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異世界殺し  作者: Tetsuさん
争乱の光
671/831

670:正義は我にあり

「ミツヒデ・アケチの代理として、タケイダ家軍勢に申し上げる!!」


アケチの代理として、歩兵隊の千人将の一人が合戦場の中央で書面を広げ、声を張り上げている。

こちらの兵士達は、特にざわめきもせず、静かにそれを見守っている。

敵対する相手側からは、笑い声ややじのようなものが飛んで来ているのが聞こえる。


“臆病者”

“姿を見せろ”

“代理じゃなくて本人が来い”

“そんなんじゃ部下は誰も着いてこないぞ”

“ビビってる?もしかしてビビってらっしゃる?”

“髪も薄けりゃ人望も薄いのかぁ?”


等々、中々に痛いところをついてくるなぁと思いながら聞き流す。

ってか段々後半になると中々良い所をついているし、向こうも悪乗りして楽しんでいる気がするな。

ただ、周囲の兵達は意外に効いているようで、見れば皆悔しそうに歯を食いしばっている。


いや、こっちもこっちで煽られ慣れて無さ過ぎかい。


イカンな、そんな事では大手掲示板では生きていけないぞ、等と言う言葉が頭に浮かぶが、そもそもそんな掲示板はこの世界に無いから考えても無駄だったか。

この世界、変なヤンキーみたいな世界だからなぁ……。

ある程度ヤジが収まったところで、また代理の将軍が手に持った書面を見えるように高々と掲げ、息を大きく吸い込む。

まぁ流石に代理を任されているだけあって、この程度のヤジには動じて無いようで安心する。


「我、ミツヒデ・アケチは中央に確認を取り、中央遺失技術補完管理局からも“コーシューはオーダにより管理すべし”の書状を、この通り得ている!!」


この言葉に、タケイダの軍勢だけではなく、周囲の兵士達からもどよめきが起きる。


中央遺失技術補完管理局というのは、いつかの祝勝会でオーダが言っていた“中央の老人ども”という言葉に繋がる。

俺のようにさして立場の高くない人間には全く縁もなく、それこそこの世界でその名前をちゃんと聞いたのはこれが初めてだ。

ただ、噂話では未だに高水準の戦力を保有しており、生半可な戦力ではまるで歯が立たないレベルだ、という事だ。


「やりますね、これでタケイダ側は改めて“中央から見ても敵性勢力”としても認定されてしまった訳ですね。」


「……どういうことだ?

あの、中央なんたらってのは、そんなに権限があるのか?」


今イチ俺は解っていなかったが、どうやら側近は知っているらしい。

驚いたような、やや興奮しているような顔つきをしている。


「もちろんですよ!

この国で各地を治めている総大将でも、中央からの発言は無視できません。

中央が遺失技術を管理しているからこそ、ガッセン粒子の流出がこの程度で抑えられている、という話ですから。

その中央から“敵だ”とハッキリした回答を貰ったという事は、完全にタケイダ家は後ろ盾を失ったという事。

今から弁解に行こうにもこうして取り囲まれている訳ですから。

彼等に出来るとしたら、この戦いに勝って中央に向かうしかないわけですが、勝つための援軍は、先程の中央からの発言で期待できなくなった訳なんですよ。」


そうなのか、と理解すると共に、若干怪しいものも感じていた。

いや、この状況に対して疑問は持っていない。

要は、アケチの根回しによってオーダの侵攻は正しいモノであり、タケイダが今だに抗戦している事は悪であると、第三者から太鼓判を押されてしまったようなものだ。

実際、先程までのヤジは鳴りを潜め、タケイダ側の陣地は驚くほどの静寂が広がっていて、その動揺がよく解る。


恐らくは進軍する途中でこの根回しの為に別行動を取り、中央で許可を貰い書面だけ優先で代理の人間に渡したのだろうと想像がつく。

流石に“許可もらったんでハイサヨナラ”という訳には行かない。

だから、“許可を貰えた”という事実を先に代理の人間に届けたのだろうと理解が出来る。


ここまでは見事だ。

なるほど、戦場に本人がいなくても凄さを見せつける、というのもある意味で転生者らしい。


ただ、俺が怪しいと思ったのは先程側近が言っていた“ガッセン粒子の制御”だ。

抑え込んでいるからこの程度、とは言うが、実際は放出している量をその中央なんたらが管理しているのではないか、という疑問が湧いてしまう。


事象だけを考えるなら、ソコと話をつけられるアケチは、確かに有能なのだろう。

実際、オーダはそこを毛嫌いしているような節がある。

いずれは倒すと言うような事をチラホラ漏らしているのだから当然だろう。

ただ、その部下であるアケチが短時間で書状を引き出しているのは何故なのか、それがどんなに考えていてもまるで解らない。


「鉄砲隊、前へ!!」


「フジーラ殿、行きませんと。」


考え事をしている最中に掛け声が聞こえる。

側近にも言われて、俺も慌てて号令を出すと前に進む。


とりあえず今は考えていても仕方ない。

この戦いを乗り越えなければならない。

俺の号令により、鉄砲隊は敵陣地に一斉射を加える。

相手は既に及び腰になってしまったのか、こちらへ届く矢の数が随分と少ない。

殆どが俺達に届かずに、戦場に力尽きるように突き刺さっている。


「敵の戦意は薄いぞ!!

槍部隊!突撃ぃーー!!」


歩兵隊の将軍の掛け声で、歩兵達が叫びながら槍を前に出して突撃していく。

騎兵の突撃前に俺達も少しずつ前に進み、相手の弓兵や投石機を使っている奴等に狙いを定めて撃ち込んでいく。


「フジーラ殿、相手は相当効いている様ですね。

まるで手応えを感じないくらい崩れてますよ。」


側近の言葉に、俺も曖昧に頷く。

実際、先程の言葉にどれだけの威力があったのかは解らないが、相手側から開戦前まであった強い敵意や殺意のようなものを感じられない。

多分兵の数としては同じか、やや相手の方が多いように感じられる。

それでも、俺が見ているだけでも武器を持った敵兵士がそれを投げ捨てて背中を向けて走り去っていく様子が見えている。

俺達の部隊にそれを狙う奴はいないが、それでも全体で見ればごく一部だ。

次々と銃弾や矢が突き刺さり、背を向けて逃げている兵士もバタバタと倒れていく。


「これはもう、騎兵の突撃もいらなさそうだな。」


「そうですねぇ、ここまで崩れるのを見ると、かえって憐れにすら感じますね。」


側近とそんな事を話し合っていると、伝令の兵士が声を張り上げながら駆け回っているのを見かける。


「伝令!伝令ぃ!!

我軍はこれより逆賊タケイダ軍を追撃する!!

マウント・テンモクに向けて進軍すべし!繰り返す……!!」


俺はため息と共に、側近に目配せする。

側近も“やれやれ”という表情をしながら、ライフルに新しい弾を装填する。


「この森を駆け抜けながら追撃戦とは……。

荒れそうですねぇ。」


側近と俺は、タケイダの残党が走っていく森林を見ながら、同じ気持ちになっていた。

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