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異世界殺し  作者: Tetsuさん
偶像の光
728/831

727:苦戦

『……それで?

俺の力を奪ったし、スタンド公爵の力も重なってるから俺より強くなった、とか言いたいのか?』


「クククヒヒヒ……、強がりはよせよ。

お前、中々凄い体験してるじゃないか。

なるほど、これは勝てない訳だ。

一人の人間が経験していい量じゃない。

お前、もしかしたら既にこっち側(・・・・)なんじゃないのか?」


そう言うと、シャドウは俺そっくりの外見に変わり、俺と同じ左拳を前にした中段の構えを取る。

試しに一歩踏み込み、右拳の突きを放つも、簡単に左腕で受けながら反らし、かわされる。


『なるほど、俺と同じくらいには使える(・・・)って訳だ。

でもな、こっちにはまだ切り札があるんだよ。

……ユイ!頼む!!』


森の中に隠れていたユイが姿を現すと、大きく息を吸おうとして、そして“あれぇ?”と場違いな声を上げたが、すぐに気を取り直し、声を張り上げる。


「それじゃ、行くよセーダイさん!歌よ!届け!!」


ユイが歌い出す。

曲は俺が苦境の時に最初に聴いた、あの“さくらさくら”だ。

能力が同じでも、こちらはユイの歌によるバフがかかる。

しかもユイの歌はミリーのそれとは比べ物にならない程の強力な支援。

俺は勝ちを確信した。




『……いや、支援遅くないか?』


シャドウの攻撃は鋭さを増す。

先程までは五分だったが、ジワジワと追い詰められている。

まさか、俺とユイの歌のバフを使っても、このシャドウの強さまで届かないのか。


そう焦りだした俺に、ユイからの応援が入る。


「頑張れセーダイさん!!

そんな、髑髏の魔物(・・・・・)なんかやっつけちゃえ!!」




あっ、と、思った瞬間には、シャドウの抜き手が俺の腹に突き刺さる。


「クヒヒ、“炎よ、我が手に集いて敵を貫け”!」


俺の腹に突き刺さった抜き手から、炎が膨れ上がり破裂する。

そして爆発の勢いで俺は吹き飛ばされ、地面を転げ回る。


『ま、マジかよ……。

コイツはと、とんだ、大誤算だな……。』


そうだ、コイツの外見は今俺の姿をしている。

そして、俺はマキーナの通常モードを解放しているから、見た目は髑髏の仮面をつけた怪しい怪人だ。

その二人が戦っていたら、ユイでなくても敵側の方に支援を送ってしまうのは道理だろう。


<ユイ!支援を止めてください!!

髑髏のこちらが勢大で、勢大の姿をしている方がシャドウです!!>


「えぇえ〜!?

そ、え?そ、……まさかそんな……。」


マキーナの言葉を聞き、ユイがショックで呆然とする。

俺が言っても混乱するだけだろうが、俺とユイにしか声が聞こえないマキーナが言うなら間違いはない。

ただ、これはユイにとってあまりにもよろしくない。

マキーナが全力で俺を回復してくれている最中だが、それを待ってはいられない。

塞がりかけた腹からおびただしい血が流れているが、強引に俺は立ち上がる。


『……は、……グッ、は、ハハハ、安心しろよユイ!!

この程度ならまだ余裕だ!

それよりも、まだ終わってねぇ!!

……こ、今度は支援をかける相手を間違えるなよ!!』


「う、……うん!!」


泣きそうな顔を無理やり引き締め、ユイはまた歌う。

早速支援の効果が出始めたのか、少しだけ痛みが消え、体も軽くなる。


<勢大、当初の想定だった、私がスタンド公爵の力を無効化し、あなた自身の能力との戦いにおいてユイの支援を受けて圧倒する、という方法はもう取れません。

私は勢大の回復に回っており、最悪な事にシャドウは“ユイの支援”までコピーしました。

あなた自身に身体強化の支援、更にスタンド公爵の魔法技術が相手となると、現状での勝ち目は見えません。

ここは撤退を選ぶべきです。

あなた一人なら逃げ切れる。>


『それで?

この状況だけじゃなく、ユイまでほっぽって逃げろってか?

悪いがそれは、俺の趣味じゃねぇな。』


マキーナが反論を口にする前に、シャドウが鋭く踏み込んでくる。

あの動きなら、左の突き……からの回し蹴り、そして三段目に繋い……。


一瞬、意識が飛ぶ。


宙を舞いながら、何が起きたかとシャドウを見る。

回し蹴りの着地の体勢と、その胸から伸びるスタンド公爵の上半身。

広げた左手が淡く光っているところを見ると、どうやら魔法を撃たれたらしい。


『がぁ!!』


地面に転がるように着地し、激痛が全身を駆け巡りぼんやりとしていた意識が戻る。


(こ、これは、流石にやべえな。)


想像以上に面倒な事になった。

一対一ではあるが、あちらは取り込んだ手駒を自由に使えるので実質多体一の状態だ。

一人でどうこう出来る様な状態じゃない。

やるとしたら最後の手段、ここでのエネルギー回収を諦め、しかもこれまで蓄えたエネルギーをかなり消費して一点突破を図るか。


世界の異物、異邦人としてここにいる俺には、この世界の常識を無視した超常的な力を使う事が確かに出来る。

ただそれも、この世界に入る時に割り振られたエネルギーを大量に消費する事になるし、それを消費しきってしまうと次は溜め込んだエネルギーが消費されていく。

その、溜め込んだエネルギーの消費が割合消費のため、溜め込むエネルギーが少ない時はある程度気軽に使ってしまっていたが、もうじき予定していた所までたまりかけているとなると使用をためらってしまう。


(……またしばらく貯め直す事に……いや、もうそんな事は言っていられないか。)


この世界で、結構な時間滞在している。

そうなると、確実に支給されたエネルギーだけでは足りないだろう。

ただ、死んでしまえばそんな事は言っていられない。


覚悟を決めて、腰を落とし構える。


『……マキーナ、ブーストモー……。』


言いかけた俺の視界、シャドウの後方の森から、一人の男がゆっくりと現れる。


「我は問う!汝らは何ぞや!!」


「「「「我等はユイにゃんずなり!!ユイにゃん親衛隊、ユイにゃんずなり!!」」」」


その男が叫ぶと、次々と森から男達が姿を現す。

しかし、どうでもいいことかも知れないが、なぜ皆パンツ一枚でネクタイをしているのだろうか……?


「ならばユイにゃんずよ!汝らに問う!!

手に持つ物はなんだ!!」


「「「「「右手にペンライトを!左手にグッズを握りしめる者達なり!!」」」」」


「ならばユイにゃんずよ!汝ら何ぞや!!」


「「「「「我らはユイにゃんずにして個にあらず!!推しを応援して壁になる者なり!!

我ら推しに声援を送り!ただ壁となりて推しを見守る者なり!!

推しを泣かす者であらば、地獄の鬼であろうとも合戦所望する者なり!!」」」」」


うわぁ、何だかすごい事になっちゃったぞ。


そのよくわからない半裸の男達を見て、俺もユイも、そしてシャドウすらも動きを止めていた。

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