登録するのが、やっぱり俺には最適だろう。


そうと決まれば早いほうが良い。

俺は残りのお茶を飲み干して席を立つ。


王都に向かう道すがら、先程の露天商との会話を思い出していた。

15歳でこの世界に飛ばされてきて、持っていたスキルとやらはクズスキル扱い。

ただ魔力量が多いからと魔族との戦いに狩り出され、そこで辛い目にあって逃亡、その報復でかつての敵に復讐して回っている、と言うところだろうか?


“そりゃ現代の人間なら耐えきれないだろうなぁ”と言う思いと、“何も殺しまで行かなくても”という思いの二つがあった。


何だかいまいちわからない。

王都なら、もう少し分かるかもしれん。

考えを切り替えると、王都の入口で列に並ぶ。

まぁ、まずは色々と先立つものだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ