731:オンリ・ハジメの華麗なる冒険譚⑤(1/2)
「ハイ、ワン・ツー!ワン・ツー!良いね良いね!!
皆輝いてるよぉ〜!!」
「あ、オンリ代表、おはようございます!!」
俺は上機嫌に鼻歌を歌いながら、事務所裏の運動場でダンスレッスンをしているアイドル達に激を飛ばす。
良いね良いね、皆一生懸命だ。
光る汗が眩しいって、こう言う事を言うんだろうなぁ。
「オンリ代表、わざわざレッスン場まで御足労いただきまして、ありがとうございます!!」
ダンスレッスンをしていた若い子の一人が俺を見つけると、途端に直立して大きな声をあげる。
そうする事で周囲の子達も、一斉に俺の方を向いてお辞儀する。
うんうん、教育が行き届いているなぁ。
「あ〜、ホラ、構わずレッスンしていいよ。
日頃の成果を僕に見せておくれ。」
「「「ハイッ!!」」」
俺の言葉を聞くと、若い子達は先程よりも良い動きでレッスンを再開する。
ここで俺の目に止まれば躍進出来るチャンスだと思い、必死に踊っている。
いやぁ、何とも愉悦を感じざるを得ない。
おっと、やぁ皆久々だね、そう、あなたのオンリ・ハジメちゃんだよ。
あの、神を自称するクソガキにありとあらゆるチートを貰い、“自分の住みよい世界を探せば”と言われてる俺は、遂に気付いちゃったんだよね。
ん?邪魔者を倒せとも言われてる?
あー、いーいー、そういうのいいから。
どうせアイツと敵対してるんだから、ソイツの方がマトモだろ。
知らんけど。
まぁともかく、異世界を渡り歩いてきたけど、結局ね、住みやすい異世界なんて無いわけ。
“なら、自分で作っちゃえばいいじゃん”
ってね、こんな簡単な事に気付かないなんて、ハジメちゃん痛恨のミスだわ〜、マジあり得ないわ〜。
と言うわけで、やっぱ周囲に侍らせるなら美男美女の方が良くない?しかも、俺より美男美女が俺に媚びへつらうとか、マジで最高じゃない?
そう思って、俺は不正能力の事象改変に錬金術を使って身分と財産を準備しまくって、それなりに長く続いてる割に弱小だったアイドル事務所を買い取ったって訳よ。
え?何でそんな事をするのか解らないって?
いや、一から立ち上げても良かったんだけどね。
ただ、こういう所は古くからやってる分、アチコチにツテを持ってたりするのよ。
そういうコネって、新しく立ち上げた事務所とかには無い、金では買えない貴重な財産だったりするのよね。
そう思って事務所の権利を安く買い叩いた所、案の定通信関係の会社や国家が運営してる魔導通信局とのコネがあるわあるわ。
そこに湯水の如く金を注ぎ込みまくって、一気に事務所を拡大させる。
そうしてあっという間に規模を拡大させると、今度は世間が“奇跡の復活”とか持ち上げてくれる。
そうなると“勢いがあってアイドルが少ないなら、間口が広いかも”と勝手に期待してくれて、続々と美男美女が集まるってもんだ。
この世界、現代文明レベルまで進んでいながら、何気に魔法も使える。
これはかなりデカい。
俺が何か不正能力を使っても、大抵は秘伝の魔法的なことを言えば済まされちゃうからね。
おかげさんで、既に世間では俺の事を“稀代の魔術師”と持ち上げてくれて褒め称えてくれる。
いやぁ、不正能力様々ッスわ。
「……こちらにいましたかオンリ代表。
この後新ユニットグループの選考と、……それといつもの件がございますので、執務室へお願いします。」
俺の側に髪をオールバックにして高級そうなメガネとスーツに身を包んだ秘書がやってくる。
う〜ん、良いねぇ。
いかにも有能かつイケメンの秘書が俺様に傅いている。
もうこれだけでも、俺の自尊心が満たされるってモンよ。
「おぉ、そうだったね。
それじゃあ君達、引き続き頑張りなさいね。
実に良い線行ってるからねぇ。」
俺の笑顔に、頬を紅潮させて熱い眼差しを向ける子達。
うんうん、実に良いねぇ。
別段何にもならないというのに、あそこまで必死で頑張っている姿を見ると心が満たされていく。
「……誰か、お気に入りの子でもいましたか?」
「いや全然。
それよりまた何か言ってきたのか?魔導映像局の奴等が。」
歩いて執務室に向かう途中、それとなく聞いてみる。
急成長の代償とでも言うべきだろうか。
金をばらまいていても“それだけでは足りない”と言ってくる輩も多い。
「いえ、今回は間にいる集約機構もですね。」
この異世界、というか俺がいるこの国では、国民に安価な動画を配信している魔導通信局という、国家主導の組織があるのよ。
そこの通信局とのパイプと言うか、通信局で番組を作る場合にアイドルを設定する必要があって、そこを一手に引き受けてる“集約機構”って会社があるのよね。
まぁ、元の世界で言うなら広告の代理店みたいなところかしら?
そう言う、いくつものトンネル潜らないと表舞台に立てないのは、どの世界も変わらない世知辛さなのかもねぇ。
世知辛いのじゃー。
「……代表?」
おっと、現実逃避しすぎたか。
俺は咳払いをすると、到着した執務室の椅子に座り、何でもないかのように秘書に向き直る。
「結局の所はまたスポンサーになれって話だろう?
いくらなんだ?
500ラレか?1,000ラレか?
それくらいなら払っておやりなさい。」
500ラレ金貨で、確か相場的には元の世界で言う所の1,000万円〜1,500万円くらいだったか。
元の世界なら1,000円ですら人に払うのは嫌だったが、流石異世界、そして不正能力様々だぜ。
実際、どんな不正能力も、金を無限増殖させる事の前では軽く霞むよね。
「あの、実はそれだけではなく、弊社所属のアイドルが先方で迷惑をかけたという事で、その慰謝料も要求されております。
渋ればこれを世間に公表する、と。」
俺は内容が気になり、秘書から渡された資料を見る。
あ〜あ〜、ちょっとハメ外して大事になってるなぁ、と、遠い目をしてしまう。
俺みたいに節度を持った紳士でないと、少し金と権力を持てばこんなもんだよなぁ、と呆れてしまう。
「……なるほど、これは酷いな。
よし、先方の言い値の半分を支払ってやりなさい。
ただし、それ以上を求めるようであれば、その場で“身の破滅だぞ”と、優しく忠告してやりなさい。」
「……しかし、良いのですか?
これが公表されてしまうと……。」
次の書類に目を通そうとした俺は、何も言わず立ち上がる。
そうしてゆっくり歩くと、秘書の隣に行って肩を組む。
「良いかい?この世界で、情報を伝達する手段を押さえているのは誰か解るかな?
そこに多額の献金をしている者は?
幸いな事に、僕を助けてくれる人は大勢いるんだ。
小さな葉っぱが1枚騒ぎ立てた所で、濁流の前にはあえなく沈んでいくものだよ、キミィ?」
「は、はいぃ……。
お、仰せのままに。」
青い顔をした秘書は、バタバタと慌てて出ていく。
その端正な表情が恐怖で歪むのを見て、俺は満足感と共に次の書類に取り掛かるのだった。




