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異世界殺し  作者: Tetsuさん
昏い光
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745:脱出

突き飛ばした俺が立ち上がるのを待ちながら、ニヤニヤと喜悦を顔中に浮かべながら半円を描くように俺を包囲した冒険者達は、ゆっくりと武器を構える。


(マキーナ、お前どこかの世界で魔法使ってたろ?

今ここでそれ使って、こいつ等を眠らせたり出来ねぇか?)


<クリアするべき問題点が2つ。

1つは私が使った世界での魔法と、この世界の魔法が“細部においてはともかく根幹において同一である事”という前提条件が確定している事と、もう1つは勢大に魔力が存在する事、が立証されているなら、魔法の使用は可能です。>


それを聞いて思わず黙り込んでしまう。

1つ目はまぁいい。

恐らくこの世界も、あの神を自称している少年が創った世界の延長だと思う。

それがコピーなのか断続的な共通世界なのかはハッキリしていないが、それでもベースは同じものだろうから魔法技術の根幹はそう変わらない筈だ。


だが2つ目は致命的だ。

俺には魔力というものは存在しない。

そりゃそうだ、元の世界で、魔法なんか使った事も無い。

30歳超えてもDTなら魔法使いにクラスアップするらしいが、残念ながら彼女もいたし何なら結婚して幸せな夫婦生活を営んでいたからな。


……しかし、俺が若い頃は“やらハタ”なんて言葉もあったくらいだが、気付けばそういう言葉は久しく聞いていないな。


<“やらハタ”?また聞いた事のない言葉ですね。

いや、そんなのんびり回想している暇はないと思いますよ。>


そりゃオメェ、“やらずハタチ”の略でな、つまりは20歳までに女の子とチョメチョメを……。


「おっと危ねぇ!」


って、二重の意味で危ない。

アホな事を考えていたら、睨み合いに痺れを切らしたらしい、若い冒険者が俺を斬りつけてきた。


「ただこれで、正当防衛の成立ってな。

……まぁ、そんな概念(モン)があればの話だが。」


勢いよく振り下ろされた剣を半身になりながらかわし、半歩踏み込んで相手の背中側に回る。

若い冒険者君は体をねじりながら下から斬り上げるように、剣を横に振る。

ただ、それを見越しての背中側だ。

動けば動いた分だけ、俺は背中側に回り込み続ける。

そして両手で剣を振るという事は、首周りがガラ空きになるという事だ。

巻き付くように若い冒険者の背中から右腕を首に巻き付け、左腕でガッチリとホールドする。


「動くな。

首をねじ切られてぇか?」


明確な殺意と首の圧迫感。

経験が無いのだろう。

すぐに動きを止めてしまう。

首の両脇には、脳へと向かう太い血管が流れている。

そこを一気に圧迫すると、常人であれば10秒もかからずに意識を失う。


つまりその動きを止める時間だけで意識を飛ばすには十分なのだ。


「汚ねぇな、漏らしやがって。」


どうやら鍛え方が足りなかったらしい。

ものの数秒で失禁しながら意識を失ってくれる。

まぁ、首が締まると全身の筋肉が弛緩するというから、漏らすなというのも酷な話か。


「や、野郎!やりやがったな!!」


若い仲間がやられた事で、残りの冒険者が一気に殺気づく。

やれやれ、やはり腐っても冒険者。

普通なら我先にと逃げ出すのに、こういう所は好戦的だ。


「どしたい?グルヒルさんに助けを求めなくて良いのかよ?

“助けてぇ〜、コイツ僕等じゃ倒せないのぉ〜”ってな。」


俺の挑発に乗ってくれたようで、額に血管を浮き上がらせながらますます殺意が濃くなる。

やれやれ、これであのボスが出てくる前に仕留められそうだな。


今、一番面倒な事はすぐにグルヒルに助けを求めに走られる事だった。

見た所、アレはそれなりに強い。

多分戦えば、こういう中途半端な事は出来ない。

マジで殺りにいかないとどうしょうもない相手だろうし、アレだけの権力を見せられると、仮にやったとしても後々も面倒な事になるのは間違いない。


「俺はその、マツって奴の事は何も知らねぇけどよ?

こんだけ面倒な事になってるなら、相当な事をやらかしたんだろうなぁ?」


「何言ってやがる!テメェみたいに調子の良い事を言いながらグルヒルさんに取り入った癖して、最後は色々かっぱらって隣街に逃げたくせによ!!」


事情を知っているらしい下っ端、それも口が軽い奴がいて、本当に助かった。

そのまま話の流れを向けたら、予想よりもペラペラ喋ってくれた。


要点を纏めると、どうやらマツと名乗るそいつは、俺と同じようにある時フラッとこの街に現れて、同じ様に冒険者登録をしに来たそうだ。

その時にさっき俺が絞め落とした若い冒険者と喧嘩になり、実力を見せつけるようにボコボコにしたらしい。

それを集団でリンチにかけようとした所、よく頭が回る奴だったようでグルヒルに取り入って九死に一生を得たらしい。

そこからはグルヒルの後ろ盾がある事を利用し、冒険で乱獲したり娼館の女に手を出したりと、割とヤンチャをしていたようだ。

そのうち仲間内からも不満が噴き出し始め、グルヒルが見せしめの為にリンチにかけた所、その最中に上手い事逃げ出したらしい。

オマケに、グルヒルの拠点近くのエリアに火をかけながら。


……いやそれはアカンわ、あきまへんわ。

流石にそこまで行くと擁護不可能やわ。


思わずエセ関西弁が出てしまったが、聞いていて唖然としてしまった。

この手の文明度が高くない世界だと、火をつけるのは割と重罪やで?

そう言った知識がないからか、それとも解っていて相手が一番嫌がる事をやったか。


何にせよ、そのマツとやらがこの街には居ないのは知っていたが、次に向かった場所がやっと聞き出せた。

それならもうここには用はない。

俺は音も立てずに踏み込むと、散々喋って注意が疎かになっていたお喋り冒険者に踏み込むと、脳が大きく揺れるように顎を打ち抜く。

いやいやをする様に首をプルプルと振ると、お喋り冒険者は膝から地面に崩れ落ちる。


「なっ!?あっ!?」


その隣で今か今かと動き出すのを躊躇っていた残りの冒険者も、お喋りが終わった途端に倒れた冒険者に気を取られた隙に、後ろに回り込んだ俺に絞め落とされる。


「ひ、ヒィィィ!!」


「悪いな、格好良く後ろから首をトンッてやって落としてやれたら良いんだけどさ、アレ結構危なくてな?

安全に絞め落とされてくれや。」


近付こうとした瞬間、最後の一人は冒険者ギルド駆け込もうと逃げ出す。


まぁ、もう少ししたら痺れを切らしたグルヒルが現れていただろうし、頃合いだろう。

とりあえず今倒した冒険者達の懐を弄り、財布っぽい革袋を次々と抜き取り、壁の上へと駆け上がる。


<勢大、それは強盗では?>


「まぁアレだ、クエストの報酬?もしくはモンスターのドロップアイテムって奴だ。

それも違うなら、授業料って奴だな。」


適当に返事を返しながら、俺は壁の反対側へと飛び降りる。


もうこうなってはこの街にはいられない。

急いで街から抜けるとしよう。

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