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異世界殺し  作者: Tetsuさん
偶像の光
716/832

715:推測

<オフィシャルショップ内に仕掛けて頂いた監視カメラの映像、分割画面にて表示します。

また、色紙の仕込みは全て正常に作動中。

定期的に勢大がショップに寄れば、エネルギーは都度充電しておきます。

……しかし、本当にこのような方法で対応できるとお思いですか?>


マキーナから送られてきた映像が、俺の右目の中で分割画面として展開される。

それ等を1つずつ確認し、ショップ内に死角がない事を歩き回りながら確認する。


「相手はそれなりに熱心なユイのファンだからな。

一応利益は出るがそれなりに手に取りやすい価格帯にはしてある。

あれをやってくる人間だって、手元にユイのグッズの1つくらいは置いておきたいだろうさ。」


<そういうものでしょうか?

金銭的に余裕がなかったり、モノに興味のない人間であれば見向きもしない可能性もあるのでは……?>


マキーナの言葉に、“その時はその時でまた考えようぜ”とため息混じりに呟く。


ユイのオフィシャルショップの開店を明日に控え、いくつかの罠を用意した。

まずは店内に何かを仕込んでくる可能性と、来店した人物を確認するための監視カメラ。

見えるところに設置したものと、隠して設置したもの。

見えるところに設置したものは、注意してみれば死角ができるようにわざと設置してある。

その死角部分には隠しカメラが待ち構えており、もしあの行為を行った存在が店にも悪さをしようものならすぐに取り押さえる予定だ。

ただ、そこまで考えが回っていない、或いはユイ本人には興味があるが店にはどうこうする気がない奴の可能性もある。

そのための策として、マキーナの探査マシン入りの直筆サイン色紙も販売していた。

このマシンは肉眼では確認できないレベルのサイズだし、何より機械だから魔法の探知には引っかからない。

“異邦人”の俺とマキーナにしか出来ない芸当だろう。

とは言えマキーナの言う通り、金がなかったり物に興味のない人間という可能性も確かにあるが、その線はかなり薄いと俺は思っていた。


「あんな小包を用意して送りつけるような奴が金がないとは思えないし、それにヤツは“ユイという存在”に執着しているように感じられるからな。

そういう相手であるなら、“直筆”という言葉は聞くはずだ。」


<そういうものでしょうか?>


マキーナの呆れ声を聞きながら、何となく自信はあった。

何せ俺だって元の世界ではオタクだったのだ。

アニメでもゲームでも、“気に入った存在”を感じられるモノがあるなら、1つくらいは欲しくなるのが人情って奴だろう。


「そうじゃない奴もいるだろうがな、それでも、今は試すより他に手が思いつかねぇよ。」


仕込みを終えた俺は、事務所に戻る。

最近はユイが頼ってくる頻度が多くなっている。

ちょっと外出していただけでも行き先を伝えなければ、しばらくは服の裾を掴まれてつきまとわれる程だ。

原因不明の症状だし、不安な部分は部分は多いのだろう。

まるで子犬の様に後をついて回る姿を思い出し、つい歩く速度が上がってしまっていた。




<勢大、この人物ではないでしょうか?>


翌日、開店と同時に複数のファンと思しき連中が店にやってきた。

その中でも特に異質な外見の男に、マキーナは反応する。

突き出た腹にしばらく切っていないであろうボサボサの髪、よれた長袖シャツにシワと汚れだらけのズボンを履いた青年。

しかもご丁寧に顔をマスクで隠し、血走る目で店内を物色している。


「……音声を常時つけないのは失敗だったな。

何か呟いているようだが音がないから解らん。」


<サイズ的に限界でしたので仕方ありませんが、あらかじめ生体データも取れれば良かったですね。

現状では疑わしい人間がいても確証が得られません。>


今度は入口に防犯ゲートという名目で生体スキャンを仕込むか、そんな事を考えながらマキーナが警戒している男を注視する。


「……何か、違うような気がするんだよなぁ?」


<そうでしょうか?他の客層に比べて彼だけが異質すぎます。

あ、彼も直筆サイン色紙を手に取りましたね。

彼にロックして、仕込みを起動します。>


両手に抱えるくらいのユイのグッズを購入しているその男の表情は恍惚としている。

それを見てマキーナはより疑いを深めていたが、どうにも俺にはピンとこない。

ただ、確かに怪しいのは怪しいため、マキーナの言う通りロックする。

これで他の仕込みと違って、彼の色紙はこちらに定期的に音声情報や視覚情報を送信し続ける。


「……マキーナ、打てるロックは全部で10個までだったよな?」


<そうですが、……あの青年の分もロックするつもりですか?>


店内カメラで俺が見ている青年に、マキーナが疑問の声を上げる。

その青年も太ってはいたが、やや暗い顔をしているだけの、ごく普通そうな青年だった。


「そうだ。

コイツも同じようにロック対象だ。」


何となく、ピンとくるものがある。

その感覚は“自分もオタクだから”だろうか。

同じようでいて、どこか違う。

体格こそふくよかだが、それ以外は普通、よれたシャツに、ずっと履いているようなズボンに、くたびれた革靴。

どこにでもいそうな青年。


「……気になるんだ。

あのシャツとズボンの色味が決定的に合っていない。

ズボンに通しているベルトはいわゆる仕事で使うようなベルトで、革靴もそうだろう。

つまりは“普通の格好をしようとして、公私の服装の差を理解してない、普通の人の格好が解らないオタク”って奴だ。」


<それならこの店に来ている存在は皆似たような格好ではありませんか?

そこまで違いは無いように思えますが?>


そりゃまぁそうだ。

そういう服装の機微が解らないから現実の異性にモテず、こういう“現実ではない”歌姫とかにのめり込むのだろう。

だがそれだけじゃない。


「コイツ、沢山あるグッズの中から、直筆サインの色紙だけ持って会計してるだろ。」


言われても、マキーナはピンと来ていないようだ。


「そして、視線がな、今もサインしか見ていないその視線が気になるんだよ。」


それらがバラバラなら、そこまで気にならなかったかもしれない。

でも、全部が揃ってしまうと無性に気になる。

同じオタクだ。

異質な(・・・)同類(・・)は、どうしたって目立つ。


他にも、何人か気になる存在はいたので、一応残り8つのロックをかけておく。

さて、どんな結果になるか、確認と行こう。

今回が年内最後の更新となります。

次回は少し期間が空きますが、1/14(火)の午前2時〜午前4時の間にアップロードいたします。

また、2025年からなのですが、更新を火・木・土の午前2時から午前4時の間にアップロードの、週3回更新に変更させていただきます。

恐れ入りますが、よろしくお願いします。

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