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異世界殺し  作者: Tetsuさん
旅の途中②
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71:ビタースイート

風が吹き抜け、タバコの煙もかき消されたその先に、ちっぽけな王様の姿があった。

怒りの表情を浮かべ、手に持つ剣はピカピカと光っている。


「なん……何なんだよ、キサマは!

俺は神様に認められたんだ!

だから俺が全て正しいんだ!」


なんだよ、正しさの拠り所すら自分の中に無いのか。

よくそれで“銃は屑武器”とか言えたな。


「まぁ、なんだ、俺は言うなれば迷子の異邦人だよ。

俺自身が家に帰るために、君らの世界を荒らして回る存在だ。」


タバコを捨てたその手で、またベルトに挿した銃を抜き取る。

撃鉄を起こせば、王様はビクリと肩を震わせた。

先程の恐怖が、頭をよぎったのだろう。


「そうそう、最初の質問の答えだ。

俺の死んだ親父は猟銃の免許を持っていてね。

今のお前さんぐらいの歳の時は、よく猟の解禁日に連れて行ってもらったものさ。

だから、銃がどんなモノかは、お前さんより知ってるよ。」


モデルガンよりも重くて乾いた火薬の音が鳴り、木霊が空へ掻き消えていく。

空を舞う鳥が、突然ギアが壊れたように羽ばたきを止め墜落する。

急所に入れば一撃で絶命しているが、そうでなければ落下地点で暴れている。

その暴れる鳥は、締めて殺すのだ。

命を奪うこと、その命で自分の胃袋が満たされること。

そう言う意味では、俺はかなり早い年齢から、その事を教わっていた。


「まぁついでに言えば、新婚旅行で行ったハワイで、リボルバーも撃った事はあるからな。

リボルバーがどんなモノかも、お前さんより知ってるよ。」


当時奥さんには“そんな危ない遊びして”と怒られたけどな。

そんな思いがよぎりながら、銃口を王様に向ける。


鈍色に光るピースメーカーと、ピカピカ光るプラスチックの様な剣。

互いの武器を見比べ、そして遂に王様は泣き出した。


「何だよ……皆して俺を馬鹿にして……、ここで幸せになっちゃいけないのかよ……。」


へたり込み、泣きながら剣を地面に叩きつけている。

地面を叩く度にポコポコと鳴るその音が、このシリアスな空気に水を差していて、逆に悲しい気持ちになる。


俺はしゃがみ込み、へたり込んだ王様に目線を合わせる。

少しやり過ぎてはいるか。

このままぶっ殺しても別に構わないが、少しはフォローをしてやるべきか。


「なぁ王サマよう、別に何をするって訳でも無いんだけどな。

何だったら、お前さんの事、俺に話してみないか?」


解決策は見つからなくとも、話すことで楽になることもある。

泣いていた王様は、やがてゆっくりと身の上話を語り出した。



この世界を放浪していた俺からすれば、よく聞いた話だった。

学校が面白くなくなり不登校に、そのまま部屋でネットとゲームの日々。

ある日扉の前の食事が届けられていなかった事に腹を立て、親を怒鳴りに行ったら倒れている母親の姿が目に入ったという。

そのままこの世を悲観して首を吊り、苦しみ藻掻いている所でモニターから女神様が現れ、この世界に転生させて貰ったという。


ウンザリするような話だった。

しかも一番驚いたのが、転生前の彼は俺と同じ年齢だった。

“これが俗に言う子供部屋おじさんか”とあっけにとられたが、それならこの世界にも納得がいく。

狭い部屋から一歩も外に出ることなく成人し、中年を迎えた彼にとっては、世界も想像力も、何もかもが狭く足りないのだ。


「……なぁ、お前さんは……。」


言いかけた俺の顔を、泣き腫らした真っ赤な目で王様が見上げてくる。


話を聞いていて、彼はこの世界に依存していることも解った。

ずっと逃避し続けてきたのだ、今更現実に帰って戦え、というのも酷な気がしてきた。

この甘い地獄で腐り落ちるのも、それはそれで仕方が無いのでは無いだろうか。

言ってみれば、これこそが彼への罰になるのではないか。


そう考えたところで、自分の驕りに気付く。


“よう勢大せいだい、お前、神様にでもなったつもりか?”


心の中で、もう一人の自分が囁く。

そうだ、俺如きが他人を“罰する”など、おこがましいにも程がある。

コイツの道は、コイツが決めることだ。


「お前さんは、どうなりたい?」


俺は自分のことをざっと話した。

その上で、このままここで生き続けるか、元の世界に戻るか、選択肢を渡す。


俺が決めることじゃない。

ここで生きるなら、それもコイツの道だろう。


「俺は……俺だって!元の世界で生きたいよ!

でも、もう手遅れなんだよ!

何もかも無くなって、それで諦めたんだから!」


王様の悲痛な叫びだ。

だが、ならば言わなくちゃならない。


「甘えるなよ王サマ。

そもそも、母親を倒れさせたのはどこのどいつだ?

ついでに言えば死亡は確認したのか?

まだ助かるかも知れなかったのに、勝手に絶望しただけじゃないのか?」


王様が驚いた顔になる。

やれやれ、本当に視野も世界も狭い。


「確かに今までのツケがある分、お前の人生は他の人よりハードモードかも知れん。

でもよう、それは他の人が頑張って人生を戦っているときに、手を抜いた結果じゃねぇか。

戦わずに逃げ出しておいてツケも払わず、異世界転生して前世の知識で大成功!なんて、虫が良すぎるんじゃねぇか?」


王様の表情がコロコロ変わる。

怒り、恐怖、怯え、卑屈。

やれやれ、顔芸すらできんとはね。


「生きることは戦うことだよ、王サマ。

その戦いが物理的なモノなのか、精神的なモノかは置いておくにしても、皆今を生きるために、明日も生きるために、大なり小なり必死で戦ってるんだ。

さて、アンタはどうする?」


「俺だって!俺だってやれば出来るんだ!元の世界に戻せ!証明してやる!」


俺は了承し、権限の委譲を受けて王様を元の世界に帰す。

前途は多難だろう。

それでも、彼の未来に幸あれと祈らずにはいられなかった俺は、少しだけサービスをしておいた。

ちょっと回収出来るエネルギーは減ったが、まぁ、これくらいは必要経費だろう。



転生者が去った後、世界は白一色となった。

控えていた美女達も、残らず石膏の人形になった。

世界のエネルギーを吸収したが、劣化が酷いのか数万ポイント増えただけだった。


(何なんだろうな、これ。いつも思うけど、まるで何処かで原本を無くして、どれが原本か解らずに世界をコピーしているみたいだ。)


何も無くなった空間で、転送が始まる。

あの自称神様、何をしているんだ?




パソコンのモニター前で目を覚ます。

何か嫌な夢だった。

お気に入りの天使フィギュアちゃん達と冒険の旅をして、遂に王にまで上り詰めたら変なオッサンに水を差される、嫌な夢だった。

そこまで思い返して、夢の入り、女神様に呼ばれる前の原因のことを思い出す。


慌てて立ち上がり、ゴミをかき分け部屋を出る。

俺の部屋、こんなに汚かったか。

久々に掃除でもするか。


いや、そんな事じゃない。

2階の階段を降り、狭い家なのに息を切らせて1階の台所に向かう。


「ア、アラ、珍しくお部屋から出てきたのね。」


ババァがオドオドしながら俺を見る。


「……別に。

……ババァ、体の具合は悪くねぇのかよ?」


「え、えぇ、ちょっと最近目眩がするんだけど、それ以外は特に……。なぁに?心配してくれてるの?」


俺は“うるせぇ”と言って部屋に戻る。

パソコンを起動し、ネット通販サイト“ジャングル”を起動する。


“初心者にオススメ在宅ワーク”

“就労支援~ゼロから始めるプログラマへの道~”

“初心者でも大金持ちに!簡単オススメFX講座”


適当な本をポチる。

どれかは当たるだろう。

見てろよ、夢に出てきたクソオッサン。

ここから人生成功して、見返してやる。

俺は龍の力を宿す伝説の勇者だ。

やってやれないことはない!


俺は鼻息荒く、これからの戦いに備えるためにも、情報を求めてネットの海に飛び込んだ。

まずは、“兵站ロジスティクス”から調べるとしよう。

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