741:正攻法?
「……しっかし、どうやって侵入したもんかねぇ。」
<やはり、これまでの異世界とは相違が多く存在する世界ですね。
周辺をスキャンしましたが、これまでの街よりかは遥かに規模が小さいです。
ここが王都では無いと思われます。>
マキーナの言葉に、手をかざしながら“確かになぁ”と俺も同意する。
これまで渡り歩いてきた異世界だと、大雑把に言ってしまえば地図の中心に巨大な王都があり、東に1の街、北に2の街、西に3の街、南に4の街、そして隠されるような形で、東と北の間に5、西と南の間に6の街がある様なイメージだ。
更に広大な世界だと、地図の四隅に別大陸があり、それぞれ人型の異種族がいる事が多い。
大体地図の左上は魔族だったが、それ以外はマチマチだ、というのは余談か。
ともあれ、中央に陣取るのはかなり広大な城壁に囲まれ、中心にネズミーのお城みたいな形の馬鹿でかい城があり、そこが王城であることが多い。
目の前に見える城壁も、かなり広大である事は間違いない。
ただ、俺達がそれまで見たモノから比べると、かなりのスケールダウンに感じられていた。
何と言うか、東京の都心をイメージして来てみたら、地方都市だった、というような感じだろうか?
いや伝わらんなこれ。
<そんな馬鹿な事を考えていないで、侵入方法をどうするか、ですよ勢大。>
おっとそうだった。
先の村で縛り上げた村長から聞くには、こういった都市部にやってくる者は、大半が脱走した農奴なのだそうだ。
当然、門番も足元を見る。
商人としての身分証を持っていない者や軽装で小汚い格好の者は、法外なチップを要求されるらしい。
まぁ、大商会でもない弱小商人も、それなりにチップを要求されるそうだが。
ともかく、あのスコットとかいう奴の家で衣類や多少の旅道具に金銭を失敬してきたが、正攻法で行けばそれらも巻き上げられると言うことだ。
「ただなぁ、城壁から侵入したとして、黒髪は珍しいらしいんだよなぁ……。」
ブロンドや栗毛系の髪が殆どの中で、真っ黒な髪は流石に目立つ。
この世界、どうやら知性のある亜人は居ないらしい。
そうなると黒髪も亜人の一種、みたいなゴリ押しの言い訳も効かない。
警戒が薄そうなどこかの城壁からよじ登って侵入したとして、今度は中から外に出る時に不審がられるだろう。
仮に“別の城門から入った”と言って通用したとしても、いつまでもその言い訳が通用するかが解らない。
「……ここは大人しく、正攻法の正面から入る、しかないかなぁ?
1回ダメ元でアタックしてみるか?」
<あまり良い考えではないかと。
もし問題を起こした場合、時間が経過してその情報が共有されれば面倒ですし、問題を起こさずとも門前払いを受けた場合、後で侵入した際にその門番の影に怯える事になります。>
確かになぁ、と呟きながら想像する。
Aという城門で喧嘩して追い返されたとして。
その後城壁をよじ登って侵入した後、Bという城門から外に出ようとしたらたまたまAにいた門番がBに来ていたら。
……と考えると、かなり面倒な事になるだろう。
ましてや、城壁の内側で偶然バッタリ出くわすかもしれない。
「……変装、という訳では無いが、少し小細工するか。
マキーナ、ほんのちょっとだけ制限解除するぞ。」
<あまりエネルギーは無駄遣いしないようにお願いしますね。>
とはいえ、マキーナも俺が考えている事に否定は無いようだ。
周辺の木のいくつかを切り倒しつつ、俺は手早く変装用の装備を準備していた。
「次ぃ!通行証か許可証があるなら見せ……ん?」
木を削り出して作った重量のある杖を地面に突き立て、俺は神に祈るジェスチャーをする。
「汝に祝福があらんことを。」
この世界、いや、この周辺の国ではクライシス教という宗教が盛んであり、国教にも制定されているそうだ。
内容はあまり把握していないが、「神の尖兵による救済」が教義には含まれているようで、鍛え上げている者が多いらしい。
俺も、普段は制限している力を一部解放して、マキーナのアンダーウェアモードで調整しつつ、筋骨隆々筋肉ムキムキのマッチョマンに見えるように
している。
髪は布を巻いてきっちり隠しているが、服はわざとボロ布を巻きつけて袈裟の様にして着て、肩の筋肉が見えるように強調している。
わかりやすく一目見て、屈強な門番の兵士と言えども勝てないと思わせるような外見だ。
「私は地元の村から、より教えを学びたいとこちらに来ましたので、特に許可証のようなものを持っていないのですが、何か証明しなければいけませんか?」
そう言うと、両腕に力を込める。
膨れ上がった筋肉を見て、門番が呆気にとられているのがわかる。
「い、いや、良い心がけだな。
ここで学ぶことも多いだろう。
と、通れ!」
予想よりうまく行った。
もう少し不審者扱いされて複数の門番でも呼ばれて監禁されるかと思ったが、そこまででは無かったようだ。
結局の所、解りやすく強さだったり恐怖だったりをイメージさせてしまうと、人間の反応とはこういうモノなのだろう。
「まぁそれに、宗教に喧嘩売ると後が面倒だろうしな。」
<何か言いましたか?>
“別に”と言いながら、俺は街を散策する。
やはり、想像通り街の規模は小さい。
それでも、半日近くかけて大雑把に街の全体を歩き見る。
「何となく、城壁の内側で商業区、住宅区、農耕区、上流階級エリア、って感じか。」
<商業区には冒険者ギルドがありましたね。
それと、上流階級エリアには神殿も。
どうされますか?本当に神殿の門を叩きますか?>
マキーナの言葉に“バカ言え”と笑う。
俺の中にいる神様は、こんな所で偶像が立ってる神様なんかじゃねぇ。
そしてもちろん、あの神を自称する少年でもない。
「何にせよまずは身分証だ。
こういう時の手っ取り早い身分と言えば、冒険者だろう。」
全く、異世界様々だ。
こういう時、何のスキルも身分証も無くても受け入れてくれる場所があるのは助かる。
元の世界では、職業安定所に行っても身分を証明するものがなければ門前払いだろうからな。
そう考えると、俺は冒険者ギルドに向かう。
……ただ、残念な事に街を把握するのに時間を使いすぎてしまい、ギルドが閉まった後だという事は、現場に到着してから気付く事になるのだが。
まさかの「え?ピンチ終わってねぇじゃん!?これなら“土曜からにします”とかにすれば良かった!アタシって、ホント馬鹿……」という状態ですが、とりあえず再開します。




