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異世界殺し  作者: Tetsuさん
旅の途中②
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69:揺れる心

生きている人間には不可能な角度に首が折れ曲がった少女が、虚ろな目でこちらを見上げている。


「あぁ……、やっちまったな。」


一応、マキーナを起動し右目を開ける。

そこには、首が折れたパペットマンが倒れている。

“あぁ良かった、やっぱり人間じゃなかった”

そう思い安堵する自分と、そう安堵した自分を気持ち悪く思う自分がいる。


その思いが、改めてあの自称神様の少年に怒りが向かう。

何が神への叛意だ。

自分で勝手に選んで転生させて、転生者が自分の思惑を越えて好き放題始めたら、刺客送り込んで回収か。

馬鹿じゃねぇか、んなモンそれこそ死ぬまでほっとけって話だ。

それで世界が滅ぼうが何しようが、別に痛くも痒くもねぇだろうが。

仮に何か負債を追うにせよ、それが手前ェの責任だろうが。


心の中で悪態をつくが、それはただの現実逃避だと思い直す。


何回だろうと何十回だろうと、人、或いは人の形をしたモノを殺すのは、やっぱり心にくる。


『……疲れたなぁ。』


ここ最近、変な転生者ばかりだったからな。

次に転送されたら、少しのんびりするのも悪くはないか。



“行ってらっしゃい、気を付けてね。”

“勢大、次はいつこっちに帰ってくる?”



脳裏に妻と、そして年老いた母の声が響く。

これは呪いか、それとも俺自身に残された記憶の、必死の抵抗か。


ダメだ、前へ進まないと。

帰らなければ。


『マキーナ、コイツの装備をハッキングして使えるように出来ないか?』


<ハッキング、開始します。>


倒れている少女の装備から、手足の装備と背中のブースターユニットを外す。

流石にこの紐みたいな水着は、俺は着けられないな。

それこそガチのヘンタイだ。



……いや、インパクト的にはありか?



いや待て、ここはグッと堪えて止めておくんだ。

幾ら何でもこの亡骸を裸にするのは倫理上宜しくないし、40を越えたオッサンの紐ビキニは、恐らく男子であろうこの世界の転生者の教育上、よろしくない。

違う世界に目覚めさせてしまうかも知れないしな。


そういや、あの種を付ける感じの紳士は元気だろうか。

きっと今も、男の娘に囲まれていることだろう。


<ハッキング、完了しました。

後、気持ちの悪いことを考えないで下さい。>


何を言う、若い頃は海パン一丁で宴会芸やってた俺だぞ?

今更恥も何もあるものか。

大事なのはインパクトだ。


様々な世界をくぐり抜けていく内に、マキーナは色々と進化していた。

気付けばシステム音声が流暢になり、今では言葉を介さずに意思疎通が取れるまでになっていた。

今ではこんな軽口を叩く、良い相棒にまで進化している。


<ユニット回収、解析……完了しました。>


両手で持っていたパーツが吸い込まれ、そしてマキーナの追加装備として各部位に復元される。


『おぉ、何か格好良くなったな。』


ロボアニメ中盤で、主役機に何かゴテゴテ付いてパワーアップするみたいな感じだ。

まぁ、この装備が使えるのもこの世界だけだと思うと、少し寂しくあるが。


<この世界の技術を解析しました。>


この少女を倒してしまったのは不慮の事故だが、結果として色々なことがショートカット出来た。

この世界で知ろうとしていたことは知れた。

なら、サッサとご対面と行こう。


意識を上に向けると、ブースターが点火し体が浮く。

両肩の小型ブースターも点火しているが、まるで熱くない。

面白い技術だと思いながら、武器屋の屋根から空へ上がる。


街並みは変わらない。

俺に驚く様子もなければ気にする様子もない。


結局ここは“主役を楽しませるための舞台装置”なのだろう。

世界観もなければ生きてもいない。


語ることの少ない、薄っぺらい世界だ。


周囲を見れば王城が見える。

モチーフはフランスのシャンボールだったか。

いつか何処かの転生者が言っていたな。

あいつ、建築を自慢げに話していたが、俺から見ればいつもの同じ王城なんだよなぁ。

座標を意識し、そちらに向けて飛ぶ。

案の定、すぐに白い世界を通過することになった。


『移動シーンもつまらないからカット、って訳か。』


王城中心の一際高い建物、その中腹から少し上。

いつもの玉座の間(・・・・・・・・)めがけて、壁を突き破る。


『よう、見てたかい?遊びに来たぜ。』


そう言えば俺は、結構な頻度で壁をぶち破って登場している。

いかんな、今度また似たようなシチュエーションになったら普通に登城してみるか。


玉座の間には、まだ声変わりもしていなさそうな少年が王冠を被り、分厚そうなマントを着けて……先程の彼女と同じ様な半裸の女の子達に囲まれて慰められていた。


「あぁ、泣かないでマスター。」

「メイの仇は私達が必ず。」

「さぁ、いつものように抱擁してあげますね。」


いやー、他人様の情事は気持ち悪い。

マジで見たくない。

言うなれば強制賢者モードだ。


『ノックしてもしもーし。目の前にオジサンが来てますよー。』


「お、お前がメイを!!よくも!!よくも!!」


想像通り、声変わりもしていない高い声で、転生者の王様が鬼の形相で叫ぶ。


『……大事な存在ならば、単独で向かわせるべきではなかったな。

なんなら、お前も一緒に出向くべきだったと思うぜ。』


「お、俺には王としての勤めがある!

盗賊一人に出向いていられるか!」


ほう、“勤め”ときたか。

少しだけ興味が湧いた。


『なら王様、日中は何のお仕事を?』


俺の言葉に、胸を張って玉座に座り直す。

子供が座るソレは、酷く滑稽な画だ。


「王様だからな、ここで控えて、部下の報告を聞いて指図するのが仕事だ!」


『どんな報告を?』


「部下がやってきたことの結果だ!

ソレを聞いて、次の指示を飛ばすんだ!

今は帝国との戦争で忙しいんだ!」


うーん、何とも綿菓子のようにフワッと感満載だなぁ。


『国政はどういう方針で?部下には何を任せているので?帝国との争いの根源は一体何です?』


子供らしく、顔を真っ赤にして震えている。


「うるさい!俺は神に認められた、秘められた力を持つ英雄なんだぞ!俺が力を押さえている間に謝れ!こうべを垂れて赦しを乞え!

そうじゃないと、俺の隠された力を見ることになるぞ!」


こいつは素晴らしい。

お花畑もここまで育てばむしろ立派だ。

馬鹿馬鹿しくなってきた。

俺はマキーナを解除し元のスーツ姿に戻る。

左腕の重みが急に消えるので、少し右によろめく。


それでも、腰のベルトに突っ込んでいたピースメーカーを取り出す。


「フン!よりによって銃使い(ガンスリンガー)クラスとはな!

良いことを教えておいてやる。

銃はな、どんなにスキルを伸ばしても強さが銃に依存しているから、俺達の様な上位レベルの存在には通用しない屑武器だ!

それならまだ、弓の方が俺達に通じたのにな!」


「ご主人様、ここは私が。」


王様の隣に控えていた巨乳美女が前に出る。

王様は俺が選んだ武器が想像と違ったからか、興味を無くした様に“お前に任せる、メイの仇を取ってやれ”と言っていた。


何故、この手の奴等は自信過剰なんだろう。

まぁいい、授業料を払って貰おうか。


銃を手に持ち、気分は西部劇だ。

心の何処かで、“たまにはこう言うのも悪くない”と思っていた。

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