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異世界殺し  作者: Tetsuさん
偶像の光
705/831

704:作戦会議

-それじゃあ皆様ごきげんようー!またお会いしましょうねー!-


見ていた魔導端末の画面に、この映像は終了しました、という文字が浮かび上がる。

“なるほどなぁ”という感想ともため息ともつかない息を吐きながら、俺は懐へと端末をしまう。


<参考までに、勢大が感じたその“なるほど”の内容をお教えいただいても良いでしょうか。>


「そうだなぁ。

まぁ、この動画にあるコンサートの規模自体、この間のユイがやったそれとは全く違うけどな。

歌声、踊りは安定感が凄い。

そして観客に対してもだが、不自然が無いレベルでありながら観客席で見ていない方向がない。

しっかりと全体に対してファンサービスが出来ている証拠だろうな。

ミリーだったか、まぁ確かに実力派の歌姫(ディーヴァ)って奴なんだろうなぁ。」


敵情視察という訳では無いが、俺は自室に寝転がりながらあのスタンド公爵の歌姫、ミリーのライブアーカイブを見ていた。

この、ナンバー53という事務所に住み込みで活動するようになり、ユイの複合施設屋上でのミニコンサートから、もう1ヶ月近く経っていた。

地道に活動してはいるのだが、いかんせん知名度が上がらない。

ミニコンサート、配信サイトへの動画投稿と基本的な活動をしているが、それだけだ。

俺の中では、早くも若干の行き詰まりを感じていた。


「どうにも、このままだと今までユイがやって来た事と変わらないんだよなぁ。

世間に俺とユイの有用性を認識させる、と言う目的も、このままだと全く達成出来る気がしねぇなぁ。」


<勢大、我々の有用性を示すにはやはり魔物の討伐を動画等で見せるのが一番ではないかと。>


それはそうなんだ。

結局のところ、“戦力として有用である”そして“俺とユイのようなペアを作らなければ”という危機感を煽るのはマキーナの言うように魔物の討伐シーンを世間に見せる必要がある。


ただ、現在魔物の討伐はやはり有名な歌姫に、優先的に依頼が回っている。

そして、有力な歌姫はスタンド公爵の様な有力な貴族が囲っている。

貴族達はその既得権益を守る為、魔物との戦いを殆ど動画投稿はしない。

投稿したとしても、優雅に格好良く倒せた時だけだろう。

魔物退治ですら“優雅さ”や“力の差”を演出するために使われている。

これでは一般人には恐怖は伝わらないだろう。


「……とはいえ、その魔物退治の依頼を受けるには知名度が必要で、知名度を上げるには地道な活動が必要なんだよなぁ……。」


<この世界でもリアルタイム配信のような事が出来れば違うのでしょうが、基本は動画投稿のみですからね。>


マキーナの言葉を聞きながらふと、元の世界で若い頃に色々教わっていた先輩の言葉を思い出す。


“いいか勢大君、この世界で売れないモノはない。”

“どんなにくだらないと思えるモノでも、それを欲しがる奴は必ずいる。”

“それが売れないのはただ単にリーチが足りないからだ。”

“全人類に知れ渡りさえすれば……、そのうちの数%、全人類の数%だけだったとしてもそれは莫大な数になる。”

“だからよ、大手がやるような、マス向けの広告(アド)やられると、俺達は勝てねぇのよ。”


ぼんやり天井を見つめながら、その言葉を思い出していた。


「……広告(アド)か。」


<広告ですか?

それは良い方法かも知れませんが……、しかしどうやって?>


起き上がると、手元に紙とペンを引き寄せてアイデアを書き始める。

こういう時、頭の中だけで考えていても煮詰まるだけだ。

一度アウトプットして、情報を整理しなければ。


「幸いにして、この世界だと歌姫を大々的に売り出すような広告的なものは少ない。

動画投稿も、“実績を誇示する”みたいなモノが多い。

なら、“再起をかけてリデビュー”みたいな演出で告知出来ないだろうか?」


<実力の誇示としての動画投稿サイトを利用するのはいいかも知れませんね。

その場合、ヌコチューブだけでなくヌコッターの方にも告知してみては?>


あぁ、そういう方法もあるなぁ、と気付く。

そういえばユイの奴もヌコッターはアカウント作ってるけど殆ど放置だったはずだ。

改めて今日から書き込ませるのもいいかも知れない。


「そういえば、ユイの奴は今何してる時間だ?」


<そうですね、確か歌のレッスンの時間で、寄り道をしていなければそろそろ帰ってきてもおかしくない時間です。>


俺は書きかけのメモを手に持つと、事務所に向かう。

いつもの行動なら、帰ってきて事務所で少し駄弁り、そして部屋に戻るはずだ。


「……ですから、ユイさんはもっと……、聞いていますか?」


「ウッス、聞いてるッス。

ただ、自分としては……。」


事務所の中から話し声が聞こえる。

最近解ったのだが、ユイは仕事中や知らない人、苦手な人と話す時は三下言葉になるようだ。


「お、ユイ帰ってきたか。」


「あ、セーダイさん、ちょうど良い所に!」


事務所の扉を開けると、すぐにユイの表情が明るくなる。

ただその表情には、“ここから助けて”と書いてあるのもありありと解るが。


「セーダイさん、確かにちょうど良い所にいらっしゃいました。

今、ユイさんと現状の進捗の無さと、今後の活動方針について話をですね……。」


「まぁまぁオルウェンさん、デリックさんは居酒屋の仕込み中です?

それなら、ちょうどユイも帰ってきたし、遅めのお昼食べながら話しません?」


俺の提案に呆れながらも、オルウェン氏も諦めたような表情を見せる。

この事務所、今まで歌姫が殆ど配属された事が無いらしい。

正直所長のデリック氏も、実は一階の居酒屋を経営していて副業や税金対策として二階で歌姫事務所を開いているだけらしい。

何でも大昔には“勇者に連れ従った歌姫を輩出した伝説の事務所”と言う事で、歌姫ギルド側も潰すに潰せず残していたという、どうしようもない事務所だったのだ。

そこに俺達が来たのだから、オルウェン氏の張り切り様は凄かった。

ただ、ちょっと迫力がありすぎるのと古い基本的な手法にこだわるあまり、俺達は辟易していたのも事実ではあるが。


「……広告?ですか?」


「そうです、これから成長していく歌姫をゼロから応援しようっていう内容にして、それを前面に出していくんですよ。」


俺の言葉に、オルウェン氏は不満そうだった。


一階の居酒屋、そのままではあるが“デリック亭”には、歌姫用の個室が設けられている。

一般人の目に晒される事なく安心して食事ができるようにと、当時の配慮がそのまま残っているらしい。

しかも、こちらは割と防音装置がしっかりしていて、事務所以上に機密が守られる。

そこを使わせてもらいつつ、俺達はよく打ち合わせをしているのだ。


この個室で、俺達の今後が決まるような予感がしていた。

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