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異世界殺し  作者: Tetsuさん
旅の途中⑪
681/831

680:正論と感情

「どぉ言う事なんだよオォイ!!

いるんだろギルド長ぉ!!」


受付嬢からいくら説明を受けても理解できなかった俺は、冒険者ギルド長のいるオフィス……と言う名の個室の扉を乱暴に開ける。


ギルド長は物静かな狐の獣人で、何度かギルド内でも見かけたし、口癖は“何かあったらすぐに私に相談してくださいね”だった。

なら、その口癖通りに突撃してやろう、と思い立って実行してみた。

正直なところ、状況は意外で不思議な事が起きているが、この程度で精神を乱すほどでもない。

仮に冒険者の資格を剥奪されたとしても、勝手に魔獣を探して狩り、安くはなるが闇ルートで売り捌けば路銀は手に入る。

この手の世界は裏のツテが山程蔓延っているからな。

ただ、それでお尋ね者になるとまたデメリットも出てくる。

極力正規の手段で資金稼ぎはした方が良いに決まっている。


しかしそんな余裕な態度でギルド長に会いに行った所で、冷静に理詰めでかわされ話が終わってしまいかねない。

こういう理詰めで話をする事を得意とする相手が一番嫌がるのは、感情を強く見せた相手との交渉だ。

だからこそ、(てい)として怒鳴り込んで来たように見せるのも手だと思ったのだ。


「おや、セーダイさん。

今日はどういうご要件で?」


ぶち破るような勢いで扉を開けると、狐顔のギルド長が普段と変わらぬ様な空気を装いながら、目を通していた書類から目を上げてこちらを見る。


「“どういうご要件で?”じゃねぇよ!!

何だこの重量規定って奴は!?

冒険者がブクブク太ってデブになったって、なんの役にも立たねぇだろうがよぉ!!」


「やぁ、セーダイさん、あまりそういう言葉は使わない方が良いですね。

“体が大きな人達”の権利を不当に貶めている事になりますからね。

それに現在は王家の方針で、人間族の方は身長イコール体重が適正と認定されていますからね。

我々ギルドも、その方針へと改めて修正しただけでして。

まぁそこに座って、紅茶でもいかがです?

今、持ってこさせますから。」


ギルド長は、何でもない事のようにそう言うと、手元の魔法石に魔力を込めると他の職員に声をかける。

紅茶を持ってくるように連絡をしているが、アレは警戒態勢の連絡でもあるのだろうな、とチラと思う。


しかし怒っているフリをしながら聞いていても、心の中ではなるほどと思ってしまう。

そう、この世界は何故か健康志向やら何やら、変な所の規定が細かいのだ。

しかもそれはやたらと人間族に多い。

意味は解らないし同意もしたくない所だが、“ギルドとしても上……つまりは王家から言われて機械的に対応している”というエクスキューズを用意しているのだろう。

この怒っているフリをしていなければ、既に言いくるめられてしまっていたかもしれない。


「いやいやいや、何でそこで“ハイそうですか”と対応しているんだよ!!

身長と体重が同じ奴なんて、よっぽど鍛えてなけりゃ魔獣退治でお荷物どころか餌にしかならねぇだろうが!!」


「……主観の相違ですね、セーダイさん。

人間族は何というか、別種族から見ても脆い(・・)ですからね、無理して魔獣退治などやる事ではなく、街の清掃や修繕など、他のお仕事をしてもらう方法もありますし。

まぁ、適材適所と言う言葉もございますし。

我々としても、この国のギルドである以上は方針には従いませんと。

逆に、セーダイさんのような痩せた方の方が国の方針に従ってないと言う見方も出来ますよ?

この国に住むなら、この国の方針があるじゃないですか?」


“この国が嫌なら出ていけばいい”

言外にそれを匂わせる。

正しい言葉だろう。

正論なのだろう。

ただ、そう出来ない人間だって多い。

別にこの世界に定住する気はないが、その物言いにはあまりに理不尽さを感じる。


「……それに、国の方針に従えば補助も出るもんなぁ?」


俺の言葉に、一瞬ギルド長が険しく、そして不快感を顕にした顔つきになる。

だが、俺に気付かれたと感づいたのか、平静を装う。


「……セーダイさん、私達は半分は国家からの支援を得てこのギルドを回しています。

その我々が、国家の方針に逆らえるとお思いですか?

ちゃんとお国の方針に従い、そして従っているからこそお国も我々に補助をしてくれるのです。

第一、この国のトップ、王家の方々もあなたと同じ人間族の方ではございませんか?

同じ人間族の方が決めた事ですので、私のような狐獣人からしてみれば、皆様ご納得していらっしゃると思っていましたよ。」


イヤらしい言い回しだなぁ、と心の中で思う。

ここで俺が迂闊な表現で方針に文句を言えば、王家への不敬罪を突きつけてくる筈だ。

そしてこの世界では種族の権利意識も妙に高い。

ギルド長の種族に関して何か言えば獣人族への差別として攻撃する理由を見つけるだろう。


「うるせぇ!そんな事言ってるんじゃねぇよ!!

何でそれがいきなり適応されてるのかって言ってるんだよ!!」


入口すぐに置いてある来客用のソファーとテーブル、それを蹴りつつ怒りをアピールする。


ただ、これは少しやりすぎてしまったようだ。

軽く蹴ったつもりがテーブルが傾き、そこに置いてあった灰皿や小物が倒れて床に落ちてしまう。


「冒険者セーダイ、そこまでです。」


開け放してあった扉から複数人の職員が飛び出してきて、俺を取り押さえて床に叩きつける。

別段痛みもないが、これ以上話していてもこれ以上の情報は出無さそうだな、と思っていた所だ。

ある意味で丁度いいからこのまま大人しく取り押さえられておく。


そんな俺の姿を見て安心したのか、ギルド長はゆっくりと席から立ち上がると俺に近づき、ため息をつきながら見下ろす。


「えぇ、なので猶予期間としてデブ活……あぁいや、これは失言でしたな、“体重増加プログラム”をギルドでも実施するのですよ。

費用の点はご安心ください、全て王家持ち、それどころかプログラム参加者1人につき報奨金まで出る厚遇さなので、冒険者ギルドとしても是非参加して頂きたい所ですね。

そんなやせっぽちでは、大した力も発揮できないでしょう?

ブクブク肥えて、デブしかいない人間族なぞドブ掃除でもしているのがお似合いですよ、……おっと、これも失言でしたな、ククク。」


コイツ、優位に立つとペラペラ喋るタイプだったか。

でも良かった、色々理解できた。


(マキーナ、今の状況で王城に乗り込む事は可能か?)


<勢大は困ると大体それですね。

……実行は可能ですが、無駄にエネルギーを消費するような気もしますが。>


とはいえ、やらなきゃ始まらん。

ギルドの入り口から叩き出されながらも、俺は王城への侵入計画を練り始めていた。

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