表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界殺し  作者: Tetsuさん
偶像の光
697/831

696:歌姫登竜門

「……で、これどういう状況なん?」


ピンク色のジャージに着替えたユイがストレッチしているのを、俺はただ眺めていたが、あまりにも気になりすぎて思わず質問する。

ついでに言えば、俺も黒いジャージ姿だ。

あのソフィア氏との対談後、数日して呼び出されたかと思うと目隠しをされて馬車に乗り、よくわからない部屋に通されて衣服を着替えさせられた。

その後また別室というか、薄暗くて先の見通せないような空間に連れてこられて、そこでユイとこうして鉢合わせになったのだ。



「え?だから、この間ソフィア様が言ってたじゃん。

特訓でしょ?

アタシも詳しい内容はどういうのか教えてもらえなかったけどさ。

何でも、“歌姫とプロデューサーの絆があれば大丈夫”らしいよ?

なら、アタシとセーダイさんなら大丈夫だね!」


どこから来るのその自信?

お前とは、この間一緒に魔物退治をしただけだろうが。

そんな考えが頭をよぎるが、確かにあの魔物退治の時にこいつ(ユイ)の歌があったのも事実だし、あの時は通常モードに変身していなくてもそれ以上の制限解放が出来たのも事実だ。

こういうのはもしかしたら、長い時間かけて積み上げるものというよりも、フィーリングが大事なのかも知れない。


「それに、セーダイさん強そうじゃん?

何かあっても、まぁセーダイさんなら大丈夫でしょ!!」


前言撤回。

コイツ、完全に俺に頼り切ってやがる。

どうやら他にも何か教師に言われていたらしいが、それ以外は完全に忘れた……と言うよりは覚えていない、との事だ。


「しかし、何でこんなに人がいるんだ?

バディ制ってのは、俺達だけじゃないのか?」


“さぁ?”と返すユイを睨むが、あまり意味をなさないだろうと諦めて周りを見る。

俺がユイと会ってから続々と、同じ様な姿の男女がこの場所に現れていた。

ただ、他の男女は状況を理解しているのか、やや緊張した面持ちながらそれぞれに柔軟体操をしていたりする。


「マキーナはどう思う?」


<女性側はユイと同じような歌姫、そして男性側は貴族なのではないかと推定されます。

年齢に統一性は無さそうですが、体型や健康状態を推測するに、一般市民よりは良い栄養状態にあると推定されます。>


マキーナに言われて改めて見れば、確かに俺と同じくらいか少し年上そうな奴もいれば、まだ10代くらいではないかという奴もいる。

ただ、マキーナの言う通りどの男性も肌艶は良い。

太っちょから筋肉質な奴、細身な奴まで勢揃いだが、健康状態は一般市民よりは良さそうだ。


-皆様!よくぞお集まりくださいました!-


魔法によって拡大された声が室内に響き渡る。

その声と共に上の方に光が見え、見上げるとソフィア氏と複数人の男女がこちらを見下ろしていた。


-今回、事前にお伝えした通り、お集まりいただいた20組の中から最上位のペアを当歌姫ギルドからデビューのバックアップを大々的にさせていただきます。-

-また、その他に上位4組までの活動斡旋もさせていただきます。-


周囲の奴等から、“おぉ”というどよめきが起きる。

俺はそれを聞きながらも、“上位”と言う事は、何か試験的なモノが始まるんだろうな、とぼんやり思う。


-これより、上位を選抜するための試験を行います。-

-この試験は、歌姫の実力とプロデューサーの絆を試すものとなります。-

-この試験において、皆様が事前に同意書にサイン頂いたように“命を落とす危険”もございます。-

-もし、現時点で棄権なさりたい方がいらっしゃるのであれば、それを認めます。-


あ、あの書類か!?と、俺は思い出す。

ここに通される前に、“今回の特訓依頼を受けていただくため、報酬同意のためにサインを”と言われたから何気なくサインしたが、アレそういう事も書いてあったのか!?


くそ、騙された。

もっとちゃんと文章を読んでからサインするべきだった。


<それは普通に確認していない勢大の落ち度だと思いますが?>


あー、マキーナ言った!今一番言っちゃいけないこと言った!!

ハイ傷付きましたー、僕もうテンションダダ下がりですー!!


<アホな事言ってないで状況に集中してください。>


マキーナに呆れられ、俺の心の声までは聞こえないユイがマキーナのツッコミに?マークを浮かべている。


-それでは、どなたも最終同意が済んだと言う事で試験を開始させて頂きます。-

-第一の試験は、プロデューサーにこの橋を渡って頂きます。-


薄暗かった室内が明るくなり、見通せなかった先が見える。

視線の先には、幅10センチも無いだろうか?

細い線のように見える板が、俺達の立っている場所から遥か先の断崖にまで続いている。

それと同時に、魔法で保護されていたのか、透明な膜がスルスルと上がっていく。

その膜がなくなった途端、ごう、という強い風に体がよろけた。


-この橋の上では、プロデューサーは魔法は使えません。-

-体を固定させるのは、歌姫の補助のみとなります。-


そのアナウンスが流れた途端、周囲の男達がざわつき始める。

それまで皆一様に緊張しながらも何処か余裕ありげだったが、“自分の魔法は使えない”と分かった途端にざわつき出したのだ。


俺はそっと橋の下を覗いたが、そこは魔法なのか物理的なのか、地面が見えない程の暗闇が広がり、そして強い風が巻き上がっていた。


「そ、そんな!こんな危険な試験があるなんて聞いていないぞ!!」

「そうだそうだ、しかも私達の魔法を禁じるとはどう言う事だ!!」

「こ、こんな危険な試験で命を落としたらどうするのだ!私を誰だと心得ているのだ!!」


男性陣の数名が騒いでいるが、見上げたソフィア氏は涼しい顔のままだ。


-書類にも、そして先程も申し上げました。-

-“命を落とす危険もございます”と。-

-皆様がそれぞれ信頼されている歌姫の力を借り、共にこの難局を乗り越えるのです。-

-そして歌姫の皆さん、あなた方に、今プロデューサーの命が握られているのです。-

-あなた方の行い次第で、あなたは人を殺める事になるのです。-


少しだけ、なるほどなぁ、と思ってしまう。

これが実戦なら、“戦うのは俺達で、守るのは歌姫”だ。

つまり、臆病者では前を張れないし、歌姫の加護が無ければ戦えない。

そういった意味も込められているのだろう。

ただ。


ちらりと男達を見る。

ソフィア氏に暴言を吐き続ける者。

“絶対にしくじるな”と歌姫を脅している者。

そしてプレッシャーを感じて泣き出す歌姫。


なんとも、波乱の幕開けとなりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ