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異世界殺し  作者: Tetsuさん
偶像の光
724/831

723:視野狭窄

失礼しました。

昨日メンテで投稿できなかったので、今アップしました。

「……全く、今からじゃ何の準備も仕込みも出来やしねぇじゃねぇか!!」


俺は文句を言いながらも武器や防具を(あらた)め、収納袋にしまっていく。

衣類は最小限詰め込み、そしてその他道具類も詰め込んでいく。

俺の方はまだ良い。

問題はユイの方だ。

女性はこういう時、色々と持ち歩くものが増える。

こういう時、他の異世界でたまに見かけた収納(ストレージ)系の魔法や袋が無いのが悔やまれる。


<しかし勢大、移動距離や経路を考慮すると、勢大の戦闘移動での速さでなら2日でたどり着けますが、ユイとの移動と考えると1週間近くはかかります。

3日後というのは、どう考えても不可能なのではないかと。>


「そうなんだよなぁ……。

金に糸目をつけず、魔導馬車をフルスロットルでかっ飛ばし続けて壊れたら乗り継ぎ、ってやっていったらどうだ?」


思いついたアイデアをマキーナに伝えるが、マキーナからの反応は良くはない。

ギリギリ移動できるだろうが、不眠不休で3日間移動した直後に戦闘参加、という予測になるからだろう。


荷物を詰める手が止まる。

“行った所で何も起きなかったら”

“少しとは言え、ミリーの能力の底上げがあるのなら、ギリギリスタンド公爵でも勝てるのではないか”

そんな思いが渦巻く。


シャドウがこの世界でそこまで脅威になっていないのは、やはり歌姫(ディーヴァ)の存在が大きい。

他の世界では強化魔法まで完璧に複製されてしまうのだが、この世界での歌姫の歌とやらは複製されないらしい。

だからどんなに目の前の前衛と同じ強さになろうとも、こちらは歌姫の力で底上げされている分、容易く倒せる相手と言う事らしい。


ただ、問題はミリーの歌の力は実際にはそこまで高くないという事だろう。

その事に関しては、ある程度コアなファン層、あのシルク君でさえ気付けるレベルではあったらしい。

実際、あの後シルク君の怪文書をいくつか調べていた時にも、似たような記述は見つけていた。


シルク君は、“僕が君をより良い歌姫にする為のプランを考えてあげる、こうすれば君はもっと良くなる、だから個別にやり取りをしよう”としきりに書いていた。

それというのも、ミリーの歌の力が弱い事を知っていて、そこから……言うなれば“攻略”しようとしていたのだろう。

その時は“この手のアレな奴は、何故かこういう“人の弱み”みたいなのを見つけるのだけは得意なんだよなぁ、そんな事ばかり探してる暇あるなら、現実の女と出会う努力すればいいのに”と違う意味で感心したものだが。


「あ、セーダイしゃ……さん、まだ準備してたのぉ?

アタシ、とりあえず準備終わったよー?」


いかん、ユイの方が先に支度を済ませていたか。

何だかんだ言ってもユイも放浪歌姫の時間が長かったからか、この手の旅支度は手早い方だったか。


「あ、スマン。

移動手段をどうするべきかと悩んじまってな。

3日以内に今回の討伐エリアまで行くにはどうしたらいいか、とな。」


「……え?

セーダイさん、魔導空機で行くんじゃないの?」


ユイの言葉に、今度は俺が頭の上に“?”マークを浮かべる番だった。

まどうくうき?何かの空気なのか?


「ちゃが……違うよ、魔導空機!空飛ぶ馬車だよ。

今回はフォスの街近くの森でしょ?

あそこまでりゃく……陸路で行ったらそれこそ凄い時間かかっちゃうよ?

魔導空機なら、数時間で着くじゃん。」


<……失礼、そういえばそのような移動手段があったのを忘れていました。>


マキーナさん!?

何それそんなのあったの!?


俺の動揺を無視して、マキーナが俺の右目に情報を映す。

なるほど、元の世界の旅客機のような外観で、大型の飛行機という所か。


<勢大の焦りが移ったので失念していましたが、この方法なら余裕を持って移動できます。

早速、2名分の冒険者申請をしておきます。>


その後の登録情報を見ていると、なるほど、冒険者申請をすれば武器の持ち込みは可能になるらしい。

ただ、爆発物や危険物は貨物預かりになるらしいが。


「早く言ってよぉぉ……。

まぁ、それならそこまで慌てる必要もないな。

丁度いい、ユイとも打ち合わせを何処かで出来ればと思っていたんだ。

それによって準備が変わるしな。

なら、今から打ち合わせたいが、今いいか?」


「え?あぁ、良いよー。

ただちょっと待っててね、久々のお仕事だから、ぬこったーで“お仕事復活!”って呟くから。」


それくらいならまぁいいか、と、俺はユイが嬉しそうにソーシャルネットワークに書き込んでいる間にベランダに出て、タバコに火を付ける。

タバコの煙を目で追いながら、これまで戦ってきた経験を元にシャドウとの戦闘を想像する。


(……万が一、俺の能力を丸々コピーされるなら、相当面倒な事になりそうなんだよなぁ。)


<それについては多少の策はあります。

そもそも、勢大の能力を完璧にコピーしようとするなら亜神(デミ・ゴッド)クラスの許容量が必要です。

そうでなければ、普通は体内の魔力が暴走し、周辺数十kmを更地に変えるような爆発を起こして終わりでしょう。>


いやそれ安心出来る材料じゃねぇから!

俺のコピーをしようとした途端、人類史上最悪の爆弾よりも酷い被害になるとか、シャレにならんぞ?

思わずそんな考えが頭をよぎったが、マキーナは“大丈夫だ”の一点張りだった。


まぁ確かに、と俺は考え直す。

俺自身、普段は鍛えた超人的な力は封じているし、この能力を解禁するには“俺の手持ちの異世界ポイント”を消費して、この世界との整合性をとっている。

解除の鍵はマキーナの能力解放、通常モードへの変身になるのだ。

俺とマキーナ、双方の解除があって初めて使えるこの鍛えた力は、つまりは“俺とマキーナの両方をコピーし、同時に能力発動”が出来なければ、完璧には使えない。


<私の通常モードを開放しなくても使えるレベルでも、普通の人間から比べたら驚異的なレベルでしょうがね。>


そりゃ鍛え方が違うからな、と軽口を叩いたところで、ユイが窓ガラスをノックする。

どうやら終わったらしい。


俺はいくつかの作戦をユイと話し、最低限の準備をし直して魔導空機の発着場に向かう。


ほんの少しだけ、心に緩みが出てしまったからか。

ユイが書いた文章をチェックする事を忘れていたのには、気付けなかった。

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