747:発見
<この辺、ポーションに使えそうな薬草生えてるな。
……別に急ぐ旅でも無し、ちょっと採っておくか。>
ヤブをかき分け、体中にまとわりつく虫やらクモの巣やらを払いながら山道を通っていると、所々にポカリと穴が空いたように背の高い雑草が生えていない場所がある。
ポーション、或いは薬草に使われる草が生えているところは、地中で音が大概繋がっており、その強烈な生命力から土壌の栄養を独り占めする勢いで吸い取る。
そのため、薬草が生えているところには他の雑草も芽を出すことが出来ないらしく、目の前に広がる虫食い穴が開いた緑の絨毯みたいな景色が出来るらしい。
<良いかも知れませんね。
あの街でも、恒久依頼として“薬草採取”が掲示されていました。
状態にもよりますが、綺麗に採取を行った状態の薬草は確かメニ銅板1枚、そこそこでもアンソー銅貨2枚くらいにはなる筈です。
次の街でも、同様の依頼が出ている可能性は高いと推測されます。>
大した額でもないが、小銭稼ぎ兼手土産、というよりは実績作りになるか。
あの街で冒険者になっていながら、大した実績もなく次の街に現れるのだ。
普通の感性なら“前の所で揉め事を起こしたから逃げ出してきた”と疑う事になるだろう。
だから、“放浪しながら冒険者をしている変な奴で、だから昇格は遅い”と言うような見え方が必要だろう。
そういう意味では、いきなり顔を出した瞬間に薬草を納品でもすれば、少しはそのカバーストーリーに重みが出るってもんだ。
<……しかし、“マツ”という人物の行動が解りませんね。
あの、一番最初に遭遇する村でも蛇蝎のごとく嫌われておりましたし、あの街でもそうでした。
次の街でも同様の、つまりは“黒髪”というだけで勢大まで目の敵にするような、何かよろしくない事をしでかしている可能性がありませんか?>
“そうなんだよなぁ”と、俺はため息をつく。
最初の村では何だったか、もてなしたら酒も食い物も浪費して、しかも村の若い娘も襲ったんだっけか。
まぁ、あの村は“旅人を襲う村の可能性もあるから、完全には信用できないが。
それでも、話半分と聞いてもマツは多少なりとも略奪はしたのだろう。
まぁそれは俺も一緒と言えば一緒か。
……いや、規模は俺の方が小さいと信じたいな。
ともかく、そうして物資を補充して向かった街では、冒険者ギルドに巣食ってる悪党、グルヒルだったか、奴に取り入り仲間になると、マフィア紛いの活動をしていたらしい。
冒険者も、その身分がなければただのゴロツキと変わらない。
依頼も、正規の冒険者ギルドから発行されるものよりは裏でグルヒルに回ってくる依頼、恐喝や掛け金の回収、賭場の管理に飲み屋の用心棒などをこなしている方が多かったという。
ただ、マツという男はどうやら野心が強いらしい。
グルヒルに使われているのを面白くないと思ったのか、グルヒルに成り代わってその地位を得ようと命を狙ったらしい。
いや、正確には命を狙う計画が、実行直前にバレたそうだ。
そこから一転、逆にグルヒルに命を狙われてこの街から逃げ出す羽目になり、最後の嫌がらせにとグルヒルの根城一帯に火を付けて逃げたそうだ。
中々に破天荒だし、火を付けて周囲の目をそちらに引き付ければ、確かに脱出はしやすくなるだろう。
「ただまぁ、俺なら絶対やらねぇなぁ。」
<そうでしょうね。
仮に正しい事としてソレをしなければならない状況であったとしても、私も勢大に警告すると思います。>
マキーナも同意するくらい、この手の時代だと放火は危険なのだ。
大体、この手の時代は人間の命が軽い。
特に冒険者のような存在がいたりすると、当たり前のように武器があるからか、何か罪を犯せばすぐに首が飛ぶ。
話では、マツを捕まえる、或いは首をはねるために領主からの刺客も出ているという。
冒険者同士の小競り合いから、領主まで巻き込んでしまった、と言う訳だ。
「よし、こんなもんで良いか。
流石にそろそろ持ちきれなくなるからな。
……しかし、考えれば考えるほど、マツって奴は転生者なんだろうな、って確信が深まるな。」
<そうですね。
これまでの状況を振り返るだけでも、彼の判断は“この世界の常識”からはかけ離れている。
とは言え、勢大のいたと言う世界の常識から比べても、かけ離れすぎているような気がしますが。>
マツという人物の、その部分だけが解らない。
9割転生者だと思っているが、どうにもその行動が破天荒すぎて信じられない。
たまたまこの世界に生まれた、異質な存在、或いはいるかも知れない魔族が人間族を内部から崩壊させているのか、という疑問すら出てくる。
「まぁ、何にせよ本人を見つけて聞いてみりゃ一発だろうな。
……ん?あの村、何だ?」
山を下る最中に、木々に囲まれた丘の上に木造の建築物、いくつかの家が建っているのが見えた。
あれが次の街かとも一瞬思ったが、それにしては規模が小さすぎる気がする。
前の街での出店やらで聞いていた雰囲気とは、まるで違っていた。
<勢大が感じているように、前の街での情報収集で得られた街の様子とは合致しません。
ただ、街の住人の誰からも、あのような場所に村があるとは言っていませんでした。
それに、見てください勢大。>
マキーナが、俺の右目の視力を上げる。
望遠レンズのようになった俺の目には、真新しい壁の家が映っている。
<どの家も、まるで建てられたばかりかそれほど時間がたっていない壁面ばかりです。
恐らくですが、最近になって作られた新しい村なのではないか、と推測されます。>
立ち止まり、考え込む。
次の街まではまだ距離があるはずだ。
多分、もう1日か2日は歩き通す事になるだろう。
ただ、ノコノコと出向いて最初の村のようにびっくり箱の可能性もある。
「……とはいえ、ここで悩んでいても仕方がねぇな。
ちょうど薬草も採取してる。
道に迷った……いや違うな、たまたま発見した行商人って事で、ちと見てみるか。」
<お好きに。
ただ、こうしている間にもあなたの皮膚に噛みつこうとしているノミを駆除している事をお忘れなく。
そこまでこの世界に長くはいられなくなるかも知れませんので。>
本当に嫌な世界だ。
俺はため息混じりにそう呟くと、森の中に生えた村へと向かう。




