673:一騎打ち
「へっ、周回プレイとはまた、随分イカれた遊びをしてやがるじゃねぇか?あぁ!?」
叫びながら木の陰に隠れ、ライフルのボルトを引いて排莢、そこに新しい弾丸をこめる。
「イカれた遊びに行く?フン、お前にはそう見えるのか、この俺が!!」
銃を撃とうと顔を出しかけた所を、周囲の大気を引き裂くような破裂音が立て続けに響き、俺が隠れている木の皮が弾ける。
「だが、“周回プレイ”というこの言葉に反応し、ましてや“イカれた遊び”等と即座に理解してみせるところ、やはりお前はイレギュラーの様だな?
お前は何だ?
俺と同じ転生者なのか?それともこの世界が生み出した鍵か何かなのか?」
喋りながらも、アケチは足だけで巧みに馬を操り回り込もうと駆けてくる。
その間に手早くマガジンを交換しているところを見ると、相当にこの動きに慣れてやがる。
「……へっ、そんな大層なものじゃねぇ。
俺は俺だ。
ただの何でもない普通の人間、名前は田園勢大だ。
憶えとけ、いや、別に憶えなくてもいいぞ?
どうせ俺はここから立ち去る“異邦人”なんだからな。」
「異邦人……なるほど、あの何とかハジメと言う奴と、お前は同じという事か。
どうにもおかしいと思ってはいた。
あの、最初の出会いの時からな!!」
やれやれ、どうやらこの世界にもご同業の輩は現れていたらしい。
アイツの名前は何だっけか、まぁとにかく、その“何とかハジメ”とかいう奴が現れた世界は、大抵一筋縄じゃいかない事が多すぎる。
少し前にも、アイツに性転換させられて男の慰み物になっていた奴を助ける時も、相当に苦労した。
この世界でも、何か悪さはしていると見るべきだろう。
そんな事を思いながらもライフルを馬に向けて撃ち込む。
昔から“将を射んと欲すれば先ず馬を射よ”ということわざもあるくらいだ。
この森林で、あの機動力は非常に厄介だ。
あちらは縦横無尽に動き回り射撃ポイントを変えられるが、こちらはそんなに早くは動けない。
ここが森林でなければ、あっという間に勝負はついている。
そう考えて弾を放っても、馬につけられた鎧で簡単に弾丸が弾き返される。
野郎、馬にもそれなりに良い馬鎧をつけているらしい。
ますます倒すのが面倒になってきやがる。
「ハッハッハ、無駄無駄。
この鎧は事前に手に入る隠しアイテムだ。
アケチでプレイするなら、必須と言っていいアイテムだよ。」
「へぇ、その口ぶりじゃ、お前はアケチですらもなくて、色んな武将になってこの世界を何周もしてるのか?」
また顔を出すと大量に吐き出される弾丸の雨が俺を襲う。
そろそろこの潜れている木もボロボロで、今にも銃弾が突き抜けてきそうだ。
「そうだ!“今がアケチ”というだけで、別にこの人生に興味などない!!
でもここに転生した時に、あの老人は約束してくれた!!
“全ての武将でクリアする事が出来たら、元の世界に生き返らせてやる”と!!
だがアケチ編が何度やっても何故かクリア出来ん!!
教えろ!どうやったら俺はヒデヨシに殺されずに済むんだ!?」
“俺が知るかよ”と思いつつも、別の木の根元に転がりながら移動する。
怒りに任せてなのか、次のマシンガンの斉射は精度を欠いていたため、ギリギリで回避が間に合った。
俺に狙いをつけて撃ったと言うよりは、おれを含めて周囲を薙ぎ払って怒りをぶつけた、と言う所だろうか。
それにしても、まさか元の世界に戻る事を夢見てこの異世界を生き抜いている奴がいるとは思わなかった。
ただ、今まで無数の転生者を見てきたが、あの神を自称する存在が約束を守って元の世界に戻しているのかは解らない。
そういう奴とは当然会わないだろうからな。
ただ、その約束を果たせずに苦しんでいる奴は無数に見てきた。
そう言うやつから話を聞いていて、いつも違和感を感じることがある。
この、“現在アケチの彼”も同じ事を言っている。
“何故か解らないけどクリア出来ない”
皆、全く同じ事を口にするのだ。
対戦格闘ゲームの世界では、“自分が一番得意としているキャラに転生したのにライバルでも何でもない対戦相手に負けて殺されてしまう”とか言っていた。
特殊部隊の一員となるFPSの世界の奴は、“こんな難易度ではない筈のステージで必ずヘッドショットされる”と言っていた。
その場にあるものでクラフトして生活する世界に転生した奴も、“本来なら別世界に行くためのゲートが作れるはずなのに、どうやっても作れない”と悩んでいた。
そしてこの男。
“アケチが何故かクリア出来ない”
と呟くこの男。
俺はそこに、違和感を感じずにはいられない。
“あの神を自称する存在は、本当はクリア報酬など誰にも渡していないのではないか?”
という違和感。
「……な、なぁ、ちょっと、一回休戦しねぇか?
もしかしたらよ、俺達ちゃんと腹割って話せば、実は良い答えが出てくるかもしれねぇぜ?」
少しの静寂。
木々が揺れ、葉と葉が擦れる爽やかな音だけが周囲に流れる。
いなくなったのか、それとも考えている最中なのか。
あまりの静けさに、俺はそっと顔を出す。
「な、なぁ、俺達協力しあ……!?」
ゆっくり木の影から体を出し、声を掛けようとした次の瞬間、連続で火薬が爆ぜる音がし、腹部に殴られたような衝撃が走る。
「グフッ!?て、テメェ……。」
アケチは、静かに俺を狙ったままだった。
交渉は良い方向に進んでいると思い込んでいた、これは俺のミスという事か……。
「ククク……、別に信じてやってもいいがね。
私はこの世界を熟知しているんだ。
隠しアイテムの位置からどのタイミングで誰と何を交渉すれば最良の結果になるか、もね。
だから、そんな私を納得させたいなら、お前ももっとできる事を示してもらいたいねぇ。
私以上の知識か、私よりもこのゲームが上手くて強いか。
何でも良い、出来るならやって見せてくれ。」
「な、なるほどな……。
つ、つまりは、お前ブッ倒して言う事きかせりゃ良いわけだな!」
俺は、腹の傷に包帯を巻きながら、出来る限りの大声でアケチに叫ぶ。
ここに来て、ようやくだ、と思う。
ようやく話がシンプルになってくれた。
ようやく、コイツを半殺しにして言うこと聞かせりゃ何とかなる所まで来た。
フラつく膝に力を入れて、背中にもたれた木を伝って立ち上がる。
ワザと聞こえるように大きくボルトを引き起こし、弾丸を再装填する。
「それなら簡単だ。
ぶっ殺してやるから、簡単に死ぬんじゃねぇぞ?」
強がってはみたものの、どうするか。
俺は銃弾の雨をかいくぐりながら必死に頭を巡らせていた。
失礼しました……。
休日前の投稿は、投稿前に寝ちゃうんですよねぇ……。




