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異世界殺し  作者: Tetsuさん
偶像の光
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691:歌姫、考え中

真剣な瞳で、まっすぐにこちらを見上げる少女の目の圧に耐えられず、思わず俺は目をそらす。


この世界で歌姫(ディーヴァ)とは、14歳を迎えた少女達が近くにある教会等で判定され、“才能あり”と認められると名乗る事を許される職業だ。

ただ、歌姫の能力には個人差がある。

初めから強い力を発現する者、最初は微弱だが、その後の訓練で強くなる者、そして微弱のまま、或いは訓練したとしてもそこまで伸びない者。

最初から強い力を発現する者はかなり希少で、それこそ数十年に1人というレベルの逸材だ。

かつて魔物のボスを倒した時には過去最高の歌姫がいたと言われ、その歌姫は国からも“聖女”と認定された程だという。

それほど、初めから強い力を持った者は現れない。

だから皆、国家認定の養成所に入り訓練をする。

とは言えそうして養成所を経て強い力を得る歌姫も、やはり一握りだという話だ。

あれこれ調べたりマキーナからの推測も合わせると、100人いたら歌姫の素質を持つ者は30人くらい、その中でも初めから強い力を持つ者は1〜2人、養成所を経て強くなる者は10人いれば良い方、というイメージだろうか。

それらの上位陣は国も手厚く保護し、好待遇だと聞く。

しかし残りの18〜19人は、素質があっても大して伸びる事は無く、国からの支援も歌姫認定以外は殆ど無いに等しいため、こうして地方の雑用で食っているらしい。


「あー、まぁアレだ、たまたまだったんじゃないか?

俺はな、こう見えて結構強いんだ。

さっきの魔物も、倒せないまでも逃げ出すくらいは出来そうだったからな。」


無理矢理ごまかそうとしてみるが、ジト目のまま俺を見ていたユイは、何かを思いついた様に一瞬目を開くと、すぐに元の表情に戻っていた。


「そーなんスね、まぁ、それならこっちにも考えがあるというか、なんというか……。

あ、ところで、この魔物どうするんスか?」


この話題への興味を失ったのか、今度は魔物の方に向き直り、その大きさに感心して目を輝かせている。

やれやれ、コロコロと表情の変わるヤツだ。


「そうだなぁ、この魔物の討伐証明がどこだか解らねぇし、それに証明部位を持っていってもしらを切られたら面倒だな。

……持って帰るか。」


「え?こんな大きくて重そうなのに?

そんなん人間の出来る事じゃな……。」


よっこいしょ、と掛け声をかけながら、俺は魔物を担いで持ち上げる。

担ぐと言っても胴体の下から持ち上げているだけで、力なく垂れ下がった脚はそのまま引きずる事になるが仕方ない。

これ、脚の部位が良い素材になるんだったら減額されるだろうなぁ、と思いながらもそのまま歩きだす。


「何してるんだ?行くぞ。」


「う、うッス。」


何故か引いているユイに声をかけ、俺は村まで戻る。

“あまりこういう光景を見慣れていないのかな?”とは思ったが、先程の話題が消えてくれるならそれも良いだろうと足早に村へ向かっていた。




村長の家の前にワザと大きな音を立てるように投げ捨てると、家から慌てて村長が飛び出してきて、そして魔物の死骸を見て腰を抜かしていた。


「アワワワワ……ホントに魔物……。」


腰が抜けている村長に、冷たく見下ろす俺。

そして何故か、ニヤニヤとした悪い笑顔をしているユイが、村長の近くにしゃがみ込む。


「へっへっへ、村長さぁ〜ん、ちゃんと魔物がいたッスねぇ〜。

アタシとセーダイさんじゃなかったら、倒すどころかこの村にも被害が出ていたッスよぉ〜?

こぉれは高くつきますねぇ〜。

何せアタシが歌姫(ディーヴァ)の力を使って、必死に守ったんスからぁ〜。」


お前はどこの悪役の三下だ、と言いそうになったが、ここはあえてツッコミを入れないでおく。

歌姫(ディーヴァ)の力を使った”という言葉の意味は大きい。

それはつまり、“国家認定の歌姫が魔物と認めた”という事と同義だからだ。


「お、お支払いしますから!か、必ず、何年かけてでも……!!」


まぁ、ここまで脅せばもういいか、という気持ちが湧く。


「マキーナ、討伐証明の部位を確認しておいてくれ。

……あー、村長さんよ、俺達はここで魔物を倒した、というその事を部位証明とアンタの証言で証明してくれりゃそれで良い。

この魔物、多分売ればそれなりに金になるよな?

そこから組合への支払いに充ててくれ。」


「え〜、初の魔物討伐記念なのに、持って帰らないんスか?」


不服そうなユイをあしらい、村長と話をつける。

気軽に呼んでもらって“ただの獣でしたー”も困るが、かと言って今回の経験から呼ぶのを躊躇って村が全滅してもらってもマズイ。

今回のこれを前例に、というのも嫌な予感がするが、正直なところ“このクラスの魔物を倒せる冒険者”が金に困っているとは考えづらい。

多分俺と同じような判断を下すだろう。


<勢大、この村の冒険者組合出張所にあるパンフレットからデータにアクセスが出来ました。

この魔物の名称は“ボア・スパイダー”。

証明のために持ち帰る部位は牙と脚の一部分、の様です。

ただ、出張所では証明機能は無いらしく、街まで戻る必要がありそうです。>


マキーナも面白いところからアクセスしたな、と思ったが、聞けばあのパンフレット、魔法科学制御がなされているらしく、ギルド本部へのデータベースにもアクセス出来る、と言う事だ。


「なるほどなぁ、それなら街に戻った時にでも、ついでにパンフレットも一部持っていた方が良いかも知れんな。」


<いえ、インストールしました。

いつでもこのように呼び出す事も出来ます。>


-やぁ、ボクは冒険者ギルドのマスコットキャラクター、“ハロークエスト江戸川”だよ!

気さくに“江戸川君”って読んでね!

あぁ、待って!まだ切らな……-


うるさいからもういい、とマキーナに伝えると、マスコットは何か言おうとしていた瞬間に切断される。

ともあれ、これでもう現地で剥ぎ取る部位には悩まなくて良さそうだ。


「さて、それじゃあ後は街に戻って、討伐証明して報酬受け取って終わりだな。

そこでおしまいだが、何にせよ助かった。

お前の歌姫の力とやら、これから開花すると良いな。」


「……そう、ッスね。」


そっぽを向いたままのそっけない返事に、俺は“余計な事を言っちまったかな?”とチラと思う。

確か3〜4年くらいこういう体験をしているという事だったはずだ。

と言う事は、この子も“成長の見込みなし”としてこういう役回りになっているのかも知れん。

だとしたら余計な事を言っちまった、帰りの馬車の中が気不味いなぁ、と、俺は自分の失言を早くも後悔していた。

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