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異世界殺し  作者: Tetsuさん
偶像の光
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700:最後の試練

その後、いくつかの試練とやらをこなす。


一番最初の橋わたりで、俺は“そんなルールは聞いていない”と異を唱えたが、残念ながらそれは聞き入れられなかった。

何でも“聞かれなかったから”だそうだが、それ以降ちゃんと試練の前には失格条件やペナルティが説明されたところを見ると、多分忘れていただけかとも思う。

もしかしたら突然の状況にする事で、どういう反応を見せるかあえて伏せていた結果、だったのかも知れないが。


ともかく、それ以降も似たような試練だった。

細い橋で、今度は鉄球が振り子のように左右から振り回されているステージだったり、それこそ配管工の髭おじさんが飛び回るような溶岩やらとらっぷやら満載のステージもあった。


ただ、意外な事に途中で脱落するかと思われていたコウ男爵も、ましてやトキワ伯爵もまだ残っていた。

いや、意外というのは失礼か。

危なっかしく、そして歌姫もそれなりに強力だが短時間しか持たない中で手早く試練を切り抜けるコウ男爵に、効果は低めだが持続力が長い歌姫に支えられ、時間をかけて試練を攻略していくトキワ伯爵と、それぞれ頑張っている。


そして最初の試練を一番に攻略したスタンド公爵は、なんというか俺から見ても別格だった。

それは公爵という立場だからだろうか、全ての試練における障害、言ってみればその全てが死の恐怖を揺り起こすものであるのだが、まるで恐怖など知らぬかのように堂々とした佇まいで、それこそ鼻先に斧が通り抜けようと涼しい顔をしてタイミングを読み、通り抜けていた。

また、彼がペアとしてプロデュースしている歌姫、ミリーだったか。

彼女も、ここに残っている歌姫の中では頭一つ飛び抜けた能力を持っている。

その紡がれる歌声から発生する加護は、マキーナが“安定的で漏れがなく完全”という評価を下すくらいには完璧だ。


「……肝心なのは、ウチのユイだが。」


<厳しいですね。

今のところ全て勢大の力技でミッションをこなしていますが、逆に言えば勢大以外の人選であった場合、ここまで残っていなかったと言うべきでしょうか。>


言ってやるなよ、と、思わずこぼす。

ユイの能力は、今残っている歌姫の中ではほぼ最低と言っていいだろう。

今のところトップ3くらいまでには食い込んでいるが、流石にスタンド公爵を超えて1位をとるのは厳しそうだ。


-それでは、最後の試練を始めます。-

-これは、実戦を模した試練となります。-

-達成条件はそれぞれ敵を1体撃破する事、敗北条件は死亡です。-

-撃破判定はこちらで行います。-

-ただ、弱った敵を最後に倒すだけでは意味がありませんので、十分ご注意を。-


なんともまぁ。

最後は直接的なお題になってきやがった。

四方八方の壁に穴が空き、そこから岩巨人(ゴーレム)が次々と現れる。

のっそりとした動きはやりやすいが、それ相応に防御力と攻撃力はあるだろう。


「……しかし、撃破判定がよくわからねぇな。」


<ある種の対策ですね。

その縛りがなければ、皆スタンド公爵の影に隠れるでしょうから。>


なるほどな、と納得する。

スタンド公爵がトップを取る事は、正直誰の目から見ても明らかだ。

そして、その歌姫の強さも群を抜いている。

ならば、スタンド公爵の後ろに隠れて、敵を弱らせた所でラストキルだけを横取りすれば、ある意味少ない労力で安全に残り3枠を狙えるからな。

まぁ、俺もその条件がなければ同じような事は狙っただろうしな。


-また、この戦いにおいてはトップで抜けた者にはこれまでのポイントを倍にします、頑張ってください。-


あ、出たよ、よくクイズ番組とかである“それまでの全てを台無しにする最終問題”的なやつ。

それをやりすぎると空気は冷えるのだが、今回に限っては視聴者はいない。

そして、デビューの支援は1位の1人と、そして4位までの3人だ。


全員途端に目の色が変わる。

10人の内の4人。

それであれば、誰にでもチャンスはある。

極端な事を言えば、流石にトップはもう無理だが、俺ですらその範囲には入れる。


チラとスタンド公爵を見る。

こういう時、一番腹が立つのはスタンド公爵だろう。

“これまで積み上げてきたのは何だったのか”と、怒っても仕方ない筈だ。


「……。」


彼はまるで意に介していないように、穏やかな表情のままだ。

他のプロデューサーの様に慌てて武器を用意もしていなければ、有利な位置に移動しようともしていない。

ただ静かに腕を組み、ゴーレム達が並ぶのを眺めながら佇んでいる。


-それでは、はじめ。-


ソフィア氏の言葉を合図に、ゴーレム達がバラバラと動き出す。


「ユイ!頼む!」


「あ、え、え?

ど、どの歌歌ったら良い!?」


こりゃ駄目だ、と思わず苦笑いする。

とりあえずユイの歌が歌われる前に近くのゴーレムに飛び蹴りをお見舞いする。


<勢大、この岩巨人(ゴーレム)、特性が!!>


蹴りが当たった瞬間に理解した。

あの魔物と同じだ。

攻撃が通用するとかそういう次元ではなく、まるで“鍵が無ければ開かない”というような感覚。

“歌姫の加護”というバフがかかっている状態でないと攻撃そのものの効果がほぼ乗らない状態。


「……解ってる。」


これはやべぇ。

ユイの不安定な歌声とはいえ、アレが無いと勝負にすらならない。


「ユイ!アレだ、あの時の歌を!!」


俺の叫びを聞いて、ユイも理解したようだ。

大きく息を吸うと、あの童謡を歌いだす。


「なんだぁ?あの歌。」

「聞いた事無いけど、変な歌だな、高揚も何も感じねぇぜ。」


周囲でヒソヒソと他のプロデューサー達が噂話をしているが、そんな事は知った事じゃない。

俺には効果があるのだ。

それだけ解っていれば良い。


<効果、発生していますが……これは……。>


マキーナが言い淀むのも理解できる。

あの時と比べて、全く(・・)威力が足りない(・・・・・・・)のだ。


「……何でだ?いや、今はそれを考えていても仕方ねぇ!!」


とにかく敵を倒さねば。

効果が乗った状態なら、俺の能力は如何なく発揮出来た。

物の数分でゴーレムはバラバラの、ただの石の欠片になる。


「おっかしいなぁ……。

……これも、ユイの歌姫としての能力が不安定、って事なのかね?」


<現在の情報だけでは判断しかねますが、その可能性は高いと思わ……。>


「う、うわぁぁぁ!!」


悲鳴を聞いて振り向くと、例のコウ男爵君が尻餅をついている。

どうやら、歌姫の効果が切れるまでに倒しきれなかったらしい。

ボロボロになりながらも健在のゴーレムが、その右腕を振り上げ、まさに今コウ男爵に振り下ろそうとしているところだった。

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