表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界殺し  作者: Tetsuさん
偶像の光
729/831

728:ゲリラライブ

「総員作戦通りに!!」


最初に姿を現したパンツ一丁にネクタイの、ちょっと小太りの男が手を上げると、半裸の集団は二手に別れる。

1つの集団はシャドウを取り囲むように、そしてもう一つの集団は俺とユイに背を向けるようにして囲む。


『な、なぁ。

コイツ等、お前のファンなのか?』


「……うん。

いつもイベントに来てるラゾークさんとか、キッコーさんとか知ってる人ばかりだし……。」


ユイも本名は知らないらしいが、ユイの公式サイト的なモノがあるらしく、そこの掲示板でよく話している連中が来ているらしい。

ラゾークという奴はファンクラブ会員ナンバー1番の、ユイにゃんず親衛隊長を自称している熱狂的なファンらしい。


『……マキーナ、気のせいじゃなければなんだけどさ。』


<実家で裸になっていた彼……ですね。>


やっぱり。

あんまり知りたくなかったが、あの正しく狂っている彼が1番のファンだったとは……。


『というか、何でコイツ等揃いも揃ってパンツにネクタイ姿なんだ……?』


一応、中には恥ずかしいのかマントをつけている者もいるが、剣や盾等の武具以外は全員同じ姿をしている。


「ちゃ、違うの!アタシの趣味とかじゃないからね!!

掲示板で“ユイにゃんずの正装はこれだ!”とか皆ワルノリしててさ。

流石にイベントでは出禁食らっちゃうからNGにしてるんだけど、オフ会とかやる時はあの姿……らしいんだよねぇ。」


それで女の子のファンが怖がって寄り付かなくなるから、ちょっと困ってるんだよねぇ、と呑気な事をユイは言っているが、そんな酔狂な装備でシャドウの相手をさせるわけにはいかない。

急いで立ち上がろうとするも、受けたダメージが思ったよりもキツい。


「お顔は見えませんが、新しいプロデューサー殿ですね?

お会いできて光栄です!!

すこしお待ちを、今、回復魔法をかけますから。」


半裸の男が駆け寄ってくると、俺に回復魔法をかけ始める。

俺自身には回復魔法の効きは悪いが、マキーナが通常モードになっているならば話は別だ。

回復魔法がエネルギーに変換され、そのマキーナの力で急速に回復し始める。


「第一分隊!プロデューサー殿とユイにゃんを守るですぞぉ!!

第二分隊!ソイツを逃がすなぁ!!」


シャドウを囲んでいる集団の内の数人が、両手を前に突き出す。


「「「複合魔法!聖なる防御壁(ホーリー・ウォール)」」」


淡く輝く光の壁がシャドウの周囲に展開され、その動きを封じる。


<この回復魔法と言い、あの防御魔法と言い、並大抵の僧侶では発動できない魔法なのですが……。>


「あ、そうなの、あのさ、ホラ、あの真ん中で一際強い光を放ってる人、あの人シリスキーさんっていうんだけどさ、確かあの人、前に掲示板で上位神官(ハイ・プリースト)やってるって言ってた。」


マキーナの言葉が尻すぼみになり、そして言葉を失う。

いや、解るよマキーナ。

こんなアホみたいな格好をした奴がそんな高位の職業に就いてるとか、普通思わんやん。

ってか神に仕える者が偶像(アイドル)の追っかけとかしてるなよ。


後ついでに名前怖いな。


「クソがぁぁ!!

邪魔だ!どけぇぇぇ!!」


シャドウが暴れ狂い、俺だった外見も崩れていき、いくつかの人間が混ざったような真っ黒な何かへと変貌していく。


「クッ!これ以上は保たない!!

ラゾーク氏!やるなら今でござる!!」


「総員!突撃ぃ!!

今こそ我等ユイにゃんずの力を見せるのですぞぉぉ!!」


防御魔法が割られた瞬間、俺が制止するよりも早く、半裸の男達が次々とシャドウに飛びかかる。


無鉄砲な突撃だ。

案の定、次々にシャドウに返り討ちにあい、吹き飛ばされていく。


『ばっ、馬っ鹿野郎!!

命を捨てるような真似はするんじゃねぇ!!』


急いで前に進み、シャドウの振り下ろす剣を手甲で受け止める。

飛びかかった殆どの奴等は全員虫の息だ。

残っていた僧侶系クラスの奴等が、急いで回復させている。


「ふ、フフ、プロデューサー殿。

我等は無策で飛び込んだにあらずですぞ。」


うつ伏せに倒れながらも、執念で上体を起こしたラゾーク君が血塗れの顔で不敵に笑う。


“何だ?何をしたんだ?”と不審に思いながらシャドウを見てみれば、どうにも様子がおかしい。


「あ……、うぅ……、グッ、や、止めロ……。」


剣を落とし、両手で頭を抱えながら悶え苦しみだす。

その姿も1人の人間の姿を保っていられないらしく、次々に顔の表情は変わっていき、体中のアチコチから頭が生えては萎んでいく。


「あぁあぁぁーー!!

ヤメロ、止メ……ユイにゃん万歳ー!!

ち、ちが、ユイにゃん最高ー!!

応援してるよー!愛してるー!!

や、止メ……!!」


思わず呆気に取られ、ユイと目が合う。

シャドウは悶え苦しみながら、何故かユイへの応援の言葉を繰り返し、そして応援の言葉を吐く頭を必死に潰している。


「ククク、(シャドウ)とは人の人生を映し取る魔物。

ここにいる我等全てのユイにゃんずの“想い”を写し取ったとしたら、果たしてどうなるですかなぁ?」


いや、ゴメン。

目の前のシャドウより君の方がずっと危険でヤバい気がしてきた。


「ククク、それでは是非ユイにゃんに、この場の締めをお願いしたく存じ上げるでござる。」


『え?……ゆ、ユイは何したらいいんだ?』


思わず聞き返してしまう。

ユイも何をしていいか解らないようで、困惑した表情のままだ。


「ここに歌姫(ディーヴァ)とそのファンがいて、更に目の前には我等全ての愛を受け取って苦しむ魔物がいるのですぞ?

ならば幕の終わりは、やはり歌で締めてもらいたいものですぞ。」


親指を立てながらウインクするこの男に、俺とユイは笑ってしまう。

それはそうだ。

目の前のシャドウも苦しんでるんだ、歌で浄化してやらないとな。


「解った!じゃあユイにゃんずの皆!!

復帰第一弾の特別イベント、久々のアタシの歌!!

ちゃんと聴いててね!!」


そうしてユイは歌い出す。

これまでのどんな時よりも生き生きと、そして力強く。

時に可愛らしく、時に妖しく魅せるその歌声に、その場にいた者達は皆熱狂し、惹き込まれていった。


いくつかの歌を歌い終わる頃には、シャドウの体が崩れていき、そして黒い液体の中からスタンド公爵やミリー、そしてお付の撮影班らしき人々が転がり落ちてきていた。


「皆ー!!

突発ライブだったけど、来てくれて本当にありがとー!!」


「ユイにゃん最高ー!!」

「ユイにゃん可愛いー!!」

「ユイにゃんゲットだぜー!!」


“ゲットはさせません!”とユイが怒った顔をすると、大きな笑い声が聞こえる。

俺はそんな彼等を尻目に、スタンド公爵達の容態を確認する。


<全員若干の衰弱は見受けられますが、特に大きなダメージは無さそうです。>


その言葉を聞いて、ホッと安心する。

やれやれ、とりあえず大問題にはならなさそうだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ