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異世界殺し  作者: Tetsuさん
偶像の光
733/832

732:オンリ・ハジメの華麗なる冒険譚⑤(2/2)

「……はぁ?またぁ!?」


思わず声が大きくなる。

俺の声に萎縮したのか、秘書君はビクリと身を震わせる。


「あぁ、いや、君に怒っても仕方がなかったよねぇ。

それで?今度はどんな事になっているんだね?」


極力怒りを抑えつつ、秘書からの報告を聞く。


先日、金を使って不祥事をもみ消したアイドルグループの男の子が、またもや事件を起こしたというのだ。

しかも今度は集約機構の社員と一緒に、これから売り出そうとしている女性アイドルグループを呼んで、“ゆうべはおたのしみでしたね”ごっこをしてしまったらしい。

しかも最悪なのが、そこで呼ばれていた女性グループの何人かが抵抗して、今後の活動に支障が出る程の暴行を加えてしまったというのだ。


報告を聞き終わると俺は立ち上がり、窓の外の風景を見る。

窓の外には、転生する前に生きていた世界のように高層ビルが建ち並び、人々が雑踏を行き交っている。


……何か、この世界もロクでもねぇな。


いつしか感じるようになっていた、倦怠感にも似た不満。

どの世界でも、不正能力(チート)を使わないと人は思い通りに動かない。

かと言って不正能力(チート)を使って思い通りに動かしても、それはただの人形遊びでしかない。

いつまで経っても理想的な俺に優しい世界には辿り着けない。

どうすれば理想の世界にたどり着けるのか。

そんな不満を持つという事は、まぁ少なくともこの世界は理想の世界ではないと言うことだ。


そう心に思ってしまったら、後はもう、逃げ出す前のぶっ壊しだ。

それくらいしか、もう楽しくないからな。


この世界に転生者はいるのかもしれないが、会ってもいなければ探した事も無い。

まぁ、たまにはこうして転生者が埋もれている世界もあるしな。


「……では秘書君。

今回の関係者を集め給え。

被害に遭った奴にはアレだ、授業料として適当に金を握らせておきなさい。」


「は?……はい!直ちに!!」


一瞬、何を言われたか理解できていなかったようだが、俺の表情を見てすぐに理解し、青い顔で出て行く。

俺はため息をつくと椅子に座り直し、残りの書類を適当に決裁しておく。

“今晩は久々にパーティだなぁ”

そんな事を思いながら。




「だ、代表〜!助けてくださいよぉ〜!!」


俺が経営しているホテルの地下、そこは俺用に改装した特設ルームになっている。

柱を除いて1フロア丸々ぶち抜き、そこに強化ガラスで出来た壁で仕切られた部屋を用意してある。

その部屋の中には、今回問題を起こした男性アイドルグループと、集約機構の社員数名が押し込められていた。


「……アレ?グループの子、一人足りないようだが?」


「あぁ、彼は事前に察していたようで、この手の集まりには毎回参加していなかったようです。

……どうされますか?今から呼び出しますか?」


俺は首を振る。

せっかく真面目にアイドルやろうと、身持ちを固くしているのだ。

そういう子はこちらも応援したくなるというものだ。

それに比べて……と、俺は冷たい目をガラスの向こうに向ける。


俺の視線を感じ、先ほどまで舐めた口調で助けを求めていたアイドルの子は、今更事態の深刻さに気付いてオロオロし始める。


「だ、代表!違うんです!!

あれはその、そう!女達が俺達を誘ってきたのに、突然“ゴシップ誌に売りつけてやる”とか言い出したんで、その、制裁をしただけなんです!!

ぼ、僕はその、代表や事務所を守りたいと……!!」


「黙りなさい。」


俺の一言で、同調し騒ぎかけていたガラスの中が大人しくなる。


「とりあえず、全員脱ぎなさい。」


怯え、悪あがきをしようとしていた者も、無言の圧に負けて服を脱ぎ始める。


「そうだな、まずはそこにいる全員で、あの日何があったのか再現してください。

完全に、全く同じように。」


全員が裸のまま、青ざめる。

怯え、許しを請うてくるが、一切反応しない。

ガラスの部屋を見るために置かれている椅子に、深く座る。


そのうち、誰が誰の役をやるかで争い始める。

女の子役をやるという事は、つまりはそう言う事になる。

当然皆嫌がり、こちらに文句を言い始める。


「ふざけるな!いくら大事務所になったからと言って、こんな横暴が許されるわけないだろう!!

ウチがおたくの事務所のアイドルを使わないと言えば、おたく等は業界から干されるんだぞ!!」


その内、集約機構の社員も騒ぎ始める。

ガラスを叩き、ここから出せと暴れ始める。


「秘書君、やり給え。」


秘書が魔力を注ぐと、ガラスの壁から電撃が流れる。

ただの強化ガラスじゃない。

内側へ攻撃魔法を増幅して通す、特別製だ。

電撃でのたうち回り、全員が悶え苦しむ。


「解っていないなぁ。

君達がここに呼び出されている、と言う事は、君達の上司が俺に君達を差し出した、と言う事なんだよ。」


何度も抵抗し、その度に電撃を加え、そしてトドメに真実を伝える。

中にいる奴等の感情はもうグチャグチャだろう。

そうして諦めて、当日の様子を再現する汚いショーが始まる。


大体の流れが終わる頃、俺は秘書に視線を移す。

秘書は吐きそうになるのを必死に堪えているようだった。


「秘書君、俺はこの退屈なショーに飽きてしまってね。

後は君に任せるよ。

とりあえず、あそこにいる全員の尻に、君の気合を叩き込んでおやりなさい。

もちろん、真似事なんてつまらない真似をしてはいけないよ?

そうしたら君も……わかるね?」


秘書は青ざめながらも、観念したようにガラスの部屋に入っていく。


俺はそれを見届けると、その特設会場を後にする。

ガラスの部屋の中の事は、行為に関してだけを動画で撮影してある。

その撮影データを複製し、複数のゴシップ誌に匿名で送っていく。

ついでに、動画投稿サイトにも時限式で投稿しておくか。


やりたい放題やった結果に満足し、別世界へ転送するためのペンダントを取り出す。


「あぁ、やっぱりこの世界も俺には合わなかったなぁ。

美男美女に囲まれる世界が出来ると思ったのに……。

もっと俺にふさわしい、優しい世界が無いかなぁ。

……そうだ、次の世界では理不尽や不平等を無くすような慈善団体を作ってみるのも面白いかもな!

もう欲望むき出しのアイドル事務所作るのとか、コリゴリだわぁ。」


転送される前にチラと、俺がいなくなった後のこの世界の事を考える。

きっと世間を揺るがす大事件へと発展するだろう。

ありとあらゆる立場の人間が、何かしらの責任を取らされるだろう。

そうして慌てふためいて騒ぐ民衆を見られない事だけが、毎回不満に思う事だ。


「まぁ、こうして少しは世界を揺らした方が、きっともっと良い世界に変わっていくってもんさ。」


俺は良い事をしたと満足しながら、次の世界へと移る。

まったく、世界に奉仕してばかりなんだから、たまには俺にも奉仕してほしい所だぜ。


そんな事を思いながら。

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